おじさんは、私を気遣ってくれるし
やさしい。

守ってくれる場面だってあった。

ルカ

そう。あの時から

中学生のルカ

あの日、祖母の横に座った時から。
私とおじさんの関係は始まってた。

 

2  
「邂  
逅  
の  
光  
景」 

Encounter

魔法を持つ人間は古い仕来り(しきたり)と
使命に縛られる。…祖母はそう言っていた。

私達の「魔法」は他の怪異を「縛る」ための
楔(くさび)だと教えられた。

その力を制御し、自分たちよりも
大きく、強い「イキモノ」を飼いなす。

そして「保全」を行い
「機関」に仕える。

それができなければ、魔女である意味も、
"古津流"(フルヅル)の名を名乗ることも
許されないのだと。

だから…私は祖母の住む田舎へ移り住み
幼い頃から"修行"と称し、いろんな怪しい呪いを
習っていた。

そこら辺の占い師やマジシャンみたいな
まがい物とは違うものだったけれど。

ある日、祖母の部屋に呼ばれた。
それは修行をはじめて5年…
私が十四歳の夏だった。

祖母

あなたに、紹介したい人がいるの。
三人で話をしたいのだけれど
そこに座ってくれないかい?

ルカ

……

祖母から差し出された茶の湯気を見ながら
私は考えた…。

…紹介したい人、って、誰だろう…。

前後に何か出来事があって、話す場が持たれた
それであれば中学生の時の私だって、
なにか察することができたかもしれない。

…おばあちゃんの新しい恋人?

祖父は私が生まれた直後に癌でなくなった
そう聞かされていた。
祖母も魔女である故、外見よりは
行く分か行動的なのもしってる…

…って、無理があるか。

他に理由…を閃こうとするが、
何も思い浮かばない。

修行も一段落し、受験勉強もあったから
魔女とか、仕来りの事なんで頭の端っこから
消えかかっていた。

しばらくすると、ふすまを叩く音がして、
祖母が返事すると…

ラド

失礼します。

背の高い大きい男の人が、
その人にとってはとても低いであろうふすまを
頭を屈めながら入ってきた。

祖母

そこへ座りなさい。

祖母は自分の横にその男を座らせる。
淡々と…命令するかのように。

ルカ

……!?

外人のような顔立ちや色白の肌、
服の上からもガッシリとした男の人の筋肉が
感じられる体格は、どれもお父さんや
同級生の男の子達とは違ってて…。

それとは別にしても流暢な日本語を話すことにも
違和感を感じ、私は警戒したまま彼が座るのを
見つめるだけで…

どう声をかければ良いのか。挨拶をしていいのか
思考だけがグルグル混線していた。

ラド

イバラメ ラウドといいます…。
こんななりをしていますが。
一応日本人です。

ルカ

あ…。ど、どうも…
ルカです。フルヅル、ルカ…

ゆるりとした笑顔で自己紹介し、
深くお辞儀をするラウドさんに
ついつい私は自分も名乗ってしまっていた。

静かに私達を見やった祖母は
茶を一口、口に含むと
私の方を見て語りだした。

祖母

あなたも16歳となれば里を下り、
20歳になれば機関の一員になるの。
だから早いうちに「縛る」練習をしないと
行けないわね…。

祖母の言葉を聞いて、
私は、無意識に、それを口に出していた。
彼は"部外者"かもしれないのに

ルカ

ラウドさんって…「怪異」なの?

ラド

 !?

つぶやくように言った私の言葉に反応して
ラウド「おじさん」がびっくりした顔は
今でも忘れられない。

確かに私達が感じられる違和感もほとんど感じなかったし、他の人から見たら
「日本語がやけに上手い外国人風のおじさん」
ぐらいにしか感じないのかもしれないけれど

祖母の言い回しから言ったら。
それしか無いと思った。

だって、私達は「怪異を縛る魔女」だから。

祖母はチラリとラウドさんを見ると
ゆっくり頷いた。

祖母

「それ」は、
かなり高位の吸血鬼なの。
わたしが20歳の頃に縛った。

祖母の話はこうだ。

元々ヨーロッパの方から日本に分家した
私の家は昔は世界規模で「機関」に
関与し、祖母が若いころは世界中を飛び回り、
凶悪な怪異を縛り、使役していたらしい。

そして、ラウドさんもその1人
だったということ。

先月まではヨーロッパ方面の「保全」を
任せていたらしく。今回日本に出向かせた
ということなのだ。

ルカ

ってことは…
私が「一人前」になるために、
ラウドさんを縛る。そういうことね?

祖母

そう。あなたには
一番できの良い「怪異」に
身を守らせたい。そう思ったの。

祖母は嬉しそうに言った。
まるで「孫に新しい家族ができた」とか
そんな感じで…。

ラド

大丈夫なんですか?それで。

今度はラドさんが口を開いた。
確かに急すぎて、お互い初対面なのに
背中を預ける間柄になる。というのには
抵抗感が無いわけじゃない。

私も同じ気持ちだった…。
正直、高位の吸血鬼だなんて…。

祖母

ラウド、お前は私の物だ。
選択の余地は無いの
もちろん私の跡を次ぐルカにもね。

ルカ

私は覚悟はできてる…。
そのために辛い修行をしてきたし
認められるためには
これは、チャンスかも知れない

私は出来る限り、自分の気持ちと、家の仕来り、
両方を失望させないように言葉を選んで、
そう二人に伝えた。

ラド

……

腕を組んで、黙りこむラウドさん。

ラド

わかりました…ルカさんがそう言うなら
…良いでしょう。

一瞬、黒い嫌な感じの「違和感」を感じた。
多分ラウドさんが押さえ込んでいた物を
解いたのだろう…。

たしかにこれは、すごい。
黒とも紫とも言えないもやもやした感じ。
下手したら、飲み込まれる。
ある意味魅力のような…。

彼は本当に吸血鬼なのだろうか

 

この席の同意で、
後日、「楔」の引き継ぎが
行われることが決定した。

そして、おじさんとは他人じゃなくなった。

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