~プロローグ~
~プロローグ~
緑の草原を二人の男が馬に乗って進んでいく。
見えてきたな。あの町か?
そのようですな。報告にあるテレーゼの町です
ここからだとはっきりとはわからないが、まだ被害は出ていないようだな
それもいつまでかはわかりません。気を引き締めて臨んでください
わかったよ。まったく、おまえは堅物すぎて息が詰まるよ
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昨日と今日は違う。そして今日と明日も違う。ということは、昨日と明日はものすごく違っているはずだ。
窓から差し込んだ光で目を覚ますと、わたしはベッドを出て身支度を整えた。
仕事道具が揃っているかテーブルの上でチェックし、カバンに入れて宿を出る。
通りに並んだ店の一つで昼用のパンを買った。
三つ……ううん。やっぱり四つお願いします
四つ? お嬢さん、お使いかい?
いいえ、全部わたしのお昼ご飯です。あ、それぞれパテ肉も追加で挟んでおいてくださいね
た、食べ過ぎじゃねえのか? 見たところずいぶん小柄なのによ
ご心配には及びません。わたしの仕事は体が資本なものですから
わたしは紙で包んでもらったパンをカバンに入れてお店を後にした。
――いざ、仕事場へ。
そう意気込んでいたところ、町の大広間にできていた人だかりに阻まれた
……なんだろう。特売かな?
わたしは人混みに加わり、隙間から中を覗き込んだ。
………………
広場にいるのは瀟洒なマントをまとった男の子(といってもわたしより少し上くらい?)だった。
姿勢よくたたずみ、腰には普通の兵士よりも一回りか二回りほど大きな長刀を提げている。
彼の隣には護衛のような男の人がいた。
これは勅令である!
ここにおられるのはアスタリア王国の第二皇子、ジン殿下だ。約一月刻前、この町の付近に龍が降り立ったという報告を受けた
龍は思慮深い生き物とされているが、二百歳を越えると理性を失い、人々を襲うと言い伝えられている。まだこの町に被害は出ていないようだが、未然に防ぐため、殿下自らが討伐に参られたのだ!
え、龍ってそんな危ない生き物だったの?
マジで? 最近、町の近くに来てたよな
ヤ、ヤバイんじゃないか!?
龍はこの町の郊外を根城にしているのであろう? 誰か龍のいるところまで案内せよ
側近のような男は威圧的に人々に命令している。
まるで犯罪者でも探し出しそうとしているかのような剣幕だった。
……ちょ、ちょっと待って!
思わずわたしは人混みをかき分けて広場の真ん中に飛び出していた。
なんだ、おまえは?
ジロリ、と護衛の男の人が睨みつけてきた。
……あ、ええと、ま、待って。待って、ください
思わず敬語に言い直す。
それでも男の人は睨んだままだった。
町の人たちからも奇異の視線を注がれ、わたしはすっかり萎縮してしまった。
待つって、何をだい?
不意に柔らかくて優しげな声が届いた。
言葉を発したのはジン皇子だった。
は、はい! 申し上げます!
確かにこの町の外れの谷には龍がいます。年齢も二百歳を越えていると思います。ですがまったく暴れるような素振りはありません。討伐の必要はないと思います
討伐の必要がないだと!? 町娘がいったい何を言っているんだ!
ま、町娘ではありません!
怖くないと言ったら嘘になる。だけどわたしはキッパリと言い返した。
わたしは流れの者です。龍を追ってこの町に一月刻前から逗留しているんです
……龍を追って、だと? 貴様、女のくせにハンター稼業か?
それも違います。わたしは殺しはしません。そんな腕もありません
それでは旅行者か? 物見遊山中に偶然、龍を見つけて追ってきたか? そんな輩が口出しなど……
おい、ロイロー
こちらから決めつけていては何も情報は得られない。相手の話を聞こう。判断はそれからだ
……御意
ロイローは黙りこくった。
一方、ジン皇子は珍しい動物でも見るようにわたしを観察してきた。
それで、あんたは?
はい?
龍を追ってきたって言ったよな? 龍について多少は知識があるみたいだし、いったい何者なんだ? 肩書みたいなのがあれば教えてもらいたいな
……肩書?
一瞬、昔のことを思い出してボーッとしてしまった。まだ半人前の自分が、果たしてそれを名乗っていいのだろうか。
とはいえここで黙っていても仕方がないよね
わたしは龍の歯科医です!
……は?
……歯?
エピソード2へつづく ☞