真守

……。

豚吉

たはー!トモ氏下手くそでござるなぁー!

トモ

んなぁッ!?っるせえ!
こっからだ!

豚吉

所詮実況者風情じゃ僕には勝ち目はないんですなぁ~

真守

……。

トモ

調子乗んなよ、有害デブ!
泣き言言う前に降参しとけ!

豚吉

あとで吠え面かくのはどっちでござるなぁ~!
もちろんこの録画もうぷするんですよなぁ?

真守

……。

豚吉

あああああああああああああ!!!!

トモ

あああああああああああああああああああ!!!






馬鹿二人の雄叫びが俺の管理人室に響く。


トモ

何しやがんだ森野ぉ!

豚吉

何をするでござるか!森野殿!
ゲーム中のコンセント抜きはご法度と
お母さんに習わなかったんでござるか!?

真守

……

真守

てめーらいい加減
帰れええええええええ!!!




昼間っから仕事中(一応)の俺に比べてこいつらと来たら、
人の家に上がり込んでゲームばかりしやがる。


最初は俺も混ざっていたが、
もう5時間だぞ。

5時間だぞ!?

二人は文句を垂れながらようやく出て行った。

一応俺にも仕事はあるし、マンション内の見回り点検は毎日欠かさずやってる。


おかげでどこに何があるのかはだいたい把握してきた。
……つもりだ。





いや、その……。
つもりだっていうのには色々と理由があって。
俺の叔父である森野武雄は遊び心がありすぎて、
意味の分からん隠し部屋が大量に存在する。


そのせいで3ヶ月近く管理人をしている今でも
2週間に一回のペースで
新しい発見がある。



今日俺はまた新たな発見をしてしまう。














~12階 図書室 (図書委員募集中)~

諸星先生

鍵……ありがとうございます。

真守

いやいいっすよ。
参考になりそうな資料あるといいですね。

諸星先生

そうね、武雄さんなら私の好きそうな本、
きっと置いておいてくれていると思うの

真守

へえ、ちなみにどんな本なんすか?

諸星先生

世界の拷問100種

真守

……えっ

諸星先生

あとは……
”苦しい自殺、苦しくない自殺”
とか

真守

え、あ、はい。





何探そうとしてるの。
ていうか死ぬつもりなのか、この人。


この諸星先生は実はこんな容姿だし、
話し方もとてもおっとりとしている。


知識も豊富で落ち着いている先生が描いている漫画は
月刊誌かなりの人気を誇る超バイオレンス漫画。
”KILL×KILL”
とにかく毎週5人は死ぬし、
仲間だった奴もだいたい死ぬし、
ヒロインも死ぬ。


ヒロインは5人も入れ替わったが
だいたい酷い死に方をする。

一人目のヒロインなんて敵に捕まって
敵に操られた主人公に殺されている。

三人目のヒロインなんて四人目のヒロインに殺されている。(あとで主人公にバレて殺される)
おっと、ここからはネタバレだから言えないな。



諸星先生

うーん、これかなぁ。

先生は少し高めの本を手に取った。
背表紙には”人を怖がらせるために必要なこと”。




その時、




真守

!?
な、なんだ!?

諸星先生

きゃあっ!
えっ!? 
何!?

先生が本を取った棚は
一人で急に動き出した。



そしてその奥には……



真守

ええええええええええええええええ!?

諸星先生

成程。隠し通路からの拷問部屋……将軍に連れ込まれてその奥で死体になったヒロインが居て……

びっくりして尻もちをついた先生に手を貸して起こしてあげる。

先生はじっくりと中を覗きこむようにしながらそんなことを言っていた。

真守

何言っちゃってんの、この人!

諸星先生

降りてみましょうか

真守

いやいや、危ないですって!

諸星先生

大丈夫。私いざという時の最終手段として
女の子でもできる簡単自殺方法知ってるから。

真守

何がどう大丈夫なんだそれ!!

諸星先生

……というのは冗談。

真守

……ふぅ、良かったぁ

諸星先生

本当は……この先に行くのは私も少し怖いんです。



先生はさっきから階段の下を覗き込むのだが、
俺の服の袖をちょっとだけ掴んでいた。


階段の下に落ちないようにか、
俺が逃げないようにかは不明だが、

めっちゃ
ドキドキする……!!!

いかん、先生のためにもここは早く抜けだそう。

先生を部屋に返したら、
戻ってきて立ち入り禁止とかの札を鎖でかけておこう。



っていうかどうやったら閉じるんだこれ。


確かに今までも漫画とかでこういう仕組みの扉とか
隠し通路とか見たことあったけど。
みんな先に進むばかりでこれがこのあとどうなるかなんて描写ないから分からん。



もしかすると、先生と一緒に入ったら
入った瞬間扉が勝手に閉まって、中で永遠と先生とふたりきり……。



まあ悪くないけど、
先生には先生の人生があるし、
こんな所で巻き込む訳にはいかんでしょう。

担当の小川さん

探しましたよ!
どこに行ってたんですか!

諸星先生

ううっ、資料を探しに……図書室に。

真守

小川さん、お疲れ様です。
今戻ってきたところなんですよ。
一応サボってはないんで勘弁してあげてください。

担当の小川さん

こんにちは森野さん。いつもすみません。
先生がご迷惑をおかけして……。

真守

いえ、全然そんなことないんで大丈夫ですよ。
言ってくれれば手伝いますから。

諸星先生

ありがとう真守くん。
良かったらまた今度原稿手伝ってね。

担当の小川さん

先生も森野さんに迷惑かけないようにしてください。

諸星先生

……すみません。

真守

……は、はは。

最近諸星先生はこのパターンで怒られることが多い。
助けを求めるもんだからつい助けてしまうが。


たまに先生の原稿も手伝ったりしている。
先生から緊急の電話が来たら俺は結構すんなり
引き受けてすぐに飛んで行く。


漫画の最新話が作れるから、見れるからという理由も勿論ある。



でも……

”女の子の部屋に入れるから”
なんて理由、言えないよなぁ……。

真守

言えないよなぁ。

特にトモと豚吉の野郎どもには。



あ、あとあんず。知られたら最低な汚物を見るような目で見下されて

あんず

……さいてい

こうだろうな。

担当の小川さん

それではこれで失礼します。
また何がご迷惑かけるようなとがあればすぐに私の方に言ってください。

真守

いえいえ、こちらこそ、困ったことがあればすぐに呼んでください。
駆けつけますんで!

諸星先生

真守くんは本当に優しいですよね。
ありがとう。それじゃあまた。

真守

さて俺も仕事に戻るか……。

今日の発見は
図書室に謎の隠し階段が存在していたこと。

今後他にもこのパターンの隠し階段や通路が
存在している可能性がいっきに浮上した。


そしてもう一つは。
俺の知っているバイオレンス漫画を
描いている女性作家は
意外にも可愛らしい一面があるということだ。






源さん

なんじゃ若いの。
鼻の下のばしおって。きもっ

真守

おい、爺。女子高生みたいな口調で通りすがりに罵倒してくんじゃねえよ。

源さん

わはは。あんずちゃんに習ったんじゃ。
若いのにはこれが効くってな。

真守

……?

源さん

うぅ゛ッ……

真守

爺さん!? おい!!

真守

おい!しっかりしろ!!
源さん!!源じいさん!!

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