気がつくと俺は見知らぬバーの中にいた。
俺の立っている場所のすぐ後ろには、木造の扉がある。
開けば油をさしたくなるほどのきしみ音が聞こえてくるであろう、古めかしい扉だ。
つまりこれは入口で、俺はここから入ってきたと推測できる。
だが何故か扉を開けた覚えもなく、開けた時のきしむ音も耳には残っていないのだ。
ではなぜ俺が看板を見たわけでもないこの部屋をバーだと思ったのかというと、とりあえず内装を見た上での一般的な見解だ。
室内をうっすら照らす証明の光と、それを受けて光沢を帯びる焦げ茶色のカウンターは、耳元でジャズが聞こえてくるような洒落た雰囲気を演出している。
こうなってくると先ほどケチをつけたばかりの後ろの扉も、高価なアンティークとして一役買っているように感じる。
さらにカウンターの後ろの棚に陳列された様々な種類の酒瓶が、ライトの光を浴びてラメをばらまいたようにきらめいていた。
この時点で誰もが、ここはバーなのだと連想するだろう。
ただ、あちらこちらを見渡すと色々なものが目に飛び込んできた。
まずカウンターとは反対側に位置する壁には、額に収められた絵の他に、古めかしい弓、鳩時計、フライパン、銀色に輝く十字架、なんだかよくわからない御札などなど、統一性のない品々が所狭しと飾られている。
さらにギターやら、夜中に歩き回りそうな人形やら、たけぼうきやら、植物やら、もはや飾りなのかもわからないあらゆる物が置かれていた。
他人の家の倉庫のように、ただ適当に物が積み重なっているというわけでもないが、あまりにも飾る品々のバランスが悪い。
カウンターや並べられたお酒がなければ、まるでやる気を感じさせない雑貨屋のようでもある。
しかしなによりも不思議に思ったのは、カウンターの中に立っている男の子とカウンターに座る女の子だ。
二人とも指を通したくなるようなサラサラとした金髪で、その美しい髪に見劣りしない、とても綺麗な顔立ちをしていた。
男の子は真っ黒いスーツを身にまとい、慣れた手つきでワイングラスを磨く様と、柔らかい表情がとても大人びて見えた。
女の子の方も真っ黒いワンピースを着ており、頬杖をついて座る姿と冷めた目つきには妙な色気があった。
だが二人とも顔を見る限りどう見積もっても十四、五歳くらいにしか見えない。
そして髪の長さと雰囲気の違いから瞬時には気づかなかったが、二人の顔は双子のように瓜二つだった。いや、これはもはや双子と考えるのが自然だろう。
こんなにも美しい双子の子供が結婚式場でライスシャワーなんてやってくれたら、新郎新婦は先の幸せを信じて疑わなくなるに違いない。
だがこの神々しいまでに美しい天使達が今いるのは、明るい陽ノ下ではなく薄暗いバーなのだ。
俺の記憶の中では、バーは大人の空間であり、子供がいるのはどうにも違和感があった。