村外れにある山の麓(ふもと)に建てた山小屋は父親が自然と共存してきた獣人の家を真似ている。
山は村を囲むように三方に広がり、その先は獣人の国へと続く深い森に繋がっている。
人間と獣人の戦争で、俺達の父親は片腕しか戻ってこなかった。
もしかしたら片腕を失っただけで何処かで生きているかもと最初の何年かは信じて待っていた。しかし、何年待っても戻らない父親に、俺達はゆっくりと諦めの感情を抱え始めていった。
母親が死んだとき、見晴らしの良い山の中に墓を作った。
獣人の国との境界にある森や山まで村人は入って来ない。
布に包み木の箱にずっと大切に保管していた父親の腕と共に母親を埋葬したことは、”俺は体験していない”はずなのにしっかりと”覚えている”。