……満腹のままベッドに入る。
しかも美味しいもので満たされて。
なんて幸せな、
朝なんだろう。
……満腹のままベッドに入る。
しかも美味しいもので満たされて。
なんて幸せな、
朝なんだろう。
さぁて、寝ようか
彼と出会って、一ヶ月。
紀田青年と知り合ってから、
私の食生活は一変した。
朝、紀田青年が大学に行く前に時間があれば朝食を作ってくれ、
夜、彼が帰っているとき、私がバイトに行く前に夕食を作ってもらう。
昼は寝ているし、勤務中は相変わらず廃棄のドーナツで済ましているが。
しかし、美味しいものは人の心を簡単に癒やしてくれる。
私の人生でここまで煌びやかな食生活があっただろうか。
紀田青年が鍵をなくしたあの夜に感謝しよう。
寝る前に食べる野菜のスープは格別だな……
布団に潜り、瞼の裏を睨む。
世間は春真っ只中。
ゴールデンウィークを今か今かと待ち望んでいる
4月20日。
私はその生暖かい空気に包まれ。
幸福感と倦怠感と、ちょっとの焦燥感と共に、
眠りについた。
んん~~……?
珍しく、
目覚まし時計が鳴る前に起床した。
と言っても。
次の瞬間、アラームは鳴り響き、
私は直ぐさまそれを止める。
原因は……よくあることだ。
アパート住まいの方ならわかると思う。
周りの声や階段を上る音など。
今回はそれが同時に。
二人組の話し声……かな。
その内の一つは良く聞いた声だ。
控えめなノック。
間違いなくこれは、
美皓さん、まだ寝ていたらすみません
紀田です
寝る前にも聞いた声。
私はあくび混じりで返事をした。
今起きたよ
鍵開けるからちょいまち
パジャマ姿のまま玄関へ向かい、
ガチャリとドアを開ける。
そこには当然、
こんばんは
紀田青年の姿と、
ばんわーっす!!
全く知らない女の子の姿。
今時の格好に身を包んでおり、
挨拶から推察するに、
髪の毛の色と同じく性格も明るいようだ。
こ、こんばんは
好野(よしの) 雛(ひな)っす!
よぉろしくぅっっす!!
声を張ってびしっと(間違った方法の)敬礼をしてみせた好野さんとやら。
私は、はははと笑い、
紀田青年も頬を掻き困り顔で言う。
突然すみません
友達が出来たので紹介をと思いまして
わたしゃ君の姉か
寝起きの私を慮ってか、
どうにも申し訳なさそうに言う紀田青年とは対照的に、
好野……ちゃんは、
元気に、はつらつと、
ここに来た経緯を話してくれた。
どもっすどもっす!
紀田君に一目惚れしたもんで駄々こねて家まで連れてきてもらったんすけどね、まずお隣さんに挨拶しなさいっ。とのことでしたんできやしたっ!
ほぉ~
一目惚れか~。
いいねぇ。
久々に嗅ぐ青春の香りだ。
ままっ上がってよ
今晩も楽しみにしていいんだよね?
紀田青年
!
ええ
もちろんっ!
ええ!
なになに!
なんすか今の今の意味深発言は!?
さて、今日は。
恋する乙女をからかいながら、
美味しい夕食を待つとしようか。