深夜0時
応接室へと忍び込む人影があった。

物音を立てないよう侵入すると辺りを見回し全員寝ていることを確認する。

そして机の上に置かれていた日記帳を手に取ると、鍵が開けられていることに気付いた。

くそ、思ったよりもカンのいい奴等だ・・・・早急に片付けねばな・・・

日記帳に持っていたペンで何かを書き足すと、そのページを開いたまま応接室を後にした。

リリアーヌ

・・・ん・・・?

翌朝、体を揺さぶられて目が覚めると切羽詰まった二人の顔があった。

リリアーヌ

ど、どうしたの・・?

カイト

説明は後だ、早く逃げるぞ!

リリアーヌ

えっ!?ちょっと待ってよ!!

状況が分からないまま二人に手を引かれ外へと駆けだした。
アヴィスから少し離れた茂みに身を隠し、カイトが昨日見ていた隊長の日記を取りだした。

リリアーヌ

この日記帳がどうかしたの?まさか、私達が見たことがバレたの!?

カイト

あぁ、俺達が朝起きたらこのページが開いた状態で置かれていたんだ。

カルマ

迂闊だったな、これを机の上に置いたままにしておくべきではなかった・・・

それはティナの実験記録の次のページに記されていた。

“次はお前達の番だ・・”  

リリアーヌ

こ、これは・・隊長からのメッセージよね・・?

カルマ

おそらく昨晩応接室に来た隊長が、日記を発見してメッセージを残したんだろう。

カイト

隊長は俺達を人体実験に使うか、もしくは証拠隠滅の為に殺そうとしているか・・どちらかだろうな・・・

リリアーヌ

とにかく、なるべくアヴィスから遠くに逃げましょう。この近くにいるのは危険だと思うわ。

カイト

そうだな、行くか。


そうして私達は隊長の魔の手から逃れるためにアヴィスとは反対方向へと逃げだした。

しかし、現実はそう甘くは無かった。

リリアーヌ

はぁ、はぁ・・・

カイト

少し歩きながら進むか・・だいぶアヴィスからは離れたし・・・

スピードを落とししばらく歩いていると、広場へと辿り着いた。

リリアーヌ

ねぇ、この先どこへ逃げたらいいのかしら。

カルマ

他の地区は既に壊滅状態だしな・・・

カイト

確か町外れに通信機があった筈だ。他国と連絡が取れるかもしれない。

リリアーヌ

そうね、試してみる価値はあるわね。じゃあそこを目指しましょう!

ヌラ

ぐぎょおおおおお!!!

ガンボ

シャアアアアアアア!!!!!

目的地へと向かい出した私達の前に、ヌラとガンボの集団が立ち塞がった。

カイト

まぁ、簡単に逃がしてくれるわけないか・・・

リリアーヌ

でもこの数じゃ・・・

カイト

おそらく今までと同じくらいいるな、先に空中にいるガンボから攻撃しよう。

カルマ

了解、俺はこっち側からガンボを攻撃する。カイトは俺の反対側からガンボを、リリアーヌはヌラを頼む。

挟み撃ちにするためカルマは私達の向かい側へと回った。

カイト

こんなところで足止めくらっている暇はないんだよ!!

カルマ

さっさと終わらせるぞ・・・ファイアバースト!!

リリアーヌ

絶対に逃げ切って見せる!!

二人がガンボを倒している間にこちらに向かってくるヌラを私が攻撃する。
何度も戦闘を重ねてきたおかげでいいチームプレーが取れるようになった気がする。
数分経つとガンボは全て消滅しており、残りはヌラが数体だけになっていた。

リリアーヌ

もうすぐね・・早く終わらせましょう。

カイト

カルマ、そっちに行くぞ!

カルマ

まとめてやってやる、アクアバースト!!

ヌラ

ぐおおおおお・・・・・

リリアーヌ

やったわ!これで全部倒したわね!

カルマ

ふぅ・・・また発生するといけない、早く行こう。

カイト

あぁ、そうだな!じゃあ早く・・・ぐはっ、う・・なんで・・・

リリアーヌ

え・・・?カイ・・ト・・?

カイトが急に苦しみ出しその場に倒れた。
恐る恐る見ると背中に大きな触手のようなものが突き刺さっていた。

カルマ

・・・どうしたんだ!?

先を歩いていたカルマもこちらの異変に気付き駆け寄ってくる。

リリアーヌ

カイト!!しっかりして!!目を開けてよ!!

カイト

・・・・・・・・・ぅ・・・

傷口はとても深く、あっという間にカイトの周りは血だまりになってしまった。

カルマ

なっ、モンスターとは違うよな・・・一体誰がこんなものを・・っ!?

リリアーヌ

カルマ、どうしたの?誰か居るの!?

カルマ

一瞬見えた後ろ姿が隊長に似ていた・・・くそ、この傷の深さじゃ魔法では治りきらない・・

リリアーヌ

・・・・カイト・・もう少しなのに、こんなのあんまりだわ・・・

カイト

はぁ・・・リリ、アーヌ・・・

リリアーヌ

カイト!?

うっすらと目を開けこちらを見てくるが、焦点が合わず意識も朦朧としているようだった。
カルマが回復魔法を何度も唱えているが全く効果が出ていない。

カイト

カルマ、リリアーヌを頼んだぞ・・

リリアーヌ

やめてよ、そんなセリフ言わないで・・三人で生きようって決めたじゃない!

カルマ

・・・・・リリアーヌは何があっても俺が守る。

カイト

・・・あぁ。リリアーヌ、ごめんな・・お前は絶対に生きて幸せになってくれ・・
 本当はずっと好きだった・・よ・・

冷たくなったカイトの手が私の頬に触れる。
最後の言葉を言い終わると手の力が抜けていき、ゆっくりと目を閉じていった。

リリアーヌ

・・!カイト・・カイト!!!いや・・もうこれ以上何も失いたくないよ!

カルマ

・・・・・リリアーヌ、行こう。ここで俺達が死んだらカイトが悲しむから・・

泣きじゃくる私の頭をカルマは宥めるように撫でてくれた。

リリアーヌ

う、うん・・・

ガサガサ・・・

カルマ

・・・何かいるな。後ろの茂みから音がした。

リリアーヌ

もしかして隊長が・・?

カルマ

下手に動くと攻撃されるかもしれない、あそこの建物の陰に隠れよう。

カイトを連れていくのは危険だと判断し、仕方なくその場に残した。
身を屈めて歩き出すと、私達に気付いたのか茂みから何者かが現れた。

リリアーヌ

あ、あれは・・・もしかして・・

カルマ

人型モンスター!?・・・逃げるぞ!!

振り返った際に見えた相手は確かに人間の姿をしていたが、右腕だけが緑色で通常の3倍以上の太さだった。

リリアーヌ

追いかけてくるわ!どうしようここままじゃ追いつかれる!

カルマ

くそ、速いな・・先に逃げてくれ、俺が囮になる・・

カルマがモンスターの方を向き直り戦闘態勢に入った。

リリアーヌ

ダメよ!一緒に逃げましょう!!

カルマの腕を引っ張り逃げるように促すがその場を動こうとしなかった。
そんなやりとりをしている間に追いつかれてしまいモンスターが目の前までやってきた。

カルマ

早く逃げるんだ!!

カルマが魔法を唱え始めるとモンスターは少し焦ったような表情になった。

リリアーヌ

カルマ待って!!なんだか様子がおかしいわ!

待ってくれ!!俺はお前達に危害を加えるつもりはない!!

モンスターは両手を上に挙げ、その場に立ち止まった。

カルマ

な、普通に話せるのか・・?

ここにいるとマルビスに見つかってしまう。俺に付いてきてくれ。

カルマ

隊長のことも知っているのか?・・・リリアーヌ、どうする?

リリアーヌ

・・・・・行きましょう。信じても大丈夫だと思うわ。

初めて見たはずなのに、何故か安心した気持ちになっている自分が不思議だった。

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