2058年、人類は異世界旅行を実現させた。
今から20年くらい前に、どっかの外国の科学者が地球とは異なる世界が発見し、そこに行く渡航技術を発展させた。それが異世界旅行である。
詳しくはよくわからんが、地球のお隣にある世界らしく、そこには地球上にない生き物や、科学で説明できない未知の力があるそうだ。
簡単に言うとモンスターやら魔法やらある滅茶苦茶な世界だ。笑えるだろ？ 思いっきりファンタジーの世界だ。
その世界とはジェネシックワールド。
どっかの恐竜映画のタイトルをパクったような酷いネーミングセンスだ。
ジェネシックワールドでは魔法やらモンスターやらを生で見ることができる。異世界の観光まで可能にさせたわけだから、今の人間の科学の力には脱帽だ。
だが、俺にはそんなものの発展よりも、いい加減メンテばっかの運営のクソサーバーをもっと発展させて欲しいがな。
俺が子供の頃は異世界に憧れててな。小説サイトで異世界ものの小説を書いてはよく投稿していたもんだ。
聞いてないし
て言うか、その話もう何百回目だよ。聞き飽きたっての。
そうか？ 百回も喋ったっけ？
はぁ・・・
親父は昔から異世界やら剣やら魔法やらが好きだ。
おかげで俺の名前は剣にちなんで、
『剣崎剣斗』というふざけた名前を付けられた。
なんで剣が二つあんだよ！ 語呂わりいじゃねぇかと前に抗議したら。
二刀流ってロマンだよな！
と、ふざけた回答をされた。
このキラキラネームのおかげで
俺のあだ名が「ケンケン」になり、
昔から知り合いにからかわれる日々を送った。
まぁ妹よりマシか・・・・・・
俺には６つ下の妹がいる。
妹は小学校の林間学校で、この家族旅行には来てない。
妹の名前は『剣崎魔路狩』
いいか魔路狩（マジカル）だぞ。
あまりにも酷すぎる。
幸いまだ小三だから、マジカルの名前が妹の大好きな魔法少女もののアニメっぽくて本人は気に入ってるみたいだが、中学上がったら不憫なことになるのは俺の経験上まず間違いない。
妹のこれからの人生が実にいたたまれなくなる。
全ては親父が異世界ファンタジー好きで俺ら兄妹はＤＱＮネームを一生名乗らなければいけないという業を背負わされてしまった。
マジカルはほんとひでえな・・・・・・・
俺は剣よりガンのほうが好きだがな。
これより本便はタイムワープに入ります。そのままシートベルトをし座席に座ったままで、大変揺れますので決して席を立たないようにお願い申し上げます。
異航機は高度3万3000フィートまで上昇してからが本番だ。これからタイムワープという異空間ワープが行われる。
ひらたくいえば助走だ。
俺も詳しくは知らんが、
異空間ワープをするには長距離加速が必要らしい。
空港の滑走路の距離じゃワープするには足りないから、滑走路に制限のない上空まで上昇し、そこから加速して異空間ワープするそうだ。
こう聞くとなんだ楽そうに聞こえるが、
本番はここからだ。
どうやらこの加速の仕方にかなり問題がある。
異空間ワープには音速を超えるスピードが必要らしいが、現在音速を超えるスピードが出せるようなエンジンは開発されていない。ならばどうやって音速を超えるスピードを出すのか？
結論をいうと垂直落下である。
地球の重力を利用して機体を垂直に傾け、
遥か3万3000フィートの上空から地面に向かって突っ込むそうだ。それによりワープに必要な加速力を得るらしい。
クレイジーな異空間ワープの方法だ。
だからもうただのシートベルトではない。
これは最早ジェットコースターのような絶叫マシンによく使われるようなシートベルトだ。完全に身体を固定されている。
異空機は段々と垂直態勢になっていく。さながらジェットコースターで一番高いところまで徐々に上がっていき、一気に落下する心境だろう。心臓がバクバクと高鳴り、その瞬間がこようとする。
異空間ワープを開始します。対ショック態勢、3……2……1……
俺を乗せた異航機2018便は垂直落下した。
キャアアアアアアアア！
他の乗客は絶叫をあげる。気持ちわかる。さすがに俺も怖い。
とんでもないGが身体にかかり、凄まじいまでの揺れだ。
ヒャッホー！
隣にいる親父はハイテンションで楽しんでる。
だから異世界旅行なんか来たくなかったんだよ！
洒落にならないくらい怖ええ！
タイムワープ開始
タイムワープ成功。
これより異空間の景色をお楽しみください。
どうやらタイムワープは無事に行われたようだ。帰りもこれをまたやるのかと思うと辟易する。
もう二度と異航機なんかには乗りたくない。
剣斗！ 母さん！ 外見てみろ外！
わぁ、綺麗ね～
窓の外は先程までの空の景色ではなく。
異様な景色に変わっていた。
これが異空間というやつだ。テレビで見たことはあるが生で見るのは今が初めてだ。
写真撮ろう写真！
親父の奴は案の定オオハシャギだ。息子より楽しんでるじゃねぇよ。
お！ お姉ちゃんワイン頂戴ワイン！
はい、ワインですね♪ ありがとうございます！
あっ！ やっぱワインキャンセルで！ せっかく異世界に来たんだから異世界のお酒にしようかな。ぶどう酒ください！
わかりましたぶどう酒ですね。600円になります。
やっぱ異世界の王道はなんといってもぶどう酒だよな！ はっはっは！
親父、ワインもぶどう酒も同じだ
騒がしい親父を横に俺達を乗せた異航機はジュネシックワールドを目指す。
間もなくジェネシックワールドに到着します。タイムワープを抜ける際、本便は揺れますので安全のためシートベルトを着用し、そのままお待ちください。
おっ、そろそろ着くようだな！
窓の外から閃光が走った。
そして、先程までの異色な外が嘘のように消え、
青い空の色が窓から射し込んだ。
外の景色は圧巻したものだった。
雲を貫く高い山々と、広大な緑の大地、
そしてせせらぎのある河に、中世にあるような民家がそこかしこに見えた。
現在、本便はジェネシックワールドに入国致しました。異世界ファンタジーの世界にようこそ。
はぁ・・・来ちまった・・・
俺は溜息をつきながら、異世界に足を踏み入れてしまった。
一方その頃、地上では
剣斗を乗せた異航機を忌々しく見上げる
二つの人影があった。
鋼鉄のドラゴン……また侵略者がこの世界に来たのか
勇者さま～待ってくださいよ～
遅いぞメルル！ ちんたらするな！
ふぇえええん、ごめんなさいですぅ
魔法使いのような恰好をした女の子は、明らかに体躯に見合わない大重量の荷物を抱えながら泣きそうな顔をしていた。
はぁ……はぁ……ゆ、勇者さま、ちょっと休憩させて欲しいですぅ……
はぁ？ 休憩だぁ？ ジェネシックパークで彼らと落ち合う手筈なんだぞ！
でも……勇者さまは身軽だからメルルより先に行ってちょくちょく休憩してるけど、メルルは朝から歩き続けで足が痛いのです。
お前がトロいから待ってやってんだろうが！
ひぃぃぃ！ ごめんなさいです！ ごめんなさいです！ だからぶたないで～
チッ、ぐずぐずしていると置いてくからな。
ファンタジーものの恰好をした二人組は、ジュネシックパークを目指し歩き出す。
その謎の二人組を、背後から遠くで、彼らに気づかないように監視している者がいた。
CQ、CQ……こちらコードデルタ。目標を捉えました。数は二名です。
どうしますか大佐？ 拘束しますか
ンーンー♪ それでは芸がありませんねー
アー本部よりコードデルタ、そのまま目標を捕捉し追跡を続行してください。
了解、コードデルタはこのまま追跡を続行します。
よろしいんですか？
もう少し泳がせようじゃありませんか
しかし、奴等が目指している先は民間施設です。ここで拘束しておかねば……
なんで彼等はジェネシックパークを目指しているのかお分かりですか？
……いえ
まさか観光しにいくわけじゃないですよねぇ♪ わざわざ敵陣のド真ん中を目指すなんて自殺行為だ。そんな危険を犯してまで目指すその理由は？
・・・・・・・・・・・・
イエローモンキーのことわざに、灯台デモクラシーということわざがあるそうです。
灯台もと暗しです大佐
あ、そう。まぁ言葉なんかどうでもいいんですよ。つまりは彼等は小賢しくも我々が普段目の届かないところに秘密を置いた。
まさか・・・・・・
奴等はテロリストに合流する気だ。
ジェネシックパーク内にテロリストがいると!? それは大変だ！ 急いで日本政府に報告しなければ！
その必要はありません
は？
日本にはテロリストを見抜けなかった責任を負ってもらいましょう。
しかし、パークには大勢の民間人が……
尚更御の字じゃないですか♪ 日本にはここの利権から早々に離れてもらう口実ができて、我が祖国のライバルがひとつ減るのですから♪
それに、これはテロリストを一網打尽にするチャンスです。まさに一石三鳥というやつです♪
一石二鳥です大佐
いや、三鳥ですよ。三つ目は……
人間狩りを楽しみたいじゃないですか
