第1話:言葉と想い

私は姫宮 結愛。市内の中学校に通う2年生。
私には3つ上の兄がいる。両親の離婚、そして母親の再婚を経て初めて出来た兄妹だ。もう6年も前のことになる。

初めは戸惑ったが、兄は私にとても優しく接してくれた。兄にとっても突然だったが、初めて出来た兄妹で、私たちは近所でも評判の仲の良い兄妹だった。

だった…というのは、特別仲が悪くなったということではない。寧ろ子供の頃よりも仲は良くなっていると思う。些細なことでケンカするようなこともなくなったし…。

それでは何故そのような表現を用いるのかと言えば…私に原因がある。

姫宮 結愛

いつしかお兄ちゃんのことを男性として好きになってたの…。

だから私の中では、兄妹という関係が半ば崩壊してしまっていた。

春。
桜咲く季節に私は兄をデートに誘った。桜の花が舞い散る並木道で、私は告白するつもりでいたの。
なのに……。

城ヶ崎 明日香

城ヶ崎 明日香です。よろしくね…結愛ちゃん?

私はあの人の存在を知った。
私から兄を奪おうとする人…。

でも…私にはそのことについて何か言える立場には無かった。

それは2週間前…。

私は、兄の私への気持ちを知りたかった。
でも…私はまだまだ幼かった。
正面から向き合い、話をすれば良かっただけなのに…

姫宮 結愛

いざとなると恥ずかしくて…悪い結果だったら…なんて考えたら怖くて…。

その夜、母が作り置きしてくれた夕飯を兄とふたりで食べていた。テレビでは、見ず知らずの男女が番組内で交際を探す…そんな番組が放送していた。
それを兄と二人で観ていたのだが…。

姫宮 結愛

お兄ちゃんも高校生なんだから、彼女のひとりやふたり、作ってよね?

私の言葉を聞いた兄は、口に放り込んだ物を喉に詰まらせていた。

姫宮 鏡也

お、俺はまだ…そういうのは…。

姫宮 結愛

結愛のお兄ちゃんはモテない!なんて思われるのはイヤだからね?私だって彼氏いるのに…。

兄は突然立ち上がり、私の肩に掴み掛かってきた。かなりの力を込めていたようで、1週間は青くなった痣が消えなかったほどだ。
私は痛みに耐え切れず…。

姫宮 結愛

い、痛い…お兄ちゃんっ!!

姫宮 鏡也

嘘だろ…?結愛…彼氏いるのか?

言ってしまった後で後悔した。彼氏なんていないのに。お兄ちゃん以外の男の人に興味なんてないのに…。引っ込みが付かなくなってしまった。

だから…気も無いことを続けることになってしまった。

姫宮 結愛

う、うん…だから、お兄ちゃんも彼女作ってね?

食事を終え、自分の部屋へ入った私は、ベッドの上で仰向けになり、先ほどのやり取りを思い出して後悔していた。

姫宮 結愛

本当にお兄ちゃんに彼女が出来たら…どうしよう…。

そう考えると不安で心がいっぱいになった。
あの夜に言ったことを訂正したかった。
兄に私の想いを伝えたかった。

でも…一足遅かった。
不安が…現実となってしまった。

城ヶ崎 明日香。
一般的には素晴らしい人なんだと思う。でも、今はその素晴らしさが邪魔。
一刻も早くお兄ちゃんを諦めて貰わなくては……ねぇ?

続く。

第1話:言葉と想い

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