アキラたちが目覚めてから多少の時間を過ごした部屋。

最初に集まって以降、何度となく足を運んだ大広間。


機械が作ったとは思えないおいしい料理を食べた食堂。

その料理を提供していた機械。

アキラたちと言葉を交わしたクラスメイト達や、物言わぬ亡骸となってしまった友人のアサヒの肉体。

自分たちの脱出のためにアキラたちを襲った大人たち。

アキラたちを裏切り、自らの望みをかなえたケンタ。

そして、ケンタに殺されたショウコと、彼女に覆いかぶさるようにして活動をとめたアキラ。

そこに存在する全てが、ゆっくりと、まるではじめからそこには何もなかったかのように解けて、光の粒子となって消えていく。
その崩壊は留まることを知らず、やがて壁や床、天井などの閉鎖系都市型海洋船を構成するものすべてへと及んでいく。

その様子を、何の感慨もなく眺めていたメーティスは、やがて纏め終えたレポートを保存して、現実世界で結果を待っているだろう主へ報告に向かった。

マスター……

軽い電子音がなり、パソコンからメーティスの声が聞こえ、彼はゆっくりと振り返った。

戻ったか……
結果は受け取った……
やはり駄目だったか……

はい……
もう少し環境データをいじる必要がありそうです……
それともう一つ……

……なんだ?

負荷実験にもう少し段階を加えてみてはいかがでしょう?
今までのサンプルデータから、第一シークエンスから次のシークエンスへ移行するときに、かなりの負担が掛かっていることが判明しています……
ですから、その間にもう少しステップを挟むことをお薦めます……

…………
そうか……
分かった……
あまり時間がないとは言え、こればかりは仕方ないな……

メーティス……
挟むステップのデータが構築でき次第、直ちに実験を再開してくれ

すでにデータの構築は済んでいますので、環境変数に変化を与え次第、すぐに実験を再開します

頼む……

イエス・マスター

無機質に返して、メーティスは再び実験を再開させた。

アキラ

うぅ……

LEDの白く、明るい蛍光灯が照らす部屋の中で、一人の少年がうめき声をあげながら、ゆっくりと目を覚ました。

しばしぼんやりと天井を眺めていた少年が、状況を飲み込めていないのか、しきりに首を捻っていると、突然部屋に設置されたモニタが光を点した。

ようこそ、PANDORAへ

fin

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