松川がダイニングキッチンを立ち去った後、清水と田中はその場でしばらく呆然とたたずんでた。
 田中の表情から焦りを読み取った清水は田中に諭すように話した。

田中、恐らく松くん何か凄い勘違いしてるぞ、俺は今の説明で良く分かったがもうそろそろ彼に本当の事話したほうが良いと思うな


 清水はそう言って勇気付けた。

 田中は何か踏ん切りがつかないような表情で、下を向いてしまっている。

大丈夫彼なら分かってくれるって

分かった、そうだよね言わなきゃね、有難う清水


 そう言うと、田中は松川の部屋がある2階への階段を登っていった。

 一人残された清水は思う。
 やれやれ、まったくここまで背中を押さないと距離が詰めれないのも困ったものだな。
 清水は空になったコーヒーカップをまた熱めのブラックで満たしながらそう思っていた。

こうくん、こうくん、ちょっと良いかな


 ドアを開けるとはなさんが不安そうに立っていた、僕は心臓の鼓動が速くなるのを感じていたけど、はなさんを緊張させたく無かったから、できるだけ平静を装った。

あの、話しがあるの、入っても良いかな?

うんいいよ、さっきはごめんちょっと動揺しっちゃて

あのこうくん私言わなきゃならない事があるの、なかなか今まで言い出せなくて

僕もさっきの事でちょっと聞きたい事があるんだ、はなさん

うん何でも聞いて

さっきあの、うーんあのね、さっきの事だけど緒方さんと安田先生がホテルに入ってきたとこ、み、見たって言ってたよね

うん

はっ入ってきたのをはなさんはどの場所から見たのかなって思ったんだ、だって普通なら入っていったって言うかななんて


 はなさんはちょっとだけ嬉しそうな驚愕の表情を浮かべて言った。

やっぱりこうくんは玲奈が言う通り凄いね、実は緒方さん達がホテルに入ってきた時わ、わたし……

言いたくなければ無理に言わなくてもいいよ

ううん、言わせて!あの時、私ホテルの受付の裏側の事務室で売り上げを計算していたんだよね


 僕は香港のホテルのレストランでの会話を思い出す。

前、香港ではなさんの実家の家業の話が出たとき旅館業って言ってたけどもしかして

そう、私のうち、ラ、ラ、ラブホテルを経営してるの


 そうかそういう事だったのか、女の子からは確かに言いづらいよね。

そうか、そうなんだ

びっくりするよね、そりゃそうだよね、ラブホテルなんて自分でも自分の名前と同じくらい恥ずかしくて


 はなさんは涙目になっている。

僕は恥ずかしくなんかないと思うよ。そういうホテルも必要だと思うし、意義のある仕事だと思う。なっ無かったら困る人達もいると思うし、だからはなさんは全然引け目なんか感じる必要はないよ


 あ~相当しょげてるな、なんとか元気付けてあげたいな。

はなさんは、偉いと思うよおうちの手伝いいつも頑張っているよね

えっいやっまあ子供の頃から別に普通に手伝っていただけなんだけどねハハ

それでも、すごいよ。僕なんか親父の会社全然手伝えないものあはは

ぷっふふふふふ

でも、今度は大変な案件になりそうだね

そうだね、今回ばかりは先生が絡んでいるからね


 その次の日帰りの飛行機の中で僕は清水の隣に座り思っていることを言った。

清水君正直言って今回の緒方りまの件は、僕自身こんなこと言うのもおかしいと思うけど僕のやり方は通用しないと思う

松くんは二次活動に参加してから全て問題なく解決してきたじゃないか、もっと自分に自信を持ったほうが良いと思うよ

清水僕思うんだふ、結婚している相手がいるのに同じ学校みたいな閉ざされた逃げ場が無いところで、そう言う事するのってある種相当な覚悟ができているのかなって。しかも学校と近いところで、あの泊まるとか、だから僕みたいに正直に思いを伝えても逆効果かな、なんて


しばらく清水は何か考えるような仕草をしていた。

なるほどね、言いたい事は分かったよ。田中はどう思う?

そうだね私はあんたのよくやる裏技っぽいのは正直好きじゃないけど、今回は先生がからんでいるからな、あんたのアイデアに乗るしかないなあ

分かったよ、じゃあ久しぶりに俺がプランを立てますか


 清水の表情が退屈なさっきまでとはうって変わった活き活きとしたものに変わったのを僕は見逃さなかった。

 うわ~久しぶりに爽やか腹黒全快だな~でもまっ、まあ清水は会長だから上手くやれるよね。

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