リリアナの言葉にカティナは腕を組み、リリアナの目をまっすぐに見つめた。
まるで覚悟を試しているかのようだった。
ヨシュアを助けたいの
リリアナの言葉にカティナは腕を組み、リリアナの目をまっすぐに見つめた。
まるで覚悟を試しているかのようだった。
どーして?
どうしてって……だって、殺されちゃうかもしれないんだよ? 助けたいと思うのは当たり前じゃない?
行けば、リリアナが代わりに殺されるかもしれないんだよ? そこまでする相手なのかな、ヨシュアは?
試すようなカティナの言葉に怯むことなく、リリアナは口を開いた。
まっすぐカティナの瞳を見返す。
ヨルとこの国の未来を語り合ったの。ヨシュアが動物を前にして笑ってくれたの。私はそんなヨシュア――ヨルを支えたい
『支えたい』と言葉にすると、胸がとくんとくんと速く走りだす。
交わした言葉の数々を思い出せば胸が温かくなる。
ヨシュアは王子として立派だわ。魔法が使えないからこそ、国民の立場になって物を考えてる。この国は変わるわ。その瞬間を、私も一緒に見たい
カティナは頭を掻いた。
バツが悪そうにリリアナから視線をそらす。
……まあ、リリアナを逃したあのヨシュアはカッコ良かったからね。協力してあげてもいいよ
本当!?
リリアナがカティナの両手を握りしめると、カティナはあーあ、とため息をついた。
リリアナには敵わないや。あたしが初めにヨルを連れていったのはヨシュアへ嫌がらせをしようと思ってだったんだよ
え?
それがさー、いつの間にかヨシュアはヨルになってリリアナに会いに行くのが楽しみになってるし。あいつ、嘘ついてたのにいいの?
だって、犬になる呪いをかけられてるなんて、そうそう言えないわ
あーあ。せっかく犬になって慌てふためくヨシュアを見てるのが楽しかったのになー
ぶつぶつと未練がましく言うカティナにリリアナは思わず笑ってしまった。
カティナもヨシュアのこと好きなのね
魔法はいらないというところは好感がもてるよ。っていうか
カティナはにんまりと笑ってリリアナの顔を覗き込む。
あたし『も』って、つまり?
言われてリリアナは改めて自分の気持ちに気づく。
恋や愛なんてわからなかったけれど、ひょっとしたらこれが――。
そう思うと思わず頬が赤らむ。カティナはおかしそうに笑った。
あたしの『好き』は、玩具として、そしてこの国の魔女としての感情だよ。リリアナのことは応援してあげる
う……
自覚すると今度は耳まで赤くなってくるのがわかる。
リリアナはたまらず話を変えた。
で、でも、どうやって助けに行く? 私たち二人じゃ数で負けちゃうよね?
ん? 対抗策ならこんなのはどう?
そう言うとカティナは何か呪文を唱えた。
大きな煙があがり、それが消えるとそこには――。
ドラゴン!?
ん、召喚してみた。これで城に乗り込めば結構な騒ぎになると思うんだけど
……城下町も騒ぎにならないかしら
まあ、それはそれでー
カティナはにこにこと楽しそうだ。
さっさとドラゴンの背に乗り込む。
リリアナもおずおずとカティナの後ろに乗った。
馬とは違い手綱もないし、ウロコが滑りやすい。
適当に胴に掴まると、カティナは空に手を突き上げた。
じゃあ、出発!
バサリ、とドラゴンは羽を広げ、一、二回動かすとそれだけで森の上へ出てしまう。
森を眼下に見、二人は空を駆ける。
そういえば、カティナも貴族なの?
リリアナはふと気になっていたことを尋ねた。
カティナは心底嫌そうな顔になる。
はあ?
だって魔法は貴族にしか使えないんでしょ?
カティナはしばらく考えるように黙ると、それから森を見下ろした。
あたしは、森の、この国の魔女だよ。昔は貴族だけじゃなく、誰でもみんな魔法が使えた。けれども、森を愛する心を失くしていくにつれて、魔法も消えていった
ドラゴンの羽が風を切る音が響く。
リリアナはカティナの背を見る。なんだかその背が小さく思えた。
あたしは森の魔女の末裔。たぶん、貴族でなくて魔法を使える最後の生き残り。だから、この国がどうなるか、正直不安だった
カティナ……
でも、リリアナがいるなら大丈夫だと思ったんだ。きっとこの国は変われるって
カティナはそう言うと振り向いて笑った。
いつもの悪戯な笑みだった。
そのためにもヨシュアをなんとかしないとね
……うん
リリアナは頷いて、遠くに見え始めた城を眺めた。
戦を起こさないための政略結婚でいいと思ってた
城下町の上を飛ぶドラゴンに人々が声を上げる。
でも、今は違う。ちゃんとヨシュアを理解して、支えたい
カティナはドラゴンの上から手を振っている。
半分楽しんでいるのだろうとそれでわかった。
騒ぎは城下町から城へと伝播する。
城の警備など物ともせず、ドラゴンはゆうゆうと城の上を旋回し、高い塔の上に止まった。
雑魚はあたしがなんとかするから、リリアナはヨシュアを探して
うん
リリアナが頷くと、カティナは宙で一度手を振った。
そこには銀でできた一振りの剣があった。
これを使って。武器さえあれば、なんとかなるでしょ。で、どうしようもなくなったらあたしを呼んで
わかった
リリアナとカティナは顔を見合わせて城内に飛び込んだ。
二人に向かって駆けてくる近衛兵たちにカティナは片目をつむってみせる。
リリアナ行って!
リリアナはカティナを信じて駆け出した。
近衛兵たちはリリアナに向かってくる瞬間に突然カボチャに変わる。
あとで戻してあげてね!
えー
カティナはけらけらと笑う。
けれども、これだけの力があればカティナは大丈夫だろう。
リリアナはまずはヨシュアの部屋の方向へと狙いを決めて、足を進めた。