光は視界に表示される地図を見ながら優の追跡を続けていた。

反応が、消えた?

いつの間にか優の現在地を示す赤い点が地図上から消えていた。二次魔法士に課せられたGPSを解除するにはかなりの労力を使うはずだが。

ここが叩きどころだな

唐突に訪れた好機をものにしようと、光は追跡の足を速める。確か、岩場の方に向かっていたはずだ。

遠くに何やら言い合っている少年と少女を認める。優と百合音だ。
光は悟られないよう、ゆっくり岩を存分に使いながら接近する。

血……? なるほどね……

優の足元に広がる血の池を見て、マップの反応が消えたことに納得する。自分の服や体内に仕掛けられたGPSや盗聴器などをすべて物理的に破壊したのだろう。
やはり好機だった。
光はほくそ笑む。あの出血では万全には戦えないだろう。

魔法起動式ロード
コード:VM  ベクトル操作魔法

発動

光は手持ちの矢を掲げ、岩陰から射出した。
矢にかけられた力を操作して優を狙う。

百合音! 下がれ!

あの怪我であんな反応できんのかよ!

優は飛んできた矢に気づき、百合音を自分の後ろへかばう。矢は優のガードした腕に突き刺さった。
しかし、上出来だ。と呟きながら光は場所を変え、もう一度矢を射出した。

なんだ? 体の反応が鈍い。

優は百合音を岩陰に隠し、あたりを見回す。
もう怪我は治っているはずなのに思うように体が動かない。
優の視界に赤い警告文が表示された。

不正アクセスを検知

魔法演算領域機能停止
二次魔法使用不可

魔法演算領域から発せられる電気信号が混乱し、使用できなくなったようだ。
優は腕に突き刺さった矢を見た。その矢は微かに電流を発している。その電流は魔法演算領域で使われるものと酷似していた。

こいつか

優は肉が抉れるのも意に介さず、矢を引き抜いた。ボタボタと血が流れだす。
しかし二次魔法である修復魔法は起動せず、微弱な不正電流は消滅しない。どうやらしばらく効果が続くようだ。

この分なら矢に掠っても効果が表れるだろう。例えるなら毒矢、だな

どこからかまた矢が飛んでくる。当たらないよう回避するが、様子がおかしい。矢のはずなのに、軌道が変わるのだ。どこから飛んできたのか推測できない。

ベクトル操作魔法士か

矢を避ける。
ベクトル操作魔法士は、重力を制御することはできない。つまりそう遠くない、矢が届く範囲にいるはずだ。

一次魔法起動式ロード
コード:CV  遠視魔法

発動

いわゆる千里眼を発動し、特に岩陰を注意深く見渡す。人が一人隠れられるような大きな岩は決して多くない。
時折飛んでくる矢を避けながら、矢の主を捜す。

いた

一次魔法起動式ロード
コード:AC  加速魔法

発動

優が光の前まで一瞬で詰め寄る。
ベクトル操作魔法士はみな、遠距離戦闘型が多く近接戦闘に持ち込むのがセオリーだ。

一次魔法も使えるとか、聞いてないよ!

それもそうだ。優は「特殊二次魔法士」と伝えられてはいるが、魔法力が強いとか珍しい魔法が使えるとか、その程度の情報しか出回っていない。
その軍事機密をある程度公にしてでも、優を捕獲したいという軍の思惑がうかがえる。

作戦の前に伝えてくれよ、と光は悪態をついて優に仕込んでいた銃を向けた。
加速した優に応戦するのは至難の業であるが、光も優秀な二次魔法士だ。反射速度は常人の比ではない。

弾は優の右足をかすめた。

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