もう誰も屋敷の庭には入れぬようにしよう、と時姫―――かぐやの君は考えていた。
次に私のもとを訪れる殿方は、いないのだ。

我ながら短絡的な思考だ、と悲しくなった。
とにもかくにも考える時間が欲しい。
かぐや姫に納得していただける解決案を何とか―――

かぐやの君…………

心臓が飛び上がるかと思った。
庭で玉砂利が鳴った。
すぐさま音のする方を見やる。

だれ………?

姫よ………


現れたのは、目元涼やかな、長身の殿方だった。
人目をひく、美しい男だ。
やはり兎どもがけしかけてきたらしい。

どうしたものかと頭が真っ白になっている内に、時姫はある事実に気が付いた。
この男、私のことを、かぐやの君、と呼んでいる。

おやめ


無意識のうちに口をついて言葉が出た。
しまった、と思った。
私は今、とんでもない選択をしようとしているのではないか。

ごめんなさいね


泣いてしまいそうだった。

今宵は、お帰りいただけるかしら


この男を家に帰すのか。それとも月に兎ともども帰すのか。
私は一体彼をどうしてしまうのか。

……………………

……………………

……………………………嘘


しばしの沈黙の後、私はそうのたまった。

今宵、私は彼を抱くし、彼も私を抱く。

彼は目を細めて心底嬉しそうにこちらを見た。

もう胸は痛まない。

彼とキスをしながら、視界の隅に兎どもの笑みを確認した。

―――――――――これで誰もが幸せであろう。

私はそっと、目を閉じた。

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