お母さん、あのね
…
…お母さん?
ギリギリギリギリリ…
お母さんじゃない…っ!
やめて!
本物の! 私のお母さんはどこ…!
いやだぁあああ!
はっ…
夢…
…夢を見たのはいつぶりだろうか
朝華に飲ませていた薬は、別に、他人の夢に入らせるためのものではない
チーシャ…! 無事なの…?
無事…? …ああ、こっちは大丈夫みたいだ
こっち…
あの薬は悪夢から朝華を救うために作った、睡眠薬みたいなものさ。
この薬を飲むと夢を見なくなる
夢を…
薬のおかげで悪夢は見なくなったようだが、いくつか副作用があったようでね
ZZZダイブもそのひとつだ
夢の中は鏡のむこうみたいなものだ。行き場をなくした朝華の『虚像』は他人の夢の中に行き場を求めた
だから私は他人の夢の中に入れた…
そのことに私が気づいたのは、ある日の夜だった。
大切な人を亡くしてからというもの、私の夢からは何もかもが消えた。
建物が消え、草木が消えて、空が消えた。気づけば夢の中には私1人しか存在せず、ひどい孤独が私を襲った。
膝を抱えて、泣いていたんだ。そしたら
…
朝華、君がそばに立っていた
お父さん…
君は自分も辛いだろうに、僕の夢の中までやってきてくれて、頭をなでてくれたね。
ほんとは僕が君にしてあげなきゃいけない仕事だったのになあ…
…
悪かったな…、朝華。許してくれ
チーシャは朝華のお父さんだ
え!? でも人間の形をしてない…
眠井博士は薬以外で夢の中で自由に活動する術を開発した
それがイイユメアバターシステム
イイユメシープから作ったアバターに乗り込むことで、夢の中での制限を少なくすることに成功したんだ。
アバターに乗り込むには、現実世界で専用のマシンに乗り込んで、肉体と精神を分離する必要がある
そのマシンはどこに?
眠井博士の研究所。…朝華さんの家だよ
え!? …朝華さんの家って、壊されたって
…
夢と現実が少しずつ交錯していくなかで、博士は焦っていた。
他の悪夢が現実化していく。しかし、チーシャはなかなか現実化しなかったんだ。
最初、君たちのもとに現れたとき、実体がなかったのはそのせいだ。
どうにか現実での実体化が間に合ったんだが…
博士は…
マシンの中に入ったまま、建物ごと…
…博士はどうなるの
…永遠に夢の中だ。
今は夢と現実がひっくり返りつつあるから、チーシャは僕らのそばにいるけれど、もし元に戻ったら、博士は…
お父さんとはもう現実世界では会えない
聞いていたのかい…、朝華さん…
…じゃあ、世界が元に戻らなくたっていいわ
…朝華、それは違
…なんてね
そんなこと言ってられないわ
!
大体、お父さんは親バカなのよ。いつまでも私を子供扱いして。
そのうち私だって結婚して家を出るのよ!
結婚…!?
結婚…!?
どうせ遅かれ早かれ、お父さんとは離れるの! ちょっとそれが早くなるだけ!
…どうせ夢の中で会えるんだから
…朝華
正論だけど、少し悲しい…
お父さん…私感謝してるの
え?
確かにお父さんを恨んだこともあった。お母さんが死んで、この世にいたって何もいいことなんてないって。私より辛い境遇の人なんていないって思ってた。
…でもね
…
ZZZダイブするようになって気づいたの。夢を覗くことで自分以外の誰もが、いろんな悩みを抱えている。それでも頑張って生きてる。
自分だけじゃないって気付けたの
朝華…
…それに友達もできたしね
ねむたん…
私戦うわ!
みんなを悪夢から救わなきゃ!
朝華…
…朝華さん。かっこよく決まったところ悪いんだけど
はい…?
悪夢退治は他の人に任せて欲しいんだ
…え
悪夢は倒しても倒しても現れる。その場しのぎの対抗策にはなるけど、根本の解決策にはならない
だから、朝華さんと眠井博士には大仕事用意してます
聞いてない
まあ説明は目的地に向かう車内で…
あのー、すみません…
なんでしょう
もしかして、さっきのセリフ『悪夢退治は他の人に任せて欲しいんだ』における『他の人』というのは…
そう、君たちのことを指すね
やっぱり…
大丈夫! 君たちにはイイユメハンマーがある!
…ああ、確かに。
もともとは悪夢の対抗策として、全世界の人にイイユメハンマーを広めたかったんだが、
朝華1人の力ではクラスメイトや一部の学校のぬいぐるみ好きに行き渡らせるので精一杯だった
え、それが目的だったの?
そう。
朝華の役目はイイユメハンマーの材料確保、製造、広告、流通、販売…
全部じゃん…
君たちは、イイユメハンマーを持っている餡民中のみんなに、これの使い方を教えて時間稼ぎをしてくれ
…わかった
拒否権はないんでしょ…?
ああ
やっぱりね。…まあ世界の危機なら仕方ないわ
ヒーローみたいだ…
いつまで時間稼ぎをすればいいの?
さあね。…“現実”が帰ってくるまでかな
アバウトね…。やれるだけやるわ
頼んだよ
さあ、朝華さんと眠井博士。
僕の愛車に乗ってもらおうか
愛車って、さっき、ここ来るとき乗ったスポーツカー?
まさか。あれはセカンドカーさ
“鉄モグラ”だよ
完成したのか!
まだ試運転もしていませんがね
それで愛車って言っていいの…?