翌日の朝
私は自分の部屋の鏡に向かって謝罪の練習をしていた。

いや…昨日のはほんとにない。
上に乗っかったまま号泣して、服に鼻水までつけて……

思い出せば思い出すほどひどい失態だ。


とりあえず行って謝るしかない。なんて思った私は、部屋を出て靴を履き玄関の扉を開けた。


そこで一番に目に入ったのは

神々しい神。



…え？夢？


目を擦って再度見てみるけれどやはりいる。

とても普通に話しかけられているのだけど、朝から師匠のお迎え。そんなの贅沢すぎるでしょ！！

頭が混乱していて、間抜けな声しか出ない。

っていうかここで何分待たせた！？

練習では土下座まで行き着いたけど、流石にここでそれはできないので私は深々と頭を下げた。

私の言葉に石川くんは、サラッとそう言ってきたので下げていた頭を上げる。

淡々とそう言われたけれど、昨日の記憶が鮮明に思い浮かんだ。


いやいや、あれで優しくないなら誰が優しいの。


心の中でツッコミをいれて、ブンブン首を振った。

信じられないと笑ってみるけれど、彼の顔はいたって真剣。

…来るもの拒まずと聞いていたけれど、やっぱり石川くんの中にもルールがあるんだ。


…噂だけじゃあてにならないな。驚いた。

え？


石川くんの言った言葉につい固まってしまった。


いや…私も全然わからないよ。強いて言うなら…

他と違うところはこれしかないとそう言えば、少し考えた石川くんはニコリと笑う。

これぞまさに師弟愛！！
ついにここまできたか！あー嬉しい！！

あまりの喜びにぺこりと頭を下げたら彼も同じように頭を下げた。

優しくない石川くんなんてこれっぽっちも想像できないや。だって朝から様子を見に来てくれるぐらいだもの。弟子最高！！


心の中でガッツポーズしていると

石川くんが優しくそう呟いたので、私はすぐさま言われた通りに手を出す。


何かが置かれた？ん？何？

手の上に乗った物をジッと見つめると

お姫様のうさぎとヒーローの狼が笑っている。

昨日欲しいって言ってたお菓子のおまけだ！！

突然のサプライズに思わず手が震えた。ボーッとそれを見つめていると、石川くんが私の顔を覗き込む。

思わずにこりと笑えば、それにつられて彼も笑った。

すぐさまカバンにつけて、あまりの嬉しさにカバンごとギュッと抱きしめる。

満足気に笑った石川くんが

行こうか

と呟いたので大きく頷いて、歩き出した。



石川くんは恋なんて面倒だって言ったけど、彼女になる人はすごく幸せだろうなぁ。


だけど彼女が出来てしまえば、きっとこの関係は終わってしまうから


今はまだ面倒くさいままでいて欲しいなんて

私は弟子失格だろうか。

……図々しくても弟子として側にいることをお許しください。



なんて心の中で願った私であった。