お前らのアジトは、今から我々『武装遊撃戦線』が占拠する。逆らう奴は全員死んでもらう!




大声でそう叫びながら狂ったように銃を空に向けて撃ちまくってる男。

その男を呆然と眺めるハルトとマスター。

マスター

どうして此処に。そしていったい何やってんだ?



銃声が途絶えるのを待ってマスターが男に問いかけた。

ふざけんなよ、マスター達を助けに来てやったんだぜ



マスター

どうして此処がわかったんだ?

 

───カジさん



カジさん

それは、ヤマサキ先生に聞いてくれ



バイク集団を銃で威圧しながらカジがいう。

マスター

先生も一緒なのか?



カジさん

ああ、車の中にいるよ




カジが芝居がかった仕草でワンボックスバンを指さした。

マスター

カジさん、一体あんた何者なんだ?



カジさん

その話は後だ、とりあえず、二人共車に乗るんだ



スターとハルトは、カジの乗ってきたバンの対面シートになっている後部座席に乗り込んだ。

カジが車に戻ると入れ替わりにもう一台の車からそれぞれサブマシンガンとアサルトライフル、デザート迷彩柄のアサルトスーツで武装した屈強な二人の男なが降りてきた。二人共目出し帽を首まですっぽり被っていて表情は全くわからないがどう見ても本物の特殊部隊の兵士にしか見えない。



男達は状況が把握できずに二の足を踏んでいるバイク集団に向かって躊躇なく発砲した。

次の瞬間、先頭の一台のバイクが燃料タンクに銃弾を受け轟音を上げて爆発炎上した。


炎上したバイクに乗っていた男は全身火だるまになってのたうちまわる、その男に向けて戦闘服の二人は容赦なく銃弾を浴びせかけた。


全身に銃弾を浴びた男は火だるまのまま蜂の巣状態で絶命した。

圧倒的な戦力差を見せ付けられた残りのバイク集団は完全にパニック状態に陥り我先にアジトに向かって逃げだした。

逃げるバイク集団に向かって戦闘服の二人は更に追い打ち射撃を仕掛ける。

カジさん

もうそれくらいで止めるんだ! キム、パク


カジが運転席の車窓から顔を出して男達に向かって叫んだ。

カジの一声で二人の男は撃つのを止め目出し帽を脱ぎ捨てた。

キム

あいつらシェルショック(砲弾神経症)でもう使い物にならねえ。なあ、パク・ヨンウ



パク

ああ、全く根性のない奴らだな、キム・ヒョンジュン



パク・ヨンウと呼ばれたサブマシンガンの男が咥えていた煙草を吐き捨てるとそういった。

キム

そりゃあ仕方ねえよ。あのガキどもは本物の戦争ってやつを知らねえんだから



パク

ああ、なのに意気がりやがって、本当に馬鹿な野郎たちだ



キム

しかしこの国の奴らぶち殺す事ほど愉快ことは他にねえな



パク

全くだ



パクは頷いた。

キム

今夜は久しぶりに愉しくなりそうだな、なあ、パク・ヨンウ



パク

ああ、あのガキどもを片っ端からぶっ殺してやりてえ



二人の男は声を上げて嬉しそうに笑った。

カジさん

よう、ハルちゃん、なんか雰囲気変わっちまったな。どうしたんだい?


バンの車内、運転席でカジがニコニコ笑いながらハルトにいった。

ハルトの顔が強張る、そして黙ったまま小さく首を横に振った。

ヤマサキ先生

頭痛は治まったようだな? ハルト君


ハルトに向かってヤマサキがいった。

ハルト

―――どうしてそれを?


ハルトは怪訝そうに歪んだ顔で訊き返した。

カジさん

先生はハルちゃんの事よく知ってるんだ。昔のことも



カジが穏やかな口調でそういうとハルトに微笑みかける。

マスター

一体どういう事だ?


マスターはカジとヤマサキの顔を交互に見て訊いた。

カジさん

その話も後からだ。長い話になる



カジがいった。

ハルト

……


ハルトはじっとヤマサキを見ている。

マスター

ああ、わかったよ。しかしカジさんがテロリストだとは驚いたぜ



カジさん

いいか、マスター、誰がテロリストだ? ふざけんな! これだけは言っとく、俺は無政府主義者で革命家だ!


カジが不満の声を上げる。

マスター

わかったよ、カジさん。何でもいいけどさっきの爆弾はあんたらの仕業か?



カジさん

驚かせて悪かったな。ああでもしないとヤバかったろ



マスター

───ああ、おかげで助かったよ


マスターは少し間を置いてそういった。

カジさん

それでレイコさんと子供達は何処にいるんだ?



マスター

それが此処にはいないんだ、別の場所に監禁されてる



カジさん

なんだって。場所はわかんねえのか?



マスター

埠頭のどっかに監禁されてる、時間がないんだ。早く助けに行かないと船で連れてかれちまう



カジさん

わかった。でもちょっと待ってくれ此処を制圧してからだ



マスター

それじゃあ間に合わねえ、ひとまずユキオって奴を助けだしたいんだ。奴がレイコ達の詳しい居場所を知ってる



カジさん

そいつは何処にいるんだ



マスター

さっきの爆弾で倒壊した建物の広場をはさんだ向かい側の棟にいるはずだ



カジさん

よし
わかった



マスター

しかし奴らも結構な武器を持ってるぜ



カジさん

任せときな俺たちは戦闘のプロだ。暴走族のガキ共が何人束になって掛かってきても負けやしねえよ



マスター

見違えたよ、カジさん。ただの酔っ払いじゃねえな



カジさん

うるせえよマスター。ただ今回の事件は裏で政府が絡んでる。ただの誘拐事件とはわけが違うんだ



マスター

そうなのか?



カジさん

ああ、確かな筋からの情報だ



マスター

なんてひでえ話しなんだ……。この国は芯から腐っちまってるな



カジさん

そんな事は最初から分かりきってた事だ



マスター

……


二台のバンはアジトの広場に向かって走りだした。

先頭の車を運転しているパク、助手席にはキム。

後続の車を運転するカジ、車内にはハルト、マスター、ヤマサキ。






一行を乗せた車がアジトの広場に着いた。

広場は非常照明によって結構な明るさであったがそこには誰一人の姿もなかった。

燃えていた棟も今は鎮火していて周囲には火事場特有の焦げた臭いが漂っている。

キム

奴ら怖気づいて逃げこみやがったな



車から降りたキムがいった。

カジさん

油断はするな


運転席から出たカジがいう。

パク

ああ、わかってるよ、抜かりはない

険しい目つきであたりを見渡すパク。


───不気味に沈黙するマザーレスチルドレンアジト。

マスター

あの建物にユキオがいるはずだ



マスターが指さしてカジにいう。

カジは車を移動させるとヒラヤマの住処の棟の門口に横付けした。



キムとパクの二人はは銃を携えて戸口に立ち周囲を警戒している。


アジト全体が静まり返ってうす気味悪さを漂わせている。


カジが銃を構えながら入り口のドアを蹴って開ける。

カジさん

誰もいないのか!



周囲に注意しながらカジは建物の内部に侵入した。

暗い室内へハンディライトを持ったマスターと銃を手にしたハルトも後に続く。

部屋の中からは物音ひとつ聞こえてこない。

マスター

いるなら出てこいユキオ!



マスターが叫ぶ───しかし返事はない。

照明のスイッチを入れた。

蛍光灯の明かりが殺風景な室内を照らしだした。

部屋の隅にうずくまっている男。


マスター

ユキオ、お前無事だったのか



マスターがいう。

ユキオ

あんた達だったか……



放心したようにつぶやくユキオ。

マスター

大丈夫か? 助けに来てやったぜ


マスターが屈んでユキオに近づく。

ユキオ

ああ、大丈夫だ。今まで気を失ってたようだ。ナイフもって突っ込んだ後の記憶がはっきりしない




ユキオが頭を振りなが顔をしかめた。

マスター

たぶん勢い余って壁にでも激突したんだろうな



マスターがそういうと、ユキオは頷いた。

 
その時「ユキオ!」ヒトミが叫ぶ声が響いた。

カジが地下室のヒトミを助けだしたのだ。

ユキオ

───姉貴、無事だったのか



ユキオが安堵の溜息を漏らした。

マスター

まあ、お前たちが無事で良かった。これから俺たちと一緒に行ってもらう。家族の所に案内するんだ



ユキオ

わかった、もうオレは此処にはいられない。どこでも付き合うぜ



ユキオはマスターの顔がある当たりを眩しそうに見つめながらそういった。



ヒトミ

ユキオ、あんた自分が何やってるのか、わかってるの?



ユキオ

オレは今までどうかしてたんだ。取り返しのつかないことをやってしまった



ヒトミ

今からでも遅くないわ、これから真っ当な人生を歩くのよ



ユキオ

……



ヒトミの言葉にユキオは黙って頷いた。

ハルト

もうそれくらいでやめだ



舌打ち───突き放すような声。

ハルトが吐き捨てるようにそういった。



pagetop