霊深度

-1の、

カゲツ

私は私! 

CridAgeT

********

いんぽーとさくせいてすと!

鬼さんこちら、手の鳴る方へ

また遊ぼうね!

懐かしい声を聞いたような気がして、私は目覚めた。

なんだか奇妙だ。

朝焼けの部屋は妙に眩しかった。

ぼんやりした頭をはっきりさせるべく、私はケトルに水道水を流しこんでスイッチを入れた。

戸棚を漁ると、緑茶が見つかった。

……悪くないね

茶濾しをマグカップにセットして、茶葉を適当に入れる。


その上からザラメをざざっと流し込んで、

お湯を回しかけるようにたっぷりと注いだ。

ザラメ糖はけっこう溶けにくいけど、熱くしたお湯をこんな風にかけてやれば、しっかりと溶け込む。なにより、下だけが甘くなることもない。

口に含むと、さらりと染み込むようなやさしい甘みが緑茶とともに広がった。

うん、美味しい

はちみつも美味しくて良いけれど、独特の香りとコクがあるから、時々疲れてしまうのだ。
朝のまどろみを楽しむには、このくらいが好きだ。

今日は、何かあるかな

マグを片手にタブレットを開く。今日は用事のない休日。出かけるのも良いけれど、家でのんびりとしていたいような気もする。

最近話題のニュース以外には、特に何もないみたいだ

コップを置いたとき。

壁を突き抜けて、あいつが飛び込んできた。

……う る さ い

カゲツ

先生今日も朝から辛辣!

カゲツ

でも知ってますからね、先生は今日はご機嫌!

少女の姿をしたそれは、喋りながら空中でくるりと一回転してみせた。

カゲツ

うん、この部屋の空気、本当に柔らかいですぅ! 

「先生がご機嫌な可能性90%のこの天気と曜日、時間の組み合わせ

機嫌が良いとき限定のこの緑茶の繊細な香り

「『悪くないな』って、先生の『すごく好き』の意味ですし!

カゲツ

……あと、私への態度がそんなにきつくないですね、嬉しいですよ?

カゲツ、今日は気まぐれ屋か? それとも新しいやつか?

カゲツ

少女は急に勢いをなくして、地面に降り立った。



その少女は、

奇妙に軽やかで。

膝から先は透けていて。

そして、

地面に付く足はなかった。

カゲツ

先生、私に会うといっつもそれ

? 駄目だったか?

カゲツ

そうですよね、先生は『先生』ですもんね、私なんてただの珍しいサンプルなんでしょ?

……研究室の方が良かったのか?

カゲツ

違 い ま す!!

少女は、マグカップを包むように座り込んだ。

手で包み込むようにして、鼻をそっと寄せているのだった。


カゲツ

……良い香り

……

カゲツ

先生、私、先生の作るカップとか、お菓子とかの香り好きですよ

……そうか?

カゲツ

これがないところは、嫌です

そうか

緑茶の湯気が、なまぬるく間を流れてゆく。

なんだか時々、朝のゆったりとした、静かであるべき時間が、気まずい沈黙のように聞こえることがあるのだ。
私はタブレットを放り出した。

……さっきのは、どういう意と―――

カゲツ

先生

普通の状態では、霊は現実のものに触れることはできない。


この、ひどく弱い霊の少女、銅貨一つ動かすのにも苦労する彼女は、
……どんなに力を込めたものか、私にそっとカップを差し出した。

カゲツ

先生がなんと分類しようと自由ですけど、私は私、ですから

……

覚えておこう

私はカゲツから受け取るかのようにカップを持ち上げて、しっかりと両手に支える。
また一口、口にする。

私が君を無理言ってまでここに置いているのは

なぜ君といると心が安らぐのか、それが知りたいだけなのだけど、な

マイナス1

霊深度 残り???

霊深度マイナス1の  「私は私」

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