伊月真人

君は、我が詭弁部に入りたまえ!

雨宮鳴海

何故そうなる!?というか、そもそも

雨宮鳴海

詭弁部ってなんですか?

伊月真人

ん?てっきり君は、詭弁の意味を知ってるもんだと思ったが…………詭弁というのは、主に説得を目的として、命題の証明の際に、実際には誤りである理論展開が用いられている推論。これ!詭弁部なら暗記必須だよ!

雨宮鳴海

いや、詭弁の意味を聞いてるんじゃなくて、詭弁部がどのような部活か、ということです。

伊月真人

それは言葉の通り、詭弁を愛し、詭弁を誇りに思い、詭弁に埋もれる。詭弁家の詭弁家による詭弁家の為の、詭弁を言い合う部活だ!

雨宮鳴海

全然、言葉通りじゃねえ……

伊月先輩の溢れんばかりの詭弁愛は伝わったが、俺にはもう一つ疑問に思った事があった。

雨宮鳴海

詭弁部なんて部活動紹介の時にありませんでしたよね?

流石に一ヶ月前の事を鮮明に憶えているわけではないが、こんなに変な人がいたら忘れるわけない

伊月真人

それは当然だ、俺が見込んだ奴じゃないと入れたくない

雨宮鳴海

なんとも自己中な…………そして俺はまんまとその見込んだ奴に選ばれたのか………ついてねぇ……

雨宮鳴海

因みに、条件とかあるんですか?詭弁好きとか?

伊月真人

ない!俺の独断と偏見で選んでいる。異論は認めん!

雨宮鳴海

ですよねぇ~

条件があれば、それに至ってないからとか適当な事を言って退散できたのに

雨宮鳴海

それも詭弁で説得されそうだな

とにかく色々詰んでいた

雨宮鳴海

いや、僕は結構です。

伊月真人

そうか!差し支えないか!

雨宮鳴海

あ、これ悪徳商法でよくあるやつだ

結構ですには
1:差し支えない 2:不要である
の二つの意味合いがある。

雨宮鳴海

狡い奴は「いらない」の意味で言ったのに、わざと「構いませんよ」という意味合いで捉えるんだよな。こういう時はキッパリと断るのが定石だ。

雨宮鳴海

俺は詭弁部には入りませんよ。

伊月真人

雨宮君は部活に入っているのかい?見たところそうは見えないけど……

見た目で帰宅部と判断されたのに多少は苛立つものの、正しいので何とも言えない

雨宮鳴海

確かに部活には入っていませんが、詭弁部に入る気もありません

伊月真人

何故かな?

雨宮鳴海

…………今はそういう気分じゃないので……

別段、そういう気分が俺の中に存在するわけではないが、それ以上に忘れかけてた先程の失恋を頭の中で鮮明に思い出してしまった

伊月真人

……………………

雨宮鳴海

………………………

伊月真人

…………ふむふむ、察するに、想い人に振られたのかな?

雨宮鳴海

っ!!?

伊月真人

あ、いや、ごめんごめん。これでも鋭さと頭の回転は早い方でね。雨宮君の心の傷を抉るつもりはなかったんだ。

雨宮鳴海

……………………

気まずい空気が辺りを包む、伊月先輩も俺の気持ちを汲んでくれたらしい、それ以上の詮索はしてこなかった………

伊月真人

悔しくはないか?

雨宮鳴海

えっ?

………何てことはなく、俺の心の内側に侵入してくる

伊月真人

一度振られたからといってあきらめるのは、ただ次も振られるのが恐いと感じてるだけの臆病者だ。君は臆病者じゃないだろ?なら何度でも告白するくらいの意気込みでいかなきゃだめだ。

雨宮鳴海

………それも詭弁ですか…

伊月真人

さあね

伊月先輩の言葉が本当に詭弁かどうかなんて俺には分からない。でもその言葉は、少しだけ、ほんの少しだけだが、俺に勇気を与えてくれた

雨宮鳴海

どうしたら………いいんですか?

伊月真人

そうだな、先ずは言葉を巧みに操ることだ

雨宮鳴海

言葉を……ですか………

伊月真人

あぁ、何かで見たのだが、恋で大事なのは第一印象らしい。何でも8割を占めるとか……

雨宮鳴海

8割…………ってそれ

雨宮鳴海

俺、望み薄じゃないですか!

伊月真人

ん?そうか?

雨宮鳴海

そうでしょ!第一印象が告白なんて……

伊月真人

最高じゃないか!

雨宮鳴海

最悪じゃないですか!

最高と最悪、俺と伊月先輩から出てきた言葉は正反対の言葉だった

雨宮鳴海

はっ?最高?

伊月真人

それは勿論、これも何かで見たのだが、告白されてからその人を意識して好きになるケースがあるらしい

雨宮鳴海

そ、そうなんですか!

伊月真人

あぁ、この世に告白してくれた人を意識しない女性がいるだろうか?

伊月真人

だとしたら雨宮君、君は既に第一印象の8割を手にしているも同然だ!

雨宮鳴海

うおぉぉぉぉぉぉぉ!

後から振り返ったら、これこそ詭弁だろ!と自分に言いたくなるが、疑いもせずに俺は伊月先輩の言葉に乗せられていった

伊月真人

だったら、次は第二、第三の印象を良くするのが必然!それに欠かせないのは何度も歩み寄る勇気と、人を楽しませる話術だ!

雨宮鳴海

それにはどうしたら?

伊月真人

……………………

雨宮鳴海

伊月先輩?

伊月真人

ふふっ、はははっ、それこそ決まっている!再度君、に問おう!

伊月先輩は、それでもかという暗い息を吸い込み、思いっきり叫んだ

伊月真人

雨宮君!君は、我が詭弁部に入部しろ!

冒頭となんとなく似ている言葉に
それでも俺は、冒頭とは違う言葉で返事をした

#2 詭弁は一周まわってくる

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