ねえ! チーシャ!
…
ねえったら!
君が朝華さんかい?
あなたは…?
私は半津賀。君の…お父さんの研究仲間だ。
とにかくみんな早く乗って!
でも、私たち家に行かなきゃ
…君の家は……、もうない
…え?
君の家は奴らに壊されてしまった…。悪夢がこれほどまでの破壊力を持つとは…
お父さんは…?
…
…とにかく乗りなさい
!
…
少し離れるが、私の研究所に向かう。あそこなら安全だ
お父さんは…
…。建物が破壊された時、まだ中に…
そんな…
まだ死んだと決まったわけじゃない。…それにチーシャはいる
チーシャ…
そう…! チーシャが、おかしいの。さっきから返事がなくて…
…なんでチーシャのことを知ってるの?
…うーん。何から説明したらいいかな
チーシャは君のお父さんの研究分野であって、僕の専門ではないからなあ。うまく説明できるか…
学校が怪人たちに襲われた! 僕らもだ! 僕らには知る権利がある!
焦るな、坊主。向こうに着いたら、じっくり講義してやるから
着いたぞ
半津賀地球内部物理学研究所
でかい…
ようこそ、我が秘密基地へ
なんだあれは…
でかい…塔…?
あれは
“鉄モグラ”だよ
鉄モグラ!?
子供の頃にE・R・バローズの『地底世界ペルシダー』を読んでね。
大人になったらドリルのついたでっかいマシンを作って地底世界へ行くと決めてたんだ
じゃあ、あれで地下に潜れるの?
そうさ
なんのために?
…だから地底世界に行くためさ
地底世界なんて馬鹿げてる! 地中、奥深く潜っていけば、いずれマントルや核にぶち当たるだけだ!
そうなのか?
だってそう教科書に書いてあった!
だれか確かめたのかい?
それは…
これから、この世界に起ころうとしていることについて説明するが、
そういう先入観とか常識とかは捨てておいてくれ。
理解の邪魔になる
わかったよ…
さあ、講義を始める。みんなしっかり聞いてくれ…
まずは眠井博士、朝華さんのお父さんの研究分野についてだ
地球には地磁気というものが存在する。いうなれば地球は一つの大きな磁石だ。
方位磁針は必ず北を指す。それは北極部にS極、南極部にN極に相当する磁極があるからだ。
しかしこの『北にS極・南にN極』というのは不変ではない
え、そうなの!?
数万年から数十万年の頻度で地磁気の逆転現象が起こっている。地磁気の逆転現象のメカニズムはよくわかっていなかった。眠井博士もそこまでは突き止められなかったようだ。
しかし、眠井博士はそれ以上に重大なことに気づいてしまった…
地磁気が逆転してしまうと、夢と現実も逆転してしまうのだ
え…
これは“人間にとっては”非常にまずい事態を及ぼす。
“人間にとっては”といったのは、人間以外の動物にはなんの問題もなかったからだ。過去何度も地磁気の反転が起こっているのに、現代まで生物が生き残っているのがその理由だ。
ではなぜ、人間だけに影響があるのか。
それは人間が『想像力』を手にしてしまったからだ
想像力…
人間がまだ動物だった頃は、夢の中身も現実も大差なかった。
寝ても覚めても、食うことか、寝ることか、生殖行為のことか、そのくらいのことしか考えてなかっただろう。
夢と現実がひっくり返ろうが、なんの支障もなかったんだ。
しかし、人間は想像力を手に入れた。
人間の想像力は神を生み出し、悪魔を生み出し、凶器を生み出し、核兵器を生み出し、地球を破壊する怪物をも生み出した
人間の想像力が生み出した“悪夢”が現実世界に解き放たれてしまえば、地球はおろか、宇宙までも滅ぼしてしまう危険性さえある
最近、夢みたいなことが、現実世界で多発してたのは、地磁気逆転の前兆だったってこと?
そうだ。宝くじや油田なんかは無害だが、悪夢は別だ。人間の存亡に関わる
対抗策はないの?
いい質問だ。
眠井博士が研究していたのは、その対抗策だ
イイユメシープ。これが現実化した悪夢に対抗する唯一の手段であると突き止めたのだ
しかし、イイユメシープは夢の中にしか生息しない。だから、夢の中のイイユメシープを捕まえられる、自由に夢の中で振る舞える人間が必要だった
それが朝華さんってわけか!
そう。眠井博士は朝華さんにある薬を飲ませた。これにより、朝華さんは他人の夢に入ったり、夢の中で自由に振る舞えるようになったのだ
…
朝華さん、お父さんを恨んではいけないよ
…
やってることは人体実験だと言われたら、否定はできないかもしれないけど…。
でも、それは朝華さんが悪夢に対抗できるように…
…
朝華さん!
私はこの能力のせいで…