なぁ、うちの家系ってさ。代々初恋が実らないらしいぞ

そうなのかよ

だから、初恋するときは覚悟すると良いぞ

ま、オレには永遠に来ないだろうけどな

      

 兄貴とそんな会話をしたことを思い出していた。



 
 その兄貴はもういない。 

 どこにもいない。 



 あのとき、兄貴は誰かに恋をしていた。 
 兄貴の初恋は実らなかった。

初恋SadEnd

1話

 信じられない話だと思う。

 兄貴が死んだ後になって、オレにも初恋が訪れたんだ。 







 それも終わろうとしている。

 その日、オレたちは夜の学校に集まっていた。

出会って7日目

それじゃあ、みんなで

カクレンボしよう

おう

いいよ

ええ

わたしが隠れるから、みんなは捜してね。

じゃあ、行くよ~

………

 そんなことを彼女が提案した。
 オレたちはそれに応じることになった。



 誰もいない学校。
 オレたちは彼女とカクレンボをしている。







 オレは必死に彼女の姿を探していた。

     

 出会ったその日

 彼女と出会ったのは一週間前のこと。

 その時は、こんなことになるとは思わなかった。

 オレの初恋は彼女だった。
 

 家族を一人喪った。

 一週間休んで学校に来てみれば、何も変わらない日常がそこにある。

 校内で生徒が一人死んだというのに普通の日常がながれている。









 きっと、誰もが忘れたいのだろう。
 忘れる為に、いつもの日常に戻っていたのだろう。
 オレはそう思うことにした。

 屋上には静寂と平穏があるんだ。 


 目つきが悪いだけで不良のレッテルを貼られた。
 授業をサボることに慣れてしまった。
 授業中にオレがいるだけで皆怯えるから、オレは自然と授業をサボるようになった。



 何が楽しいのかも、わからない。
 仰向けに寝転がって青空を見ている。




 ただ、それだけ。
 不良のオレがいるから屋上には誰も来ない。
 ここにはオレを怯える者はいない。
 平穏な場所だった。

すみませーん

もしもしー

 つい、うとうとしている内に夕方になっていたことにオレは気づく。




 屋上の鍵を閉められてはいけない。
 オレは起き上がり、違和感に気づいた。



 今、耳元で誰かが喋らなかったか。
 ふと、横を見るとそこには女子生徒が体育座りしていた。

レン

誰だ?

赤音

わたし、赤音です

 赤音と名乗った女子生徒は立ち上がると、ポンポンとスカートを整える。
 そして、オレの目を見て微笑んだ。

赤音

ここに誰か来ませんでしたか?

レン

オレ以外はいないと思うぞ

 そういうと赤音は眉を潜める。

赤音

そうですか、残念です

レン

誰かって、どういう奴なんだ

赤音

カッコイイ人です

レン

大雑把だな

赤音

屋上に来てくださいってお願いしたんです。いないのなら、残念です

 そう言って走り出す。

レン

おい

 思わず追いかけてみたが、すでに赤音の姿は消えていた。

レン

素早い女だなぁ

 そう呟いてオレも屋上を後にした。

 

     

出会って2日目

 翌日、オレは赤音の姿を探していた。
 どうしてだかは、わからない。


 少しだけ気になったからだ。


 校舎に彼女の姿は見当たらなかった。

 それよりも不良のオレが校内をジロジロと見渡している。そのことに生徒も教師も驚いていた。

不良がいるっ

怖いなぁ

 なんて、話し声が聞こえたのでオレは屋上へと向かった。
 空を見上げて一人ごちる。

 ドタドタと足音を立てて、屋上に駆け込む姿があった。

 昨日の赤音だった。
 赤音はキョロキョロと見渡して、オレを見ると残念そうに肩をすくめる。

赤音

今日もいません

レン

おい、屋上じゃなくて。校舎を探せばいいんじゃないか

赤音

これでも、ずっと走り回って探しているんですよ

レン

だったら、休みなんじゃないのか

赤音

そうかもしれません、でも私が嫌いなのかもしれません

 赤音は悲し気に俯いた。

レン

じゃあ、諦めたらどうなんだ

 オレがそう言うと彼女は首を横に振る。

赤音

それは駄目です。私はあの人に伝えたい言葉があるので

レン

伝えたい?

赤音

はい、何を伝えたいのかは覚えていないのですが

レン

は? なんだそれ

赤音

顔を見れば、きっと思い出すと思うのです

 そう言って彼女は微笑んだ。

to be continued

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