アリス

今回の材料はかなり少なめですよ

アキス

それでも、お互いの知り合いの事ですからよくわかるんじゃないんでしょうか。人格や動きなんかは推測できるところにありますから

アリス

それは確かに、そうですね


今日はメタ推理祭りかもしれない。このあたりはアキス先生と回るシャープペンシルに頼っていくこととなるだろう。

アキス

さて、アリスさんとしてはどのようにお考えで?

アリス

そうですね。フレイスは、お気づきの通り女ったらしなところがあります。やはりその関係だと思うんですよね

アキス

女ったらし、ですか


微かに笑う先生。やはり気づいていたということか。

アキス

ティーチさんは三十路、ということもあって少し結婚を焦っているようです。ただ最近は少し達観しているようなところもありますが

アリス

そんな様子見えなさそうですけどね。言われなきゃティーチさんはいっても25ぐらいにしか見えないですし


童顔な私が言うのも変な話だけど。

アリス

しかし恋愛でいくと弊害が、ですもんね

アキス

犯罪方面からのアプローチは難しそうですから恋愛がらみで彼らに何かあった。しかし、お互い顔をじっくり見る暇はなかった。そのからくりを納得いく形で考えてみましょうか

アリス

わかりました


仮定として恋愛で何かあったとしたという形。それ以外の出来事は不可能とする。それに犯罪がらみはフレイスがやりそうにないし。

まあ、たまに『えー、そんなことするような人にみえなかったんですけどー』なんてインタビューを受ける加害者側の関係者もいるから一概には言えないけど……、すくなくともフレイスはそうではないと信じたい。

アリス

可能性、可能性……。あっ、例えばこういったのはどうでしょうか

アキス

どのようなものですか

アリス

最初はフレイスとティーチさんの間柄に何か関係があると思っていたんですけど、その前提が違っていたという説です。フレイスがひっかけた女性の友人であり、親友が捨てられていたことにティーチさんが激怒してフレイスを魔法でボコボコにしていたという説です

アキス

なるほど……、ちなみにアリスさんは仲の良い友人の彼氏、彼女は知っていらっしゃいますか?

アリス

……いえ、知りませんね。というより知りたくとも、ですし

アキス

あはは……、なるほど。恐らくティーチさんもそのタイプなんですよね。4年前となると僕のデビュー直前といいましたか実はティーチさんとはそれより前からの知り合いなんです。僕の小説を見てもらったりとか、いろいろと。その時から言われてたのが職場が頼りない男ばっかりで仕事も忙しい。ついでに言えば友達との連絡も入社してから全くとっていないとのことでした

アリス

そんなことを知る時間もなかった、ということですか

アキス

恐らくは


うーんと腕を組む。どうすれば、いいのか。それは先生も同じなのかシャープペンシルはとてもよく踊っていた。

アキス

仮説、ですね

アリス

どうしました?

アキス

一つ気になることがありまして。例えばアリスさんの魔法は炎でしたよね

アリス

はい、そうですけど

アキス

……では、アリスさんは水魔法で責められたとします。その時はどうやって対処しますか?

アリス

水魔法で?水と炎の関係を考えると一見相性が悪そうですが炎が水に弱いのは熱源が奪われるからと酸素が無くなるから。ですが、逆に言えば水というのは100度を超えた時点で蒸発していきます。自然蒸発もありますけど、それを除くと。水を上回る火力で責めて行けば問題ないです

アキス

水がかなり強く火力で勝てないのであれば?

アリス

……水と炎ですよね。あっ、エメラルドブルーエンド

アキス

青緑色の炎、ですよね

アリス

はい、その中には銅が含まれてます。銅を強く加熱し互いに激しくこすり合わせるということが可能となりますのでそこで電気が産まれます

アキス

電気によって水を分解、水素と酸素に。その後指向性を持たせた炎をぶつけると爆鳴気と呼ばれる爆発が起きます。ひとたまりもないでしょうね


水と電気さえあればいくらでもこの最強ともいえる爆弾を作ることができる。恐ろしいことだ。

アキス

身近なものであるならばドライアイスなんかも最強の武器になりますね

アリス

小瓶に詰めて、ということですか

アキス

はい、ドライアイスを小瓶に入れて少量の水を入れ密閉。するとドライアイスが急激に気化することにより個体より気体の方が体積が大きいので瓶が耐え切れなくなり破裂。大事故です

アリス

私も店として取り扱っているのでドライアイスは気を付けないといけませんね。それで?

アキス

人間というのは成長する生き物なんです。ですからアリスさんは先ほどの水魔法の使い手相手にむしろ強気に出れる可能性を導き出した。ドライアイス爆弾なんてのもその一つ。もし、私がバビヨンを持っているならティーチさんの攻撃をあんな方法でよけませんよ

アリス

そっか、重力は生命体でないから、半重力をバビヨンで打ち消せばいい

アキス

それをしなかった、いや知らなかった。ティーチさんの浮遊魔法が半重力によるタイプなのか、それとも生命エネルギーを地面に流し込み視えない体力を注いでいるのか。後者の場合は生命体エネルギーをもとにしているのでバビヨンが通じませんもんね

アリス

そう。通常一度敵対したらその性格上半重力によるものだとわかるはずです。半重力だからこそ鋭いスピードを持たせて飛ばせることができますからね

アキス

となると、それも知らなかった。そのあたりからかんがみるに……、アリスさん、ボコボコにされた、というのは話で聞いただけなんですよね

アリス

ええぇ、まあ

アキス

なるほど、これですべてスッキリしました


先生はクルクルと回るシャープペンシルを止める。

アキス

このミステリー、全て書けました


納得いったのか。全く持ってわからない……。

アキス

恐らくフレイスさんとティーチさんの関係というのは実際に会ったものではなかった。それでの知り合い。かつティーチさんの忙しさから考えてアーカイブズ・ワード上での関係、ではないですかね?


アキス先生の魔法でもあるアーカイブスを魔法科学の技術により一般化したもの。それがアーカイブズ・ワード。それ使えば架空バーチャルの中で人と知り合うことができる。簡単に言えば出会い系で出会った可能性。

アリス

確かに、それならやりとりも顔写真のみとなりますし、通常より綺麗に、よく映ろうとするため顔つきが変わってわからないというのも理解できます。しかし、そうすると……ボコボコにされたと

アキス

言葉で、でしょうね

アリス

あっ


確かに、暴力や攻撃でというわけではない。

アキス

それにティーチさんは『あなたを殴るまで』とおっしゃってました。つまり、殴ったことがなかったということでしょうね

アリス

制裁は言葉攻めというわけですか

アキス

でしょうね

なるほど、そう考えるとすべてが納得いく。

そう頷いたときまた扉が開閉する。

ティーチ

空いてる……。すみませーん。アキス先生いらっしゃいますか?

アキス

ティーチさん。いますよ!


そう答えて私の耳元に顔を近づける。

アキス

怒りは収まってるようですが、一応フレイスさんを近づけないようにお願いします

アリス

りょ、了解です


接近した先生に気を取られながら私は動揺を押し隠す。毛布を奥から取り出しフレイスに上からかけておく。

アキス

よく、ここだと気付きましたね

ティーチ

編集者の方に顔を出されていなかったようですのでもしかしたらと思って

アキス

なるほど、そうでしたか。ところで、フレイスさんとはどういう関係で?

ティーチ

別に……

アキス

アーカイブズ・ワード、ですか?

ティーチ

はぁ……。その通りです。そこで知り合ったのがフレイスだったのですが、当時25だった私にフレイスが18。そんな関係もあったのか彼は私に、ばばぁと


ギリギリと歯ぎしりするティーチさん。正解だったらしい。

アリス

こんにちは、フレイスが、すみません

ティーチ

アリスさんは関係のないことですから。私も大人げなかったです


ティーチさんはペコリと頭を下げる。だいぶ冷静になっているようだ。と、胸をなでおろしたとき。

フレイス

う、うぅ……。あの年齢詐欺コンビ


毛布の下からフレイスが呻く。年齢詐称コンビ、ということは私も含まれているらしい。

ティーチ

……

アリス

……


私の方を向いたティーチさんに頷いてみせる。

アリス

よかったら、これを

ティーチ

ありがとうございます

私は近くの本棚から不人気でかつ、重そうな本を渡す。

宙にういたその本は半重力によりフレイスの首元まで吹き飛ばされる。

フレイス

ふげぇあ!?

そのままフレイスはガタンと音を立てて床に落ちた。悪、成敗したり。

バサリと落ちた本のタイトルは勧善懲悪だった

アキス

あ、あはは


流石にカバーしきれないという形で苦笑いを浮かべている先生。

ティーチ

と、それよりもそうだ

アリス

なんですか?

アキス

それよりもって

ティーチ

これ、先ほどフレイスを追い回している時に配られていた号外なんですが……


そうして差し出される新聞。先生はそれを広げる。私も後ろから覗きこむ。

ティーチ

先生、度々言ってましたもんね。この技術は心が躍ると

アキス

魔法科学によりバビヨン・パラレル・ミックス完成。被験者一人募集

先生が見出しを読む。その瞬間私と先生は顔を合わせる。

その瞬間、私の中でずっとたまっていた一つの仮説が、本説となった気がした。

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