広場を渡る風を伝って、肌が焼けそうなほどの熱気が伝わってくる。
炎に舐められ、熱に炙られて上がる苦悶の声を、広場に集った人々の嘲りと罵りに飲み込まれていく。

見ちゃだめだと優しい叔母の制止を振り切って、幼い私は人込みをかき分けて一番前に躍り出る。

そこにいたのは、紛れもなく私の両親。
山と積まれた薪の天辺に突き立てられた杭に体を縛られ、その体を食らい尽くそうと纏わりつく炎に焼かれ、苦しそうに顔を歪めながら、あるいは喉の奥から漏れ出る悲鳴を必死に押し殺しながら、それでも私の姿を見つけ、微笑む。

なんで?
どうして?
どうしてお父さんとお母さんが炎に焼かれなくちゃいけないの?
なんでこの人たちは、まるでサーカスのショーでも見てるように笑うの?

頭の中をぐるぐると駈けめぐる疑問に押さえつけられて動けない私へ、ふと炎の中の両親から声が届けられた気がして慌てて顔を上げる。
周りの喧騒は相変わらずで耳鳴りがしそうなほどだし、そもそも炎に焼かれ続ける両親にそんな余裕はないのだけれど、それでも私は確かに両親の声を聞いた。

それは、偉大な魔法使いだった両親が使う最後の魔法。
これから死にゆく魔法使いから、これからを生きる魔法使いの卵へ残す命の魔法。
そして、大好きな両親から大好きな娘へ送られる、最後の言葉だった。

■■■
幸せになれ

その言葉をきっかけとしたように、両親を包む炎がより激しさを増し、同時に私は叔母の手によって両親の前から引き離されてしまった。

嫌がって両親の元へ戻ろうとする私を、叔母は魔法で眠らせた。

そして次に目が覚めたとき……。
すべては終わっていた。

両親はあの広場で真っ黒になるまで焼かれ、親を失った私は叔母に引き取られることになった。

もともと、私と両親はごく普通の、幸せな一般家庭だった。
もっとも、両親を含む代々の家系全員が魔法使いで、私もまたその血を引いているという違いこそあったが。

ともあれ、魔法使いだった私の両親は、魔法使いたちを管理する魔法管理協会という組織に所属し、そこから回される依頼をこなして日々を暮らしていた。

裕福な家庭とはいえないけれど、それでも温かい両親と一緒に暮らす日々はこの頃の私にとって……いや、今でもとても掛け替えのない日々だった。

そんな日々が一転したのは、協会から回ってきた一つの依頼が原因だった。

それは、協会から除籍された「はぐれの魔法使い」が、魔法を使えない一般人の村を襲っているというので、その討伐任務。
当時、協会の中でも優秀だった私の両親はこの依頼を受けて、すぐに討伐に向かった。
相手の魔法使いの実力は、明らかに両親よりも下だったこともあり、当初、私を含めた全員がこの任務はすぐに終わるだろうと思っていた。

しかし、「はぐれの魔法使い」は、あろうことか、魔法を使えない一般人を盾に使ったのだ。
そのため、両親も協会から派遣された魔法使いたちも手を出しあぐねていた。
何せ、協会の規律には「魔法を使えない一般人の前で魔法を使ってはならない」という掟があったのだから。
そしてそのことを知っていた「はぐれの魔法使い」は、このことを逆手に利用したのだ。

そうして、成す術もなく次々と殺されていく仲間たちと村人たちを見て私の両親は、やむを得ず協会が定めた禁を破ることにした。

その後、どうにか討伐には成功したものの、両親を待っていたのは英雄としての賛辞ではなく、禁を犯した罪人としての誹謗中傷だった。
その結果、協会は両親を新たな犯罪者と断定し、私の両親はあの日、火刑に処せられた。

魔法で身を守ることもできず、炎に炙られ、黒煙に燻されながら苦しむ両親は、どんな気持ちだっただろう……。
私をあの場で見つけて、あの言葉を残すとき、両親はどんな気持ちだっただろう……。
何よりも、人々を守るために協会で働いてきたのに、その協会に裏切られて、どんな想いだっただろう……。

きっと……無念だったに違いない……。
きっと……悲しかったに違いない……。
きっと……憎かったに違いない……。

だから私は……両親の思いを継ぐことにした。
だから私は、両親を苦しめ、辱め、貶めた協会に復讐するべく、叔母の元で魔法の修行をした。

すべては協会へと復讐して、両親の無念を晴らすために……。

それから数年後。
叔母の下で修行を終えた私は、表向きは協会に所属する魔法使いとして働きながら、協会へと復讐する手段を探していた。

そしてそれを見つけた私が降り立ったのは、極東の島国、日本。

さぁ……ここから私の復讐を始めよう……。

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