それは遥か遠い昔…
まだ人類が地球の支配者でなかった時代。


紀元前の時代に遡る。


地球には二つの種族が存在していた。

一つは人間、

そしてもう一つは…

 天使である。

     


    




 この世界には天使が存在していた。



天上界に住む天使


地上界に住む人間

天使は人間を野蛮な人種と蔑み、迫害していた。


地上に住む全ての人間は天使にとっては奴隷だったのだ。
その支配体制は、人類が誕生してからずっと続いていた。


神が世界を支配していたのだ。


そんな世界にひとつの事件が起きた。

天使ルシフェル=サタナエルは法廷の場に出され、上級天使の裁判員から尋問を受ける。






ゼウス

静粛に

ゼウス

これより、大罪人ルシフェル=サタナエルの裁判を行う。

裁判官を務めるのは全知全能の神にして創造主であるゼウス。

彼は長い髭を触りながら大罪人ルシフェルをまじまじ見る。



ルシフェル=サタナエル

・・・・・・・・・・・・・

事態は深刻だ。
彼は禁忌を冒したのだ。

ゼウス

この者を人間の女を愛した罪によりエデンからの追放を命ずる。

それが彼の犯した罪。
 





人間は神を愛し崇拝するのは当たり前に対し、
逆に神が人間を愛することはあってはならないことだった。それが世界の秩序であり掟であった。
 だが、ルシフェルは安堵していた。
裁かれるのは自分のみでいい。そう思っていた。

ルシフェル=サタナエル

彼女さえ生きてくれさえいれば、俺は・・・・・・

ゼウス

続いて、この天使を誑(たぶら)かした人間の女の裁判を行う。

ルシフェル=サタナエル

なっ!?

ルシフェルはハッとし顔をあげた。まさか…

ゼウス

この者が愛した人間は神への生け贄として天罰を下す。

ルシフェル=サタナエル

待ってくれ! 彼女は関係ない! 裁くなら俺だけでいい! 彼女には手を出さないでくれ!

天使と人間の間には大きな種族の差別がある。

天使ルシフェルは天上界への追放のみで済んだが、

人間の女は別だった。
人間が天使と通ずることなど大罪。
死をもって償う道しか残されない。

ゼウス

これにて裁判を終わる

天使兵に引きづられながらルシフェルは必死に叫んだ。

ルシフェル=サタナエル

彼女は無関係だ! 俺は死んでもいい! だから彼女だけは!

ルシフェル=サタナエル

頼むゼウス! 俺の話を聞いてくれ! ゼウス!!!

ルシフェル=サタナエル

ゼウスウウウウウウウウ!!!

その日、一人の天使が天界から追放された。
 



これは堕天使となって、
神に抗った一人の天使が大魔王と呼ばれるまでを描いた物語…






第一章 反逆者レイヴン



















紀元前06年







【人間の住む地上界】


 城下町の一画に貼り出された一枚の懸賞金の書かれた手配書を町の住人は眺めていた。

村人A

また司教様が賊に殺されたってよ。

村人B

またかよ、これで6件目だぜ。今回もレイヴンの仕業か?

※レイヴン=ワタリガラスの意味。カラスより大きく不吉や不幸を呼び寄せると云われている黒いカラス
 

 最近、各地で教会関係者が次々と殺されていた。
生存者の話では漆黒の翼を纏う人間が殺害現場付近で度々目撃されていた。
この殺人鬼の名称をレイヴンと名付け、聖教会騎士団から指名手配を受けていた。

村人A

しかし、神の使いである教会の司教様を殺すなんて罰当たりな。こいつはよくてギロチン、悪くて火炙りだろうな。

地上界の人間は信仰に絶対だ。
この罪人に天の裁きが落ちると思っていた。

兵士A

ほらどけどけ! 邪魔だ

聖教騎士団の兵士が立て札に群がる住民をどかせ、
新たにレイヴンの手配書を差し替えた。

村人B

また懸賞金が上がったのか?

 民衆は興味深く手配書を眺める。

ベテラン兵士

お前らよく聞け! この犯罪者レイヴンはこの近辺にいるとの情報があった! もしもレイヴンらしき人物を見かけたら我々聖教会騎士団に速やかに報告せよ! 有力な情報提供の場合には銀一封を贈与する!

村人A

銀一封!?

報奨の話に住民は騒いだ。
この時代の金や銀貨は高価で、銀貨一枚で一ヶ月は飯に困らずに暮らせる。住民はその話に目を輝かせていた。

村人B

しかし兵士様、レイヴンって奴の風貌は一体どんなんで? 顔がわからなければ通報しようにもありません

ベテラン兵士

ぐっ…それは

レイヴンの後ろ姿をチラッと見たものはいるらしいが、顔を見たものはいない。だからどんな人物なのかわからない。男なのか女なのか、はたまた大人なのか子供なのか、もしかしたら老人かもしれない。

ベテラン兵士

と、とにかく! 怪しいと思った奴は片っ端に報告しろ! いいな! レイヴンを隠しだてする者も処罰する

兵士に住民は散らされる。

兵士A

 しかしレイヴンとは一体何者なんでしょうか?

新米の兵士はベテランの先輩に聞いた。

兵士A

聞いた話だと一振で五人を斬り伏せるほどの大男とか、魔術を使い呪いで全身から血を吹き出して殺す魔女だとか…

ベテラン兵士

そんな他愛もない噂話に踊らされるな! 我々には神の御加護がついている神の尖兵なるぞ! そんな弱腰でどうするか!

 ベテラン兵士が弱気な新米兵士に怒鳴った。













【領主の屋敷】

 そこには酒を浴び、裸の美女達をはべらかす醜く太った巨漢の男がいた。


その男の背中には純白の羽根が生えている。
彼はこの地を治める天使である。
この天使は地上界に降り、領主の屋敷に居座っては酒池肉林の贅沢三昧の日々を繰り返していた。

天使

ぶっひひ、苦しゅうない苦しゅうないぞ!

キャハハ天使様のえっち♪どこ触ってるんですか~

天使

ほれここがええんか?ほれほれほれほれ♪

女達と乳繰り合ってハシャいでいる巨漢の天使。
そこに横で控えていたこの土地の領主は満足そうに言った。

領主

天使様に満足して頂き光栄でございます。さぁもっと酒を持て!

次々と酒と豪勢な料理が天使の元に運ばれてくる。
巨漢の天使はさも満足そうに子豚の丸焼きにむしゃぶりついた。

天使

おい領主! 中々の持てなしよ。我は満足じゃ

領主

有り難きお言葉であります天使様

うやうやしく頭を垂れる領主。

天使

それよりもお前の領地にあるマゴイ村の村長の孫娘はまだこんのかのう?

領主

それなんですが…

 マゴイ村とは、この土地にある小さな村で主に羊の毛を使った綿織物で生計を立てている田舎の村である。そこの村長であるマゴイには一人の孫娘がいた。齢13になる少女である。

その孫娘は村一番の美少女で村の皆から愛されていた。

それを天使は自分の夜伽に寄越せと申し出ていたのだ。

天使

13歳の処女の身体は堪らんなぁ、破血し泣き叫ぶ姿を眺めながら健気な少女を壊したいものだブヒヒ

気分が舞っていた天使に言いにくそうにしている領主。

天使

して、いつ来るのだ?

領主

それが…

天使

なんだ? 言いたいことがあるのならはようせい! 怒らずに聞いてやるぞ

領主

村長のマゴイが孫を天使様に出すことを渋ってまして、散々言ってはいるのですが…

その時、巨漢の天使は豪勢な料理を全てひっくり返した。

天使

な~ん~だ~と~!

みるみるうちに剣幕になっていく巨漢の天使。その瞳にはさっきまでの温厚な顔はない。

天使

僕ちんを馬鹿にして随分舐めたことをしてるな人間風情のくせに

怒りの形相を浮かべる巨漢の天使の真横で接待していた妙齢の女性が笑いながら天使の杯に酒を注ぐ。

まぁまぁ天使様♪そんな怖い顔しないで、そんな田舎娘より私達と楽しみましょうよ♪」

そう言った若い娘は天使の腕に抱きつく。

しかし、天使はギロリとその女を睨み付け不快そうに言った。

天使

お前、ちょっとケバいぞ

え?

すると女の頭からとんでもない重力がのし掛かり押し潰された。地面には血だまりでできた丸いくぼみだけが残った。

領主

ひ、ヒイイイ!?

目の前で女が殺され領主は怖れた。

天使

神の使いである天使を愚弄するからこうなるのだ

領主

申し訳ございません! 申し訳ございません!

土下座する領主を見下ろしながら鼻をつく巨漢の天使。天使は杯に注がれた酒を一呑みすると大声で領主に命令した。

天使

聖教騎士団を呼べ! 僕ちんの命令だマゴイ村を焼き払え!女子供全て皆殺しだ!

領主

み、皆殺しですか…

天使

そうだ。ただし村長の孫娘だけは生かして捕らえろよ! あの娘は僕ちんがこの世の快と悦を身体に教え込んでやるからな!

領主

ハッ、ただちに! 衛兵! 衛兵はいるか!

領主はそう答えると衛兵を呼んだ。
しかし、誰も来ない。

領主

おい! 何をしておるか! 天使様の直々の命であるぞ!

やはり誰も来ない。

領主

おい! 衛へッ・・・

その時、勢いよく扉が開き一人の衛兵が現れた。

領主

遅いぞ! 何をしていた呼んだらさっさと来ぬか!

兵士A

・・・・・・・

衛兵は答えない。

領主

おい、どうした返事をし…

すると、衛兵は突然目の前で倒れた。

天使

!?

領主

!?

驚愕する天使と領主、衛兵が立っていたとこには、フードを被った見知らぬ人物が立っていた。

領主

な、何者だ貴様!?

???

答える義理はないな

フードの男は答える。顔はフードに隠れて見えない。

領主

な、なんだと! ええい賊だ! 集まれ!

しかし誰も来ない。

領主

何をやってるんだ、こんなときのために高いカネ払っているのに!

???

外にいた奴等か? それなら今頃オネンネ中だ。

領主

まさか、数十人はいた用心棒を全員倒したのか、どれも少しは名の馳せた連中だというのに…

領主はわなわなと震えていると、
その横では侵入者を気にもとめず、黙々と肉を食っている巨漢の天使。

天使

なんだ貴様は?

???

ようやく会えたな…

天使

僕ちんを誰かと知っての狼藉か?

???

ああ、よく知っている。天使様だろ

天使

なら身の程を弁えろ人間。殺すぞ?

???

殺れるものなら殺ってみて欲しいものだ

天使

チッ、いるんだよな。身の程を弁えない勘違いした馬鹿が

天使は座ったまま、重力魔法を侵入者に繰り出した。10tの重力が侵入者にのし掛かかる。

???

!?

天使

ぶっひひ、これが神の裁きだ

そう、侵入者はなす術もなくみるみるうちに潰され…潰され…潰さ……れ?

天使

ぶっひ!?

???

そんなものか?

天使

潰れない!? 馬鹿な! ありえない! 非力な人間が何故ミンチにならない!?

侵入者は重力を気にもとめず巨漢の天使の元に歩いていく

天使

ぶ、ぶひ…何故だ!? なんで…

???

ぶひぶひ五月蝿いぞ…このブタめッ!

フードの男は右手にはめたガントレットで豪快にブタ野郎の鼻先を殴り飛ばした。

ブタ

ぶひいいいいい!!!

領主

て、天使を殴った!?

その様子に呆気に取られる領主。
人間の上位種族にある天使様を恐れ多くも人間が殴り飛ばしたのだ。天使は鼻を押さえてあわて

ブタ

き、きひゃま! 天使である僕ちんにこんなことして只で済むと思っ…

???

知らないな

ブタ

ぶひいいいいい!!!」

更に拳撃を鼻先にブチかますフードの男。
巨漢の天使は鼻血を出しながら慌てて侵入者への暴力を止めようとする。

ブタ

ま、待へ! 僕ちんはてんひ(天使)らそ!とっても偉いんだひょ!

???

そうか、そいつはよかったな。

ブタ

ぶひいいいいい!!!

容赦なく殴り続ける侵入者、巨漢の天使は口から血を吐き出していた。

天使

ず、図に乗るなよ人間が!!!

天使は詠唱するとカマイタチが発生して侵入者に風の刃が襲いかかる。
その隙に、天使は男から逃げるように離れた。

天使

へ、へへーん! どうりゃ! 僕ちんを本気に怒らせたらこうなるんりゃ!

至近距離で風の刃を受けたら生身の人間はバラバラになる。

当然、この男もバラバラに切り裂かれている・・・・・・・・・・・はずだった。

天使

う、うひょれしょ...(嘘でしょ...)

バラバラ切り裂かれたのは男が着ていたフードだけ、そこに現れたのは 瞳の色は深紅に染まり、
肩まで伸びた黒い髮には紅の角飾りをつけ、赤と黒の甲冑に身丈は190はある。凛々しい顔をした青年だった。

???

こんなものか、天使様というのは

天使

お、おまえ…ほんとに人間か?

???

人間…か、どうだろうな。人間だろうし人間ではないかもしれないな

天使

僕ちんの魔法をくらって平気な人間がいるか!!!

???

そういうお前はブタなのか? 他者から略奪してブクブク肥え太らせて、とても天使とは思えんほど醜い姿だ

天使

りゃ! りゃまれ!(黙れ)

醜いブタ天使が雷撃を指先から飛ばす。


青年の顔に直撃するが、青年はなんともないように立っていた。

???

お前の魔法は下の下、ずっと力の制御をサボっていて初級魔法以下だな。大方お前、天使族の中でも小間使い程度しか仕事できなかった口だろう?だから地上に降りてまで憂さを晴らしていた...違うか?

天使

な、なんでお前りゃんかが天上界のことを知ってるんだ!

???

やはり小物か...

天使

地上界に住む人間が決して知りうるはずのない天上界のことをこの男は知っている。こいつまさか天上界にいたことがあるの......ハッ!?

ブタ天使は青年の顔にどこかで見覚えがあった。
それは今から数年前、
地上界の人間と恋に落ちた堕天使がいたことを、
禁忌を破った罰により、
片方の翼をゼウスにもがれ、
人間になった憐れな大罪人のことを…

天使

お、お前はもしかして…ルシフェル!? まさかルシフェル=サタナエルか!

今ハッキリと思い出した。
かつて大罪人として、天上界全域にルシフェルの顔が載ったリストが出回っていた。

面影が大分変っていて最初はわからなかったが、その風貌はまだ残っている。
あのリストの人物だった。

天使

ルシフェル=サタナエルだろ! そうなんだろこの大罪人が! 天使の面汚しめ!

???

違う

天使

はぁ? 何とぼけてやがる! お前の面は天上界各地で知れ渡っているんだぞ!天上界に楯突きやがって

???

違う、私は天使族の名の象徴である『エル』を捨てた。今の私は…

ルシファー=サタン

ルシファー=サタンだ

ルシファーは腰に差した黒い大剣を引き抜き
ブタ天使の右足を一閃に切断した。

ブタ

ぎゃあああああああああ!!!

切断された右足を抱えてのたうち回るブタ天使。

ブタ

なんで!なんで僕ちんの足!あしがああああああ!!!

領主

なっ! 馬鹿な! ただの剣では天使様の身体に傷一つつけられるはずがないのに・・・

普通の剣では天使を斬ることはできない。
しかし、ルシファーの持つ大剣だけは違った。

魔剣ダーインスレイブ

ヒヒッ…ヒャッヒャッヒャ! 旨エェ! 旨エゾ! 血ダ血ダ! モット! モット俺ニ飲マセロ!!!

領主

け、剣が喋った!?

剣の鍔の部分には赤黒く充血した大きな眼がついている。まるでその剣は生きているかのようだった。

ルシファー=サタン

落ち着けダーインスレイブ…いま好きなだけ吸わせてやる

魔剣ダーインスレイブ

ヒャハッハッ! 血血血血! 天使ノ血ハ旨エェヨォォォ!!!

ダーインスレイブと呼ばれる魔剣は血を渇望するかのように禍々しいオーラを放っていた。

ブタ

ひっひぃぃぃ!!!

それを見て恐怖したブタ天使は逃げようと翼を広げ飛ぼうとした。
 しかし、飛べない。
自らの体重の重みで飛べなくなっていた。

ブタ

あ、あれ? あれぇーーー!?

ルシファー=サタン

散々肥え太ってきたから飛びかたも忘れたか。

魔剣ダーインスレイブ

オイ! ルシファー、コイツジタバタシテ食事ノ邪魔ダナ。動ケナクシロ

ルシファー=サタン

そうだな

するとルシファーは、右肩を脱力させた。そしてルシファーの右側の背中には、漆黒の片翼が生え始めた。

領主

か、片翼の天使…

領主は見いった。
大きく広げられた黒い翼がとても美しかった。
黒い羽根が宙を舞う。

ブタ

あ、あああ…

ルシファー=サタン

翔べ…

黒き翼から一斉に発射された無数の羽根が矢のようにブタ天使を射抜いた。

ブタ

ぎゃあああああああ!!!

なす術もなく無慈悲に、容赦なくブタ天使の身体を貫く黒き羽根
わざと急所を外し、急所の回りにある肉だけを切り裂いていく。
 血塗れになり瀕死のブタ天使は流れゆく自身の血に身体をピクピクと震えさせている。
すかさずもう一方の残っていた左足を切断した。

ブタ

ぎゃあああああ!!!

続いて手を...

ブタ

ぎゃあああああ!!!

続いて残った手を...

ブタ

ぎゃあああああ!!!


容赦なく蹂躙していく。
天使の断末魔に領主は耳を抑え、
残虐な光景に目をつぶった。

ブタ

あ......あああ、た、助け...て......助けてください


泣きながら懇願するブタ天使
もはやそこには先程までの天使の威厳はない。命乞いする只のブタだった。

ブタ

お、お願いしま......す、命だけは...命だけは...

ルシファー=サタン

お前はそうやって命乞いをする人間を今まで何人殺してきた?


ルシファーはダーインスレイブを天使の腹に深々と突き刺した。

ブタ

げほっ!

魔剣ダーインスレイブ

旨エ!旨エェヨォ!ルシファー!


突き刺したダーインスレイブは天使の血を貪り食う。

ブタ

いたいいたいいたいいたい!

しばらくダーインスレイブに餌を与えてから、血の気がひいていく天使の顔を確認して、腹に突き刺した剣を横一文字に切り裂くルシファー


切り裂かれた腹から腸がこぼれる。

ブタ

げほえはぬやまたあなさ!!!


言葉にならない声をあげるブタ天使。
ルシファーはそれを見てウンザリとする。

ルシファー=サタン

憎いと思っていた天使の末路がこうも憐れに見えるものだとはな。だが同情はせんが

ブタ

ひゅうぅ...ひゅうぅ......だず...げでぐだざい...ごめんなざい...


ブタ天使はまだ息があった。
天使族は長命だ。
だからこれ程の身体を壊されても中々死なない。
しかしそれは、
死にたくても死ねないことでもあった。
激痛を感じたまま、
苦しむしかないのだ。

ルシファー=サタン

お前ステーキはレアとミディアムどっちが好きだ?

ブタ

レ......ミディアムです!


質問の意味がわからなかったブタ天使は、ルシファーを見上げていた。
ルシファーは微笑みの顔をブタに向けながら右手に紫色の焔を出して、
その焔を天使に向けた。

ルシファー=サタン

黒き獄炎よ、

ルシファー=サタン

業火により、かの者を焼き尽くせ、

ルシファー=サタン

デモンズフレイム!!!


小さく呟くと、紫色の焔は獣に象り、天使に襲いかかる。

ブタ

ぎゃああああああああああああああああああああ!!!ぎゃあああああああああああああ!!!


燃え盛る焔は一瞬でブタ天使を包み、
脂肪を燃やす。

ブタ

あ......あ......あ......


瞬く間に細胞を燃やし尽くし巨漢の体が小さくなっていった。

「八ッハハハハハハハハハ!!! ハーッハッハッハッハ!!!!!!」

そして天使はこんがり黒焦げになった。

ルシファーは黒焦げになった巨漢の天使を魔剣ダーインスレイブで切り払う。

天使の死体は灰となった四散した。

ルシファーの黒い羽根が舞い散る。
その姿はまるで漆黒のカラスのようだった。

領主

レ...レイヴン...


領主はその時、この男の正体がわかった。
教会に敵対し、神に仕える者を殺め回っている神の反逆者

その名はレイヴン

まさか、レイヴンの正体が天使だったなんて夢にも思わなかった。
天使が天使を殺す...
ありえない光景を目の当たりにして領主は終始呆気に取られていたが、
ハッと我に返り、笑顔でルシファーにすり寄る。

領主

さ、流石は天使様!よくぞ私を救ってくれました!

ルシファー=サタン

・・・・・・・・・・


ルシファーは領主を見つめる。

領主

私どももあの天使にはホント困っていたのです。貢ぎ物を催促するわ、すぐ気に入らないとうちの使用人を殺すわで

ルシファー=サタン

・・・・・・・・・・


ルシファーは領主の言い分を黙って聞いていた。

領主

天使のくせにブクブクブクブクと肥え太りやがって、まったく醜いブタ野郎でした!そんなブタから貴方様はこの私をお救いして下さったのですね!感謝の言葉もありません!この地の領主として民を代表して御礼を申しあげます


先程とはうって変わって手のひらを返すようにルシファーに媚びを売る領主

領主

是非とも我が家に滞在していってください。酒も女も充分に取り寄せておきます。天使様には我が家名に神の御加護を承りたく...

ルシファー=サタン

...まったくもって醜いな

領主

へ?


ルシファーは溜め息をついたと思ったら、領主の指先をダーインスレイブで斬り落とした。

領主

ひぎゃあああああ!?何をなさるのです!


指をなくして地面にのたうち回る。
それを見ながらルシファーは言った。

ルシファー=サタン

天使であればお前は誰にでもへこへこするのか?お前が今まで天使のためと、自分の領民から明日をも生きることが困難な者から税や食料を巻き上げ、妻や娘を拐い領民を苦しめた。

領主

わ、私はただ天使様に喜んで頂こうと...天使様の幸せは領民どもの幸せでもあると...

ルシファー=サタン

天使が今まで人間を救ったことがあるか!いい加減目を覚ませ!


領主にはルシファーの言っている意味がわからないでいた。
ルシファーは諦めて言葉を代えた。

ルシファー=サタン

領主、お前は天使のためと、連れていくために邪魔だった娘の両親を、娘の目の前で斬り殺した。その罪、死をもって償え

領主

そ、そんな・・・・て、天使様!私が何をしたというのですか!私は天使様のために...


ルシファーは領主の首を切り落とした。

首から鮮血を吹き出して倒れる領主

ルシファー=サタン

外道が


ルシファーは呟いた。
魔剣ダーインスレイブは下卑た声で笑っていた。

魔剣ダーインスレイブ

ゲハッ!ゲハハ!ルシファー俺様マダ食イ足リネエ、コイツ喰ッテイイ?

ルシファー=サタン

早くしろ

魔剣ダーインスレイブ

ゲヘッゲヘッ!オヤツオヤツ!

ダーインスレイブはルシファーの手から独りでに離れると、領主の死体に群がり、眼から伸びでた触手針で領主の首元を突き刺し血液を飲んでいく。

ルシファーは、魔剣を残し屋敷から去っていった。

翌朝、
広場には民衆がごった返していた。

号外!号外!領主様がレイヴンに殺されたよ!

村人A

嘘でだろ!?

村人B

嘘じゃないさ!領主のとこに聖教会騎士団が踏み込んだときには、領主の首なし死体があったってさ。奇怪なことに死体は干からびていて血の一滴もなかったそうだ

でもなんでレイヴンが領主様を...

村人B

領主は根っからの信仰厚い信者だったってのが有力な線だ。だからレイヴンに狙われた。現場には黒い羽根が落ちてたらしい

でもこれで少しは税の負担も減るかしら?ここ数年は税金が上がってから生活が苦しかったのよ

領主様のとこに長い間奉公に行っていた娘や妻も戻ってきたし、領主が死んでくれたおかげだな

滅多なこと言うんじゃないよ!領主様がお亡くなりになって、この先ここに住むうちらはどうなるんだい...

ベテラン兵士

それには心配及びませんよ奥さん。
この街は今後は聖教会が管理します。
これは貴方がたの領主様が熱心に布教していたため、教皇様が特別にお計らいをしてくれたのです

でも領主様のとこにいたって噂の天使様はどうなったの?

村人B

なんでもレイヴンを追い払ってくれたそうだ

流石は守護天使様だわ!あの悪名高いレイヴンを退けるなんて

人だかりには領主殺しの話で持ちきりだった。
フードで顔を隠したレイヴンこと、
ルシファーは、その話を黙って聞いていた。そこへダーインスレイブが人間には聞こえないテレパシーでルシファーに話しかける。

魔剣ダーインスレイブ

オイ、ルシファー。オマエ、アノ豚ニ追イ払ワレタコトニナッテルミタイダゾ

ルシファー=サタン

聖教会が隠蔽したんだろう。天使が賊に殺されたなんて世に知れたら民衆が不安になるからな

魔剣ダーインスレイブ

クッケッケ!人間ッテノハコウモ、クダラナイ世間体ッテノガ気ニナルミタイダナ。

ルシファー=サタン

それが人間だ。彼らは弱い、何かに依存しなければ生きてはいけない種族だ

魔剣ダーインスレイブ

随分人間ッポイコト言ウヨウニナッタナ?レイヴン

ルシファー=サタン

その呼び名はやめろ。好きじゃない

魔剣ダーインスレイブ

レイヴンレイヴン!クッケッケ!

ルシファー=サタン

人をカラス扱いとは失礼なことを言う輩もいたものだ


ルシファーは不満を漏らしながら街の出口に向かう。

魔剣ダーインスレイブ

オイ、ルシファー!イイノカ?マゴイ村ニ戻ラナクテモ

ルシファー=サタン

何故行く必要がある

魔剣ダーインスレイブ

アノ村長ノ娘ナカナカ可愛カッタダロウ!アノ娘キットオマエ惚レテタゼ!今戻ッテ両親ノ仇ダッタ領主ヲブッ殺シタノハ俺デスッテ言エバキット、オマエニ股ヲ開イテクレルゼ!

ルシファー=サタン

くだらない

魔剣ダーインスレイブ

クダラナイコトアルカ!処女ノ女ヲ味ワエルンダゼ?堪ンナインダロ?

ルシファー=サタン

本当に下品な剣だ。血の吸いすぎで昨日の豚野郎に似たんじゃないのか?無性にへし折りたくなってきた


ただ理不尽に愛する者を天使に奪われた自分とあの娘の境遇が重なっただけだ。

そう思ったことはダーインスレイブには伝えず、ルシファーは答えた。

ルシファー=サタン

元々ここにいるという天使を始末する目的で来ただけだ。領主を殺したのはついでだ。彼女には一宿一飯の恩もあったからな。

魔剣ダーインスレイブ

ツマランマスターダ。糞真面目ダナ


ルシファーと魔剣ダーインスレイブは街を出て、街道に出ると分かれ道があった。

魔剣ダーインスレイブ

ドッチニ行クンダ?

ルシファー=サタン

北だな、北の地に強い負の気配を感じる


迷うことなく北の地を目指して旅を続ける。

神に対抗できる力を持った仲間を集め、
いつの日か愛する人を奪った
神々を根絶やしにするため
堕天使ルシファー=サタンの旅は続く。

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