ここがどこなのか分からなかった。
……さてさて、困った
ここがどこなのか分からなかった。
困りすぎて、まずどうしたら良いのか分からない……
想像してみてほしい。自分が瞬きすることを課程にして、ふと目を閉じて、目を見開く。するとそこは見たことのない世界が広がっていた。
はたして、その状況をほんの数秒で理解し、状況を打破できるものがいるのだろうか。否、不可能だ。
まず頭の整理が追いつかない。そりゃあ、ここがどこだかわからない上に、そもそもアニメに演出されるワープみたいな展開を味わったところで現実味を感じられない。
つまりは、今ボクが立たされている状況とは現実ではないと解釈ができるということで、例えば、夢だったりとか。可能性は0ではない。……と思う。
ということで、試しに近くの壁に頭突きしてみる。
痛いっ!
痛みがあれば夢じゃないという古典的な方法を実行した結果、なんと痛かった。中身が割れそうなほどの鈍い痛み。今思えば、頭突きした意味が分からない。頬をつねるとかでも有効だろうに……
まぁ、それぐらいパ二ックになっているということだろう。
……
あらためて見るとここはヨーロッパ? みたいな背景だけど、この地面の触り心地といい、温かい日差しといい、ますます夢じゃないんだよな
ねぇ?
ん?
気付けば目の前に小さい子どもが居た。どうやら俺は、人が近付く気配を疎かにしているほど感情が乱れているようだ。
変わった服装してるんだね
……ふぅ、落ち着け。明らかに住んでいる世界が違うはずの少女が日本語を喋っていることについては、別におかしなことじゃない。きっと頭のいい子どもなんだ。そうに違いない
本当にヨーロッパ人なのかも疑問に思わない。
私はイア。あなたの名前は?
……北野翔琉(きたのかける)、だけど
そう。よろしく
いや、よろしくはしない
ならそれでもいい。早速だけどあなたに選択肢を与えてあげる
選択肢。はたして、こんな小さな少女が俺になんの試練を与えようとしているのだろうか。気にならないと言えばウソになる。
ありったけのお金を私に譲ってここから去るか、あるいは抵抗して私に殺されるか。どっちがいい?
まさかの強盗犯だった!?
ところで、命奪って金も奪えば一件落着?
は、早まるな。話せば分かり合えるはずだ……!
あなたに残された寿命はあと2秒
ヒイィィィィ! ごめんなさいごめんなさいボクはまだ死にたくないですどうか命だけは奪わないでくださいぃぃぃぃ!
見苦しく、俺は頭を下げるしかなかった。それでも自分が生きていられるなら、プライドなんて糞くらえだった。
というのはウソ
……は?
人の話は最後まで聞くものよ。言葉の終止符は決まって複雑だから
……
ハトが豆鉄砲とはまさにこのことね
ひょっとして、俺はおちょくられているのだろうか。ひょっとしてというか、事実そのものだった。
はぁ……、キミが俺にどうしてほしいのかは知らないし、どうでもいいけど、忙しい身である俺は生憎と遊んであげられる余裕がないんだ。じゃあな
どこにいくの?
どこでもいいだろ
質問を変える。あなたに行く当てなんてあるの?
まるで事情を知っているような口ぶりだった。
どういうことだ?
そのままの意味。迷子の羊さんを案内させるのが私の仕事だから。
つまりは、何かを知っていると思っていいのか?
それで間違ってない。
なるほど。で、俺はどうしたらいいんだ?
着いてきて、ある人をあなたに会わせるの
ある人? そいつは誰だ
着いて来たら分かる
怪しいと判断した方が正解なんだろうか。一度脅されているから、容易に信じる訳にもいかない。
仮にそいつに会ったとして、ボクにどんな利益がある?
情報および様々な支援が施される。あなたにとって悪い話ではない
……黒か。タダという言葉は警戒するざるを得ない。人はいつだって自分の利益しか考えないからな。
なにやら勘違いしている。私はあなたの友人でも恋人でもない他人という間柄。だから、私の言葉に拒絶するなら殺してでもあの人の前まで連れていく
なるほど……
どうやら俺に選択する余地はないらしい。
だったら早くそう言ってくれ。時間を無駄にした。
着いてきて
こうして、世にも物騒極まりない少女との出会いがキッカケにして、避けられない不幸な未来が待ちうけているのだった。