1.欠点
1.欠点
始めは全体の半ばである。
The first step is always the hardest.
あぁ、そうだな。それじゃあ――これより、今年度第七回目の定例会を開始するぞ!
なんでアンタが仕切んのよ
ではまず、持ち込みの議題がある人から提出お願いします
無視かよ! ……怪談の類じゃないけど、アタシから一つとっときの怖い話があるわ
キリからなんて珍しいな
まねー。じゃ、話すわ。いやーアタシもさっき通告されたばっかなんだけどさ
来学期から、ウチの部の活動予算減額になったわ
……え? まじ?
大マジよ。あ、勿論アタシも抵抗したわよ? これでも当初半減だったはずの減額料を三割減まで引き下げさせたんだから
でも経理の鐘築(かねつき)が転校してきてから締め付けがホントきつくてさー。『オカルト研究会風情に大した予算など必要ないでしょう』なんて言うもんだから
言うもんだから~?
言い返してやったわよ。
『ウチはオカルト研究会じゃねー! 《meme(ミーム)研究部》って言うんだよ! 覚えとけ!』ってね
そこじゃね~
阿呆ですね
しかし鐘築さんか……あの人、転校してきてから三ヶ月も経ってないっつーのにあっという間に会計のポストに就いて、生徒会の金庫番として辣腕を振るってるからな……
いまや《伝高のロスチャイルド》、なんて呼ばれてますもんね~
でもいくら役職が空いてたからって、中途編入ですぐに役員入りなんてちょっと不自然ですよね
んだよなぁ。あの人なんか胡散臭くね? 叩けば埃が出るかも知れねぇぜ……! おほっなんかテンション上がってきたわ!!
いや、いまは鐘築の話はいいから。まーそんな訳でウチも来学期から活動規模縮小すっかんねー。ちょっちね
はあ。とはいえ、うちは経費を使う活動することほとんどありませんし
あぁ。そういやそうだな
う~ん、てんちゃんのエサ代がちょっと減っちゃいますね~
あぁー……まあちょっとくらいなら問題ないでしょ!
そうだな。むしろ普段が食べ過ぎだぜ、てんこは
あとは、おかしの量が減るくらいですね~
それはマズいな
まずいわそれ
はあ……こうして改めて考えると、鐘築さんは適正な見積もりをしていると判断せざるを得ませんね
かはは、うちの会計とは大違いだなぁ
う……わ、わたしは最初会計断ったんですよ~? でも会長が絶対適任だからやれ~! って……
だってさー苗字が三ツ森(みつもり)よ? 会計できそうじゃない
でも名前まで含めたら見積もり甘そうじゃん
『見積もり・ア・マネー』で金の申し子だと思ったのよ!
頭の悪そうな話題はその位にして、本日の議事を進行してもよろしいでしょうか
オイ。まーいいや、とりあえず明日にでも修正した予算案プリントして渡すから。あまね、見といてねー
は~い
ふぅ。じゃあ次の議題ある人、誰か居るか?
私は今回は特にありません
アタシも今日は無いわ。もー会議でイッパイイッパイだったし
あ、じゃあわたしいいですか~? えへへ~、今日はすごいのありますよ~!
おぉ、三ツ森がそこまで自信有り気っつーのはなんか珍しいな。
はい! じゃあ始めますよ~! これは皆さんが日常でよくお使いのスマートフォンこと《スマホ》に関するお話なのですが……
《meme研究部》の部員って、わたし以外はみんな揃っておんなじ機種のスマホを使ってますよね?
はいっ。 いまや日本でトップシェアを誇る機種ですから、被るのはよくあることですよね!
でも最近、この機種に関するこんな話があったらしいんですよ……。
これはわたしのお兄ちゃんが友だちから聞いた、その方の友だちに起きた話とのことです。
ええ、また聞きのまた聞きなので、話はんぶん程度に聞いちゃってください~。
仮に、お兄ちゃんの友だちさんをFさん、そのさらに友だちさんをSさんとしますね。
FさんとSさんは高校生です。お二人とも、わたし達とは別の学校ですねっ。
FさんとSさんもそれぞれ違う学校だったらしいのですが、お二人は共にちょっと素行の悪い方ということで有名だったらしく、不良さん同士でお互い通じ合うものがあったのか、それなりに仲良くしていたらしいです。
あ、わたしのお兄ちゃんはまじめですよ~! 念のため!
それで、Sさんです。
Sさんもみなさんと同じ機種のスマホを使ってたみたいなんですが、ある日いつも通りそのスマホを操作してるとですね、画面のある部分が《ドット欠け》してることに気づいたみたいなんです。
ドット欠け――ドット落ち、ともいうみたいですね。まと先輩、ドット欠けって知ってます?
……はいっ、正解です! それと同じで、Sさんの画面もほんの一部分だけ、不自然な《点》があったらしいんですね。
でもこのドット欠け、なんだか普通のそれとはちょっと違ったんです。黒とか白とかじゃなくて、《赤く欠けてた》らしいんですよ~! で、それもなんていうか……。
その場に居合わせてたFさんも見せてもらったらしいんですけど、やけに気になるというか、不自然な赤さだった、ってお話でした!
それで、Fさんって少し神経質な方らしいんですが、
何となく気味が悪いというのもあって、すぐに修理に出すことを勧めたらしいんです。
でも当のSさんはかなり……え~と……。
そう、GO HOME LILAC! な人だったらしく、ですね!
はい? ……あぁ~!
それですそれです~! 豪放磊落!
……え、プレゼン中にボケるな? す、すいません……。
え~とですね、とにかくSさんは大らかな方だったらしいです!
ほんの一ピクセルだけなら画面もぜんぜん見えるしいいや~ってことで、その日はそのままスルーして解散したみたいなんですね。
で、その二日後です。
いつものようにSさんと遊んでいたFさんは、偶々Sさんのスマホの画面を見る機会があったらしいんですが、その時、先日のドット欠けの件を思い出してもう一度見てみたそうなんです。
――あれ……? なんか……。欠けが少し広がってるような……。
Fさんはそう感じたらしいです。
でもFさんは、自分が神経質なたちであることを自覚していたみたいなので、これも気にしすぎなだけだろう、と疑問を胸にしまいこんだんですね~。
他人の所有物にまで細かいことを気にするのは過敏がすぎる! と自身を心中で諌めて、それきりドット欠けのことは頭の隅に追いやりました。
で、その後しばらくしてSさんに用事ができたという事で、また近いうちに遊ぼうと約束だけして別れたそうなんです。
――でも、それがFさんが見たSさんの最期の姿になったんです……。
次の日、Sさんはいつもの遊び場にやって来ませんでした。
その次の日も、さらにその次の日も。
一日や二日来ないことはそんなに珍しい事じゃない。
でも三日となるとどうだろう。あまり記憶に無い。
それに、この前の不自然なドット欠け。
普通に考えたら、そんなものに因果性がある訳がない。でも何故だろうか、あの赤々としたドット欠けが無性に目に焼き付いて――
――訳もわからないまま、ただ激しい気味の悪さに衝き動かされるように、FさんはSさんに連絡をとりました。
でも電波を通じて耳に届いたのは、現在使われていない番号である旨を告げる機械音声だけ。
なんで? 解約した? そんな話は聞いていない。おかしい。明らかに。なにかが。
間髪あけずに、Fさんは他の知り合いに電話をかけ始めました。
Sさんと同じ学校の人。Sさんを知っている人。心当たりのある方を片っ端からです。
平日の真昼ということもあってか二人、三人と不在が続きましたが、やっと一人の知人に連絡がつきました。
ですが――
S、死んだよ。殺人だって。
……犯人も、まだ見つかってない
その瞬間は、怖さや悲しさというより――どこか腑に落ちた感じがした、らしいです。
なんとなく、心のどこかで予想できてたんだろうな、とのことでした。
でもね。ここからが本番なんです。
さっきも言いましたが、犯人、見つからなかったんですって。
それで、先ほどの連絡の取れた知人の方、実はSさんの幼なじみの方なんですけど。
その幼なじみさん、Sさんのお母さんにですね、教えてもらったらしいんです。
Sさんの、死の状況。
まずSさんですが、彼、顔面の至る所を鋭利なもので切り裂かれた末の死亡らしいです。
でも傷口や周囲の環境を鑑定した結果分かった事が幾つか有りました。
一つは死因です。
出血多量や痛みによるショック死じゃなくて、眼窩から前頭眼窩野へと至る刺突による外傷性脳損傷が直接の死因となったようです。即死だったと見られています。
でも顔面の裂傷の多くは、死亡推定時刻よりも前につけられたと予測されるものが多かったみたいで……。酷いですよね。
そんな理由から、快楽殺人犯の犯行である疑いが持たれているらしいです。
二つ目は凶器です。
傷口を見る限り、ナイフとかで出来た綺麗な断面じゃない。もっと鈍いものが使用されていると見られました。
で、Sさんの遺体の周りにですね、落ちてたんですよ。件のスマホ。
それも、液晶画面ばきばきになった状態で。
そしてその中に、ひときわ大きなガラスの破片がありまして、この破片の形状が傷痕とかなり近いことや、破片に対する血液の付着具合から、これが凶器として使われた可能性が最有力視されたようです。
ですが、快楽殺人犯って予め気に入った凶器を自身で用意することが多いらしいです。
あくまで統計上では、ですが。
今回は現場で入手した破片をそのまま凶器として使用していますよね?
これにより一つ目の死因の状況証拠からくる快楽殺人犯の推測とは犯人像にブレが生じますから、この辺りも捜査の手がかりにならないかと模索されているとのことです。
三つ目は遺留品です。
遺体の直ぐ側に彼の遺したであろうメモが置いてありました。
このメモですが、錯乱したようなひどい走り書きで
赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる赤がふえる
と、ひたすら書いてあったそうです。
もちろんこの話を聞いたとき、Fさんはすぐに思ったそうです。
ああ、これはあのドット欠けのことなんだな、って。
ただFさんはその時、ドット欠けの事を幼なじみの方にも遺族の方にも伝えなかったらしいです。
……はい。Fさんからしても正直何が起こったのか、ドット欠けがどう関係するのか、何もわかりませんし、言えなくてもそれは仕方がないな、ってわたしも思います。
遺族の方たちからするとふざけてるようにしか聞こえないでしょうし、なかなか言えませんよね、普通。当然警察にも。
あと遺留品についてもう一つ。
Sさんのスマホですが、さっきお伝えしたとおり、画面はもうばりばりなんですけど、それ以外の基板なんかのパーツ類も、全部修復不可能なレベルで破壊されてたみたいなんです。
で、その残骸はそのまますべて捨て置かれていたんですが、その際に液晶の挙動を制御する集積回路だけ、なぜかどこにも見当たらなかったらしいです。
とはいえ、他のパーツにも全く原型をとどめないほど破壊されている物が幾つかあったらしく、事件との関連性も薄いだろうという推測からこちらは破却の末の紛失として扱われ、以後、該当のパーツに関して調べられることはなかったみたいです。
長くなりましたが、お兄ちゃんがわたしに教えてくれたのはこれで全部です。
……とま~、なんとも謎の残る話ですが、わたしが聞いたお話はこれで終了です!
でも結局赤いドット欠けとはなんなのか! というところに迫る話がもらえず、若干消化不良な感がありますので……
今回わたしが提案する議題はズバリ!《怪奇! 赤いドット欠けの正体とは!? 謎の集積回路にまつわる伝説を追え~!》です!
……はー、なるほどねー! うん、いいんじゃない? 今回他の人も議題無いみたいだし
あぁ、いいな。しかし三ツ森はアレだよな、ほんとプレゼン中は人変わるよな
え~? そうですか~??
はい。あまねは特に、悲痛な展開や猟奇的な場面となるととても溌剌としているように見受けられます
う~ん、ふつうなんだけどな~?
まーその辺は置いといて、じゃあ第七回はあまねの議題で可決ってことでいーい?
おう、いいぞ
異論ありません
やりました~! ありがとうございますっ
うむ。じゃあ今日の定例会は終ー了ー! ちょーどいい時間だしね。各自明日以降の調査に向けて準備を怠らないように!
おぉほんとだ、もうこんな時間か。三ツ森の話し上手とキリの遅刻にすっかり持ってかれちまったぜ、かはは
お、まだ遅刻のこと言うんだー? これは愛の教育的指導が必要になりそうだね!
またこんな時間からGameCenterですか? お二人共懲りませんね
わぁ~りりちゃん、英語の発音いい~!
……っ! 帰ります!
あ~待ってよ~! みんなで一緒に帰ろ~よ~
あっはは。じゃ、そろそろ出よーか。もうそろ暗くなり始めるしさー
オーライ。じゃあ部室閉めちまうか。皆忘れ物ねーようにな!
はぁいっ
……了解です
……っはぁ。お、あったあった。超焦ったぜー。まさか携帯を忘れるとは
他の何を忘れても携帯を忘れることだけはないだろうと思ってたが、やはり俺も人の子か……フ……
まあなんにせよ有ったなら良し。はやく戻んねーとキリがうるせーし急ぐか!
あれ、なんか通知きたな……誰だ?
うげ、ちょうどキリからメール来たよ……聞こえてんのかアイツは……って
ん……?
ん? んー……んんん……
……うん!
なんか見慣れない赤い点増えてるんですけどおおおお!?
おいおいおいおいマジかよ! 洒落になんねぇぞコレ!!
三ツ森ィィ!! あの話聞いたら伝染る系のヤツじゃねーかあああああ!!
つぅかどんな感染力だよ!! 話聞いてからまだ一時間も経ってねェぞ!?
インフルエンザが兵糧攻めかと思えるレベルの速さだぞコレェェェ!!
うおォい……! マジでどうすんだコレ……!! とりあえず三ツ森は聞いてからしばらく経ってんのに何も起きてねーみたいだし、同じタイプの機種使ってるヤツがヤベーのかも……ってことは、キリとリリーもヤベー……
~~~~ッとりあえずチョッパヤで戻って皆に知らせるしかねぇ!! 頼むからドッキリであってくれぇぇぇ!!
やばいやばい!たまらん!
最後の演出たまりません!!こーゆうの待ってました><*
(ホラーなのに好物すぎて怖がってない感じの興奮度合いですみません…怖いです。)
わー! ありがとうございます! 嬉しい……!
初めてコメントいただいたので、すごく励みになりました!
これからも頑張りますのでよろしくお願いします!
>天藍石さま
ありがとうございます!
「おおお!!」ってさせれたようでなによりですー!
話を追ってくれている方や、わざわざ読み返してくれる方がいるというのが
すごく嬉しいし、幸せです!こうしてコメントをいただけるのもとっても励みになります!
次回以降も頑張りますね!
>玄武さま
読み返しありがとうございます!
嬉しいです!照れます!
文章はまだまだ拙さが目立つと思いますが、こうした絵や演出を工夫する事で
その点をカバーしていけたらいいなと考えております!
これからもお付き合い頂けますと幸いです、よろしくお願いします!