昼休みの屋上なんて、人がたくさんいるに決まっている。

はずなのだけれど、


うちの高校はそうではないらしい。



__渡くんと、あんなこと、する場所



渡くんはいつも空き時間に屋上にいて、あんなことをするらしい。



青木尚

だから私が屋上に誘われた時、周りが驚いていたのか…。さすが王子…。

渡斗真

王子直々のご指名ですね。

青木尚

ひっ、渡くんっ、



後ろからの声に思わず素っ頓狂な声が出た。

渡斗真

独り言の声が大きいんだよ。王子って。俺、王子だったの?



渡くんはケタケタと笑って、フェンスの近くに腰を下ろすものだから、

私も少しだけ間を空けて、おずおずと座ってみる。

青木尚

いつもここで、

渡斗真

シてるのかって?ん、まあ。そうなるかな。

青木尚

そう、なんだ…。




袋をパンっと空けてメロンパンを取り出す彼は、少しだけ幼く見える。


青木尚

王子、可愛いの食べるんですね。

渡斗真

悪い?

青木尚

いや、全然…。


続いて私もゼリーを取り出す。

渡斗真

は?それがお昼?

青木尚

や、いつもこれ…。

渡斗真

だから、薄いんだ。青木さんは全体的に薄いもん。




渡くんがまじまじと私をみて言う。

だから、ほっといてくださいよ。と
小さくなった声で言い返した。

渡斗真

俺細い子好みだけど、さすがにお昼それじゃあダメ。




はい、と差し出されたメロンパン。
これ残り食べなさい。と三分の一くらい残ったもの。

青木尚

や、いいです。渡くんからの関節キスになっちゃう。

渡斗真

関節キスって…。あんなサイトに構えとか書き込んでたやつのセリフじゃないでしょ。

青木尚

別に、こういうカップル的な何かを求めていたりなんかしたわけじゃなくて。




寂しさを埋めるためだけの、都合のいい相手を探していただけの話で。


青木尚

私生活に支障や影響を一切及ぼさないように、年齢を偽ったりしていたんだし。…だから、

渡斗真

同じ学校のクラスメイトだったなんて、望んでいなかったわけで。でしょ?




私の言いたかったことの総まとめを渡くんは的確にして、

私はこくりと頷いた。




ふうん、と少しつまらなさそうに一つ息をついたあと、渡くんの目はリトさんの目になって、


渡斗真

よく、利用するの?あーゆーサイト。



私のスカートの裾あたりに指を這わせた。



あ、と思ったけれど、リトさんとアオの関係性の中では間違ってなどいない行動。


青木尚

初めて、よ。彼氏に振られた腹いせ、だもん。思い切り、初めて。怖いね。




リトさんは?と体制は変えないままに尋ね返す。


渡斗真

内緒。




答える気などないよ、と笑顔だけで私に伝えては、
そんな渡くんに恐怖を覚えた。


青木尚

そ、なんだ、ね。

渡斗真

青木さん、けーけんにんずーは?

青木尚

え、ーっ、



答えようとしたところで重なる唇、香り。
彼に聞く気などないのだと、思い知る。


それはそれはいっぱいいっぱいで、追いつけるだけのものを私は持ち合わせていない。


渡斗真

だめ、逃げないの。



逃げ腰な私のことをぐっと捕まえてはヤラシイキスをするリトさん。

王子の正体、とでもいえばいいだろうか。






解放されたときには頭がクラクラチカチカとしていて。

指で私の髪を首元から梳いたリトさんと、視線が交わった。


渡斗真

んー…青木さんさあ、

青木尚

はい、

渡斗真

なんでそんなにキス、下手なの?

青木尚

な、




リトさんの仮面をかぶった渡くんが、自分の唇を舌でなぞって私に問う。


青木尚

なんで、って…

渡斗真

それなりの経験をしてる子のキスじゃない。下手。




私の髪を優しく梳いていた手が、
首元を撫でるようにクシャリと動いた。

それに少しだけ、ゾクリと身体の奥の方が震える。


青木尚

それなりの、…経験をしてないから。だとおもいます…。

渡斗真

ん?

青木尚

キスもそれ以上も、元カレさん、と、だけです。




おずおずという私に、渡くんは目を丸くした。


青木尚

そんな驚くことですか…別に悪いことじゃないかと…。

渡斗真

なのになんで、

青木尚

あんなサイト利用したか、ですか…?





渡くんの言いたいことはなんとなく分かった。



青木尚

後先考えずに…。というか、まあ。





キスが下手だとか、仕方がないと思う。

私はほとんどそういう経験をしたことがないのだ。



渡斗真

青木さん、




すると渡くんの指は、私の髪を揺らしては離れた。


渡斗真

自分のこと、大切にした方がいいよ。

青木尚

わ、たり、くん?




渡くんは自分の制服、ブレザーの袖で私の唇を拭くようになぞった。


渡斗真

あんなサイトにいるのはね、クズ男とクソビッチだけなの。そんなところに足を踏み入れちゃあ、ダメだよ。



リトさんから一変、教室で見かけるような王子様になって彼はそんなことを言い出す。

青木尚

急に、どうしたんですか、




私が恐る恐る尋ねると、

渡くんはフェンスにもたれかかって、たいそう気だるげに笑った。


渡斗真

こんなことに首つっこんでいい人種じゃないよ、青木さんはやっぱり。てっきりヤリ慣れてる子かと思ったんだけどな。まさかね。

青木尚

は、あ。




私に忠告らしきものをした渡くんは、それ以上私に触れることすらせずに、するりと屋上をあとにした。




どうして、あんなことを。

自問自答に答えなんか見つからずに、
渡くんは変な人だ。ということで納得をさせた。





綺麗な顔をして、甘ったるい雰囲気を出して、
それでもって私のことを心配したようなことをいうのだ。




でも、私、

それなりに分かっていてサイトを利用したわけだし、少なくとも渡くんに心配される必要はないと思う。




渡くん、経験がなくたって自分のことを大切にする理由になんてならないんだよ。




そんなことを思いながら、
渡くんには全く関係ないのだからとため息を吐いた。



自分のことを大切にしろという渡くんにとって、もう私は不必要、用無しなのだろう。


今までの生活に戻れる安堵を覚えた。




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