だあああああ!やっぱり諦めきれん!
だから家帰ったらアマ○ン検索しろよ
剣斗! お前がやれ!
はぁ? なんで俺が!?
大丈夫だ。お前は俺の息子だ。俺の勇者の血を受け継いでるお前ならきっと抜ける!
変な設定を息子に押しつけんな!
剣斗やってみなさいよ。せっかく来たんだから、いつまでも不貞腐れてるより思い出のひとつになるんじゃない?
お袋まで……
お前に俺のヘソクリを全財産を預ける!
これは俺がやるまで粘る気だな。はぁ……
わかったよ、やるよ。やればいいんだろ
親父から5000円を受け取り剣の前に立つ。
さっさと終わらせてホテル帰るか
俺は剣の柄をグッと握りしめた瞬間、
ちょっと待て!!!
背後から誰かが呼び止めてきた。
ん?誰だ?
やはり伝説の聖剣……まさかここに持ち込まれていたとは……
現れたのは、先程ドラゴンの見学エリアにいた勇者風のコスプレしたスタッフだった。
ゆ、勇者さま~置いてかないでぇ……
それとコスプレ男の背後には、有り得ないほどの巨大なリュックを背負う魔法使いのようなコスプレした女の子が息を切らせながら現れた。
なんかのイベントか?
珍妙な恰好をした二人のスタッフを見ていると、男のほうが俺の前まで歩いてきた。
邪魔だどけ異世界人!
いて、いきなり突き飛ばされた!
これは貴様が触れていい代物ではない。
なんだこいつ……イベントだとしても態度でけえな
コスプレ男は剣の前に立つ。
この剣の本当の真名も知らぬのに手にしようとは愚か者共だな。
コスプレ男は剣の柄を握りしめた。
見よ!そして聞け!この剣の名は聖剣ダーインスレイブ!選ばれし者しか抜けぬ勇者の剣なり!
男はそう言うと剣を力強く抜ッ……
フンッ!!!
グウウウウウウウウウウウウウウウ……
グオオオオオオオオオオオ!!!
ぜぇ……ぜぇ……なにこれ固ッ!?無理!
コスプレ男は息を切らしながら驚愕した面持ちだった。
まぁそうだろうな。コメディの演出もあるのか、スタッフも大変だな。お疲れさまです。
ば、馬鹿な! 何故抜けない!俺は勇者の血を引く正統な真の後継者だぞ!?
そりゃあ固定されてるからでしょ
演技だとしても突っ込まずにはいられない。
するとコスプレ男は連れの女の子のほうを睨み付けていた。
そうか……メルル貴様のせいだな!
ほえぇ!?
お前みたいな愚図が俺のパーティにいるから剣が俺を真の持ち主だと認めないんだ!
んな無茶苦茶な……
そ、そんなぁ……メルルは何も……
従者の癖に口答えするな!
キャア!?
勇者のコスプレ男は連れの女の子の顔をいきなり叩いた。
なっ!?
大体お前は毎度毎度使えないんだよ!この愚図!
ぐすっ……ごめんなさいです、ごめんなさいです
お、お客様、当館での暴力行為はお止めください
ガイドのお姉さんが慌ててそれを止めていた。
うるさい!これは俺とこいつだけの問題だ!部外者は邪魔を……
男は再び女の子を叩こうとした。それを俺は男の振り上げた腕を掴んだ。
いい加減にしとけよ
なっ!?
おい、お前、演技だとしても少しやりすぎだぞ
ぐっ、は、離せこの異世界人風情が!
俺は男の振り上げた腕を力強く握る。
お前その振り上げた拳をどうするつもりだったんだ……言え
お、お前には関係ないだろ!
コスプレ男は手を振り払ってきた。
俺は呆れながら男に言った。
たかがオモチャぐらいでムキになんなよ。ガキかよ
相手は明らかに20歳以上の成人男性で、圧倒的に俺のほうが年下だったが、そんなことは気にしない。
き、貴様!俺を愚弄する気か!
愚弄って……いきなり時代劇になった
俺は呆れながら男に説教し始めた。そして争いの原因である剣になんとなく剣に触れた。
大体なこんなオモチャひとつにいい歳した大人がなにを必死になっ……
あ
あ
あ
あ
あ
軽く触れたつもりだった。
軽く触れたつもりだったのに……
剣が岩から抜けた。
……抜けた
お、おめでとうございます!聖剣を抜いた勇者が現れました!
嘘、俺全然力なんか込めてないぞ!?
よくやった剣斗!流石俺の息子だ!
あ、ありえない……選ばれし者しか抜けないはずの剣が抜けただなんて、ましてや異世界人ごときに……
俺は伝説の剣を持ったまま事態が把握できずにいた。
い、いらねぇ……
これはもう剣崎家の家宝として未来永劫奉ろう!
子孫に永劫のガラクタを押しつけんなよ
馬鹿な……そんな……
勇者様……
どうやら剣を抜かれたのが本当にショックだったようで、この勇者のコスプレした痛い奴はガックシうなだれていた。
そんなに欲しかったのかよ……アマ○ンで買えんだろ
すると、野良の勇者がすくっと立ち上がり剣を欲しそうにこっちを見ている。
・・・・・・・・・・・・・・・
うわ~めっちゃこっち見てる……
野良の勇者が剣をもの欲しそうにこっちを見ている。どうしますか?
1、剣を譲る
2、無視する
はぁ、仕方ねぇな
こいつが駄々こねて、あの女の子がまた八つ当たりされるかもしれないしな。
おい
なんだ……
ほら
!?
なんのつもりだ?
だからやるよ。欲しいんだろ?
フンッ!物乞いの真似事までして俺が欲しいと思うか!
うわ~こいつめんどくせぇ……
なら、ほらあんたにやるよ。
ほぇぇ!?メルルにくれるんですか!
ああ、やるよ。
なっ!貴様なにを勝手なことを!
あんたに言ってるんじゃねぇ、俺はこの子に言ってるんだ
はい!ありがとうございます!
女の子は素直に感謝を述べてお辞儀をして受け取ってくれた。
チッ、いくぞ!
あっ、はい勇者さま!
騒がしいコスプレした男女はさっと去っていった。
スタッフじゃなくて中二病を拗らせていたのか……
・・・・・・・・・・・・・
すると俺の横でガックリと項垂れながら重い空気を出している中年が、恨めしそうに剣を持ち去る彼等を見ていた。
親父が剣をもの欲しそうに見ている。どうしますか?
1、剣を譲る
2、無視する
無視だ。
くっ・・・・・・・・・