被弾の衝撃で優の身体が傾く。加速状態でバランスを崩したら大怪我しかねないが、優はうまく体を転がして立ち上がった。
二人の二次魔法士が対峙する。

流石というか、何というか……バケモンかよ

同業者に言われるとはな

会話で間を稼ぎつつ、思考を巡らせていた。正直ベクトル操作魔法士は距離を詰められると、応戦のしようがほとんどないのである。

かといって、安易に距離をとらせてはもらえないだろうしな……

優に悟られないように距離をとる方法はまずないだろう。戦う方法がないわけではないが……。

頼みがある

優は光の会話を遮った。
真剣な面持ちと声に、光は身構える。

百合音を逃がしてやってくれないか

はぁ?

もしくは軍で彼女の自由と安全を保障してくれるだけでも十分だ

お前、何言って……第一、百合音ちゃんを利用しようと誘拐したんじゃ……

唐突な優の懇願に光は戸惑う。自分の気を乱そうとしているようには見えない。

百合音をどうにかしようとは微塵も考えていない。ただ、魔法が使えるとわかった以上、軍が放っておかないだろう。彼女はいい研究対象でしかない

それは、そうだけど……

お前は百合音を知っているようだ。それにその肩章から察するに地位もあるだろう? 何とか、できないか?

光の肩章には二次魔法士であることを示す印の他に、四つの星が記されている。
つまり、二次魔法士隊の清宮賢二に次ぐ位だ。賢二に対する発言権もある。

何とかできるならしたいけど、難しいね。君が従軍したところで、遺伝子した魔法士なんて格好の研究材料だ

なら、俺はお前を殺して逃げるしかないな

百合音

こ、殺すなんてダメです!

岩陰に隠れていた百合音が飛び出してくる。優と光のいる場所からは少し距離があるが、光の他に追手がいないとは限らない。

出てくるな!

百合音

でも! 殺すなんてダメです!

百合音は一般人だ。優とは「殺し」の重さが違う。優しい百合音なら尚更だろう。この反応も頷ける。
しかし、状況はそう甘くない。誰も殺さずに逃げ延びるのは、不可能だ。

百合音、ちゃん

百合音

み、光さん……!?

百合音は光の姿を認めると驚いて目を見開いた。遠いからか、確証はなさげだが。

もう一つだけ、お前に選択肢をやる

光を見た百合音の反応に、優は仕方なさげに呟く。

俺たちと一緒に来る気はないか

ハァ!?

百合音もお前を知っているようだからな、殺しにくくもなるさ

光は訝しげに顔をしかめる。「特殊二次魔法士は感情がない」と聞いたことがある。それは優の仕事ぶりに裏付けられた噂だ。

どんな事情があれ、殺すのを躊躇うことはないって聞いてたんだけどなぁ……

百合音

やっぱり光さんだ!

いつの間にか顔がはっきりと認識できるところまで来ていたらしい。急に思ったより近くで百合音の声が聞こえて、光は声を上げて驚いた。

わぁ!

すかさず優が光と百合音の間に割って入った。

隠れていろと言っただろう……

百合音

ごめんなさい、でも……

柄にもなく、優が盛大にため息をついた。

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