【ローマ帝国軍 野営地】
【ローマ帝国軍 野営地】
なんだ貴様は! ぐわっ!
貴様よくも!
ぎゃあああ!
ローマ帝国軍の拠点にしているテントに何者かが侵入してきた。
至る場所で侵入者と対峙しているローマ帝国の兵士達の悲鳴が聞こえる。
お逃げください陛下! 賊が…ぐはぁぁぁ!
鎧の男の目の前で兵士は倒れた。鎧の男はそれを涼しげな顔で見ながらワインを飲み干す。
男の前にはルシファーが立っていた。
今まで散々引き回してくれたが、ようやく会えたな。
何者だ、貴様は?
外道に語る名はない
ローマ帝国相手に一人で攻めこむとは、余程の猛者か、あるいは只の馬鹿か
鎧の男は余裕そうに賊を眺めている。ルシファーはダーインスレイブの剣先を男に向けた。
剣をとれ、その首跳ねてやる。
この余の首を取ると申すか? ハッハッハ! よいぞ! 実によい! 貴様、汚物にしては中々面白いジョークだったぞ。誉めて遣わす。
すぐに笑えなくしてやる。
これが愉快にしてなんとする、この俺の首を取るなんて産まれて初めて聞いた台詞だ。よもや余が誰だか知らぬわけはあるまい。
知らんな。生憎貴様のような下衆は覚える気もない。
その言葉にさっきまでの笑みは消え、冷たい眼でルシファーを見据える。
余を知らんと? 不埒な輩め。その罪、極刑に値する。
罰を受けるのは貴様だ。あのような蛮行、貴様は殺しても殺し尽くせない。
蛮行? もしやあの汚物のことか? クッハッハッハッハ! 貴様まさかあの出来損ないの女のことを言ってるのか!
……貴様、まさか
ああ、そうだ! 余があの女を兵士共の慰めものにしてやった、余はあやつを女にしてやったのだ。自然の摂理に従ってな。
この屑がッ!
怒りが頂点に達したルシファーは、鎧の男に斬りかかった。
何!?
だが先に斬りかかったはずのルシファーが逆に男の剣を受けていた。
ほう、汚物如きが余の一撃を止めるか。不快だな
ぐっ!
人間のくせになんて重い一撃だ。
そら! そら! そら!
くっ!?
何度も叩きつけるように剣を降り下ろす鎧の男。 それをルシファーは、ダーインスレイブで受け止め続ける。
ルシファー! ナントカシロ!
鎧の男の重い一撃にダーインスレイブは堪らずに叫ぶ。ダーインスレイブの刀身をへし折るんじゃないかと思うような猛攻だ。刀身は軋んでいた。
わかっている少し黙っていろ!
ルシファーは剣を受けたまま黒い片翼を出して、鎧の男に向けて羽根の矢を飛ばした。
なぬ!?
鎧の男は矢に怯んでルシファーから離れる。ルシファーも相手と離れたことにより冷静さを取り戻した。そして双方仕切り直しになる。
なんだ今のは?
無傷か…
鎧の男は矢を受けていたが怪我一つ負っていない。あの白い鎧がかなりの強度を誇っていたからだ。男は先程くらった時に地面に散らばった黒い羽根をまじまじと見ていた。
カラスのような黒い羽根…
そうか、お前がかの悪名高き反逆者レイヴンか。
……
ルシファーは黙ったまま、無言で鎧の男に再び斬りかかる。それを男は剣撃を合わせて互いの剣は火花をあげる。鎧の男は言った。
クックック、当たりか? 今まで誰もその顔を見たものがいないという。目撃者は皆レイヴンに殺されたからだとな。
……
ルシファーは無言のまま袈裟斬りをするが、それを袈裟斬りで合わせられ再び鍔迫り合いになる。鎧の男は言った。
こんな辺境の片田舎まで余自らが足を運んだ甲斐があったというもの。よもやレイヴンの正体その実、天使だったとはな。つくづく愉快なものよ。
……
ルシファーの繰り出した神速の連続斬り。しかし、鎧の男はそれすらも合わせてくる。違う角度からの斬撃を鎧の男は全て叩き落とした。鎧の男は言った。
一度天使とやらを殺してみたいと思っていた。毎日汚物相手に丁度辟易していたところだ。人間は掃いて捨てるほど切り刻んできたからな。
ルシファーと鎧の男は両者一歩も引かずの激戦を繰り広げていた。互いに剣撃が二人の周囲に火花を散らした。
ちょうど一足遅れてイシスが本陣に入った。
だからあんた走るの速すぎだって……え?
走ってルシファーを追いかけてきたイシスは目の前の光景を見て固まってしまった。
目の前で鎧の男の剣がルシファーの顔面を貫いていたからだ。
う、嘘…でしょ…
イシスは信じられない光景に呆然と立ち尽くす。鎧の男は笑いながらルシファーの顔に剣を深く刺し込んだ
ふん、かの有名なレイヴンと聞いて期待したのにな。所詮この程度かつまらん
ぐぬっ!
すると目の前のルシファーの身体は崩れて沢山のカラスに変わり、鎧の男から一斉に飛び散る。
カラスの群れは上空まで飛ぶと、一ヶ所に集まりだし人の形を作っていく。
上半身だけルシファーに変わり、下半身は黒いカラスの群れが飛び回っていた。ルシファーは咄嗟にダーインスレイブの力を解放していた。それを見たイシスは安堵する。
もう! 驚かせないでよね!
下で怒鳴ってるイシスを無視してルシファーは鎧の男だけを見据えていた。
そうでなくてはな。楽しませてくれる。
ケッケッケ! ウメエゼ、ルシファー!モット血ヲ飲マセロ!
10%だけだ。それ以上はやらん。
本来多用できる力ではないが、相手の予想外の強さに使わざるえなかった。
上空を見上げる鎧の男、男は空を飛んでいるルシファーを忌々しげに見ていた。
汚ならしい鴉が、その片方の翼ももいで地に落としてくれる!
そんな鎧の男を上空から眺めるルシファー。
オイ、ドウスンダ!アイツ人間二シテハ結構馬鹿力ダゾ!
そうだな、一発でも食らったら痛そうだ。
先程の剣の打ち合ってわかったが認めるしかない。剣技は向こうのほうが上だ。
研ぎ澄まされた鎧の男の剣技は人間離れしていて、ルシファーを凌駕していた。
ならば…
ルシファーは捨て身の構えを取る。
剣の腕前は自分より上でも相手は所詮人間だ。
魔剣の一太刀を浴びせれば決着はつく。幸いこの天使の身体は、痛みこそあれど人間の造りし剣では致命傷にはならない。捨て身でいけば持っている得物の違いで勝てる。
いくぞ…
ルシファーはそう思うと剣を構えて急降下した。
真っ直ぐに疾走して男に突撃する。
鎧の男は剣を両手に持ち替えて剣を引いて構える。
ルシファーは鎧の男に斬られる覚悟で突っ込んだ。
スレ違い様に斬り伏せる。そう思っていた。
血・・・だと・・・?
ルシファーの右目に一筋の血が流れおちた。
先程のか、避けきれてなかったか・・・
さっき男に顔を刺されそうになった時に負ったであろう傷だった。この程度のカスリ傷なんて問題ない。
いや待て・・・
違う、なにかがおかしい。
そもそもなんで俺は怪我をしているんだ?
非力な人間が天使の身体に傷一つつけることなどできはしない。
なら何故俺は斬られている。
ルシファーの第六感が危険を感じた。
それは死の直感だった。
まさか俺は思い違いをしていたのかもしれない・・・この人間は・・・こいつは!?
見ると鎧の男から凄まじい殺気があふれでている。それにゾクッという悪寒と、危険を感じたルシファーは捨て身の攻撃を止めて急停止しようと片翼を前面に羽ばたかせ無理に身を翻し男の剣撃の避けようとした。
しかし・・・
くっ!?
うっしゃああああああああ!!!
ぐがぁ!
回避は間に合わず、男のフルスイングで放った斬撃が、ルシファーの脇腹を深々と斬り裂いた。
スレ違い様に斬られた形なり、ルシファーは鎧の男の後方へ地面を舐めるように墜ちた。
くっくっく・・・
あっはっはっはっはっは!!!
地に落ちたルシファーはピクリとも動かず、鎧の男は高笑いをあげる。そしてイシスはそのありえない光景を目にして叫んだ。
ルシファー!
ルシファー!
第八章 666の獣