それから1か月後――
私たちはライカントに戻り、
王宮でエステル様とフロストに謁見していた。
今回の事件の解決に
大きな功績があったということで、
お褒めの言葉をいただけるとのことらしい。
ちなみにバサール伯爵は牢に入れられていて、
近いうちに死罪が
言い渡されることになっている。
――あんな悪人でも
きちんと裁判を受けさせるんだから
エステル様って慈悲深いと思う。
それから1か月後――
私たちはライカントに戻り、
王宮でエステル様とフロストに謁見していた。
今回の事件の解決に
大きな功績があったということで、
お褒めの言葉をいただけるとのことらしい。
ちなみにバサール伯爵は牢に入れられていて、
近いうちに死罪が
言い渡されることになっている。
――あんな悪人でも
きちんと裁判を受けさせるんだから
エステル様って慈悲深いと思う。
皆さん、今回の一件では
大変お世話になりました。
勿体なきお言葉です。
何か褒美を差し上げなければ
なりませんね。
なんでもおっしゃってください。
それを聞くと、座長は私たちの方を向いた。
みんな、俺が代表して
エステル様にお願いしてもいいか?
うん。
えぇ、それは構いませんけど。
座長に任せる。
私も異論はありません。
それはいいけど、
恥ずかしいのはやめてよ?
みんな、ありがとうな。
座長はエステル様の方へ向き直った。
では、申し上げます。
はいっ♪
ミリアとアランに身分を与え、
エステル様に
お預かりいただきたい。
はぁっ!?
座長っ、何を言ってんだよっ!?
青天の霹靂だった。
何も聞かされていなかった私とアランは
ともに目を丸くしながら座長を見る。
すると座長はどこか寂しげに微笑んだ。
俺たちの生活は不安定だ。
お前たちに苦しい想いは
させたくない。
エステル様のところで
何不自由なく幸せに暮らせ。
な……によ……それ……。
私は頭の中が真っ白になって
それ以上は何も言えなくなってしまった。
全身の力が抜けて呆然と座長を見る。
オイラ、そんなの嫌だよっ!
父ちゃんっ! 父ちゃ~んっ!
アランは大泣きしながら座長――
私たちのお父さんに抱きついていた。
普段は滅多に泣かない子なのに……。
それにアランが座長のことをお父さんって
呼んでいるところ、
初めて聞くかも知れない。
座長はアランを力強く抱きしめて
愛おしそうに頭を撫でる。
その方がお前たちにとって
幸せなんだ。
実はその約束を
呑んでもらうという条件で、
今回の一件に協力するという話を
フロスト様としてあったんだ。
俺もそれを承知していた。
でも座長の意思を尊重して、
何も言わずにいた。
…………。
ルドルフさん、ご安心ください。
おふたりは私が責任を持って
お預かりします。
ミリア、達者でな。
お父さんは瞳を潤ませながらも
満面に笑みを浮かべていた。
すでに別れが決まったみたいに……。
――っっっ!!!!!
次の瞬間、
成りを潜めていた怒りが一気にこみ上げた。
今までは突然のことに驚いて
キョトンとしちゃっていたけど、
むしろその反動で
怒りのパワーは数倍にも膨れあがるッ!!!
バッカじゃないのっ?
あたしが一座からいなくなったら、
誰が演奏をするのよっ!!
誰か新人を探すさっ。
座長がお酒を飲み過ぎないように
誰が小言を言うのよっ?
……こ、今後は自制に努める。
ふっざけんじゃないわよっ!
どっちも無理に決まってるでしょ!
そんなことで騙されないかんねっ!
何年一緒にいると思ってんのよっ!
う……むぅ……。
あたしは絶対に一座に
残るからっ!
ミリアっ、オイラもだっ!
何不自由なく暮らせですって?
家族から無理矢理
引き離されることが
そもそも不自由よっ!
ぷっ!
そこっ、笑わないっ!
私は真面目な話をしてるのっ!
何かおかしいところがあるっ?
あるなら言ってみなさいよっ!
あ゛ぁんっ?
私はつむじを曲げながらフロストを指差した。
そして呪い殺すかのような勢いで
彼を睨み付ける。
するとフロストはギョッとした顔をして沈黙。
口を挟んでこないことを確認すると、
私は再び視線を座長に向ける。
私はねっ、一座でこれからも
興行をしていきたいのっ!
それが望みなのっ!
勝手に人生をねじ曲げないでよっ!
で、でもミリア……。
デモもストもないのっ!
私は絶対に一座から
離れないからっ!
安定した生活の保障は
ないんだぞ?
なによ、今さらっ!
それを分かった上で言ってんの!
座長、これは完全に
僕たちの戦略ミスだったね。
ここまで猛烈に
反対されるとは……。
は、はい……。
でもミリアらしくて
僕はちょっと安心した。
何よ、私らしいって?
気が強いってことっ?
私は頬を膨らませながらフロストを睨んだ。
少しでも私の気に障るような答えを言ったら、
例え王族に対する不敬罪で
牢に入れられたって
フロストの頬をひっ叩いてやるんだからっ!
あなたらしいというのは、
決してそういう意味ではないと
思いますよ、ミリアさん。
っ!? エステル様っ?
エステル様は女神様のような微笑みで
私を見つめていた。
目が合った瞬間、
なぜか怒りが収まってしまう。
エステル様の笑顔には
心を穏やかにさせる不思議な力でも
あるのかな?
家族を大切に思う気持ちが
誰よりも強い。
それがミリアさんらしいと
いうことですよ、きっと。
っ!?
――座長、こうなったら
ミリアとアランの意思を
尊重してあげないか?
仕方ありませんなっ♪
ああいう子に育てた私にも
責任がありますし。
ふっ、ホントは嬉しいクセに。
ありがとうっ、父ちゃん!
バカッ! 外にいる時は
座長と呼べっ!
座長、すごく嬉しそう。
私もお父さんって呼んであげたら喜ぶかな?
…………。
――いやいやいやっ!
やっぱり照れくさくて今は無理ッ!
じゃ、代わりに一座の生活が
安定する提案をしたいんだけど。
ほぅ?
それはどんな提案ですかな?
バサールのような悪人は
各地にもまだまだいる。
そうした者たちを懲らしめる
手助けをしてほしいんだ。
待遇は僕の直属の部下だ。
でも一座にいる時は
僕が一番の下っ端でいい。
今までと一緒さっ♪
なるほどな。
国に雇われているんだから
生活の心配はなくなる。
旅をしながら興行も続けられる。
任務をおこなう以上、
多少の危険は伴うけどね。
あ……いや……しかし……。
さすがはフロスト。
素晴らしい提案だ!
私も賛成です。
オイラもっ!
異議なしっ!
どうします、座長?
私はもちろん賛成ですけどっ♪
僕が正式に加われば、
一座の演奏も厚みを増す。
それも大きなメリットだろう?
……それはメリットだなんて
思ってないし。
私だけでも充分だから。
手厳しいなぁ……。
ふふっ!
あははっ!
私とフロストは同じタイミングで笑った。
それにつられて
その場にいた全員が楽しげに笑う。
やれやれ、困った連中だ……。
フロスト様、
そのお話、お受けしますっ!
座長っ!
こうして私たちルドルフ一座は
新たな一歩を踏み出すことになった。
危険なことにも遭遇するだろうけど、
みんなで力を合わせれば
きっと乗り越えられるって信じてる。
いずれにしても各地で興行をして、
笑顔の輪を広げていくという目的は
今までもこれからも変わらない。
――私たち一座の奏でるラプソディは
ずっとずっと続いていくんだ!
~Fin~
最後までご覧いただきありがとうございますっ! ミリアがピンチになった場面では、ハミュンがおいしいところだけ持っていきましたっ♪ 本作はこれで完結です。でもまたミリアたちの活躍を描ける時が来たらいいなと思っていますっ!