その日、マリーに案内された部屋は、そこそこいい部屋だった。

清潔なシーツのかけられたベッドがとても魅力的である。

干し草の中も柔らかく、温かかったが、それでも眠るなら普通のベッドで眠りたい。

だが、俺には眠る前にする事があった。

そのベッドに転がる前に目覚まし時計を見て、セットをする。と、

レイト

何で目覚まし時計をセットしているんだ?

ユニ

いや、フィリアに呼び出されていて

レイト

……なんという下僕根性

ユニ

じゃあフィリアの頼みを断ると?
レイトは勇気があるな

レイト

あー、まあ、確かに。
それは断れない気がするな。
うん、面白そうだからこっそりつけていくか

ユニ

面白そうって、今からどんな無理難題がつきつけられてしまうのか不安でドキドキするよ

レイト

愛の告白だったりして

ユニ

……


人事なので笑っていられるらしいレイトに俺はため息を付き、

ユニ

マリーの件はどうする気だ?

レイト

……

ユニ

おい、現実逃避するな

レイト

いや、冗談にしか思えなくて


たしかにそれまで全くそんな素振りを見せていないのにいきなり実は好きでしたとか女の子の方から言われるなんて、俺達にとっては……。

ユニ

お友達までだしな

レイト

それはそうだな。
いつも女の子とはお友達までだ。
だが、僕にも好みがある

ユニ

そうだな。
うん、でもレイトは意外に押しが弱そうだからな。
押し切られるんじゃないのか?

レイト

なんて恐ろしいことを言うんだ。
しかも、押し切られそうになっているユニがそんなことを言うなんて

ユニ

まだ押し切られていない!

レイト

時間の問題だ。
さあ、震えるが良い

ユニ

レイトもなー


そこで会話が途切れる。

そしてどちらともなく、深々とため息を付いて、

ユニ

不安しか無いから寝よう

レイト

そうだな、色々あって僕も疲れた


深々とため息を付き、その日はお互いそれぞれのベッドに入りこんだのだった。

目覚ましの鳴る音に起きた。

それから背伸びをして起き上がり身支度を整える、

レイトも、つけてくる気満々で、いそいそと着替え始めている。

しかし、こんな朝早くに俺を呼び出して、フィリアはどうする気だと思う。

ユニ

何が目的なのかさっぱりわからない


けれど無視すると後が怖いので、言われた通りにその場所に向かう。

夜は暗くて見えなかったが、一面花畑だ。

研究用というよりは、観賞用に見える。

花畑の先には青空が広がっている。

雲1つないそれを見上げながら、なにか良いことがある気が俺はしてくる。

俺の直ぐ側を吹いていった風は花畑を揺らして、花弁が舞う。

夢のように綺麗で穏やかな光景だ。

ユニ

本当にいい天気だ。
昨日までの色々あった出来事が嘘みたいな、そんな感じだ

突然女体化させられそうになったり、山賊に襲われてフィリアに下僕になったり。

それで謎の集団にフィリアが襲われて、大怪我をして……。

何故かフィリアが怪我をしたのを思い出すだけで俺は苛立つ。

感情が凄く揺さぶられるというか……でも、それがどうしてなのかがよく分からない。

だって俺は下僕だから。

でももう少し違う関係でも良い、気がしないでもないか?

そう自分が考えてしまうのに俺は、戸惑いを覚える。

そうこうしている内に、ベンチのある場所にまで来てしまった。

フィリアはまだ来ていない。

ユニ

自分が指定したのに来ていないのか

そう呟きながらも、何となく俺は変な気持ちになる。

こう、そわそわするというか、なんだろうこの気持ち。

自分でもこの経験は無いので、よく分からない。

再び強い風が吹く。

思わず目を閉じてしまう。

けれどなかなかその風は止まなくて、しばらく俺は目を閉じていた。

やがて風が収まり俺はゆっくり目を開くと、離れた場所から誰かが来るのが見える。

白い服を着た金髪の……とても俺が好みの美少女だった。

それこそ昔出会った、あの小さな子を大人にしたような清楚で可憐な美少女で……。

彼女は段々俺に近づいてくる。

頬が熱くなるのを俺は感じる。

どうしよう、俺はどうすればいい?

いや、俺に会いに来ているとは限らないし。

平常心平常心と自分で言い聞かせる。

けれど。

おはようございます


彼女は俺に挨拶されて凍りつくもすぐに、

ユニ

お、おはようございます


それに彼女はくすりと笑う。

俺は焦るけれど、そんな俺に彼女は更に近づき、そっと俺の手を握った。

実は、貴方にお願いがありまして


恥じらうように彼女は言う。

そしてそんなすごく好みな女性に手を握られて囁かれたら俺はもう訳もわからず頷いてしまうわけで、

ユニ

な、なんでも言ってください

貴方の恋人になりたいのです。
駄目ですか?

ユニ

! ぜひ恋人になってください!


テンパっている俺にはもう、そう答えるしかなかった。

そこで……俺の手を握っていた彼女が、嗤った。

チョロい

ユニ

え?

まだ貴方の目の前にいる人物が誰なのかわからないのかしら?

げ・ぼ・く☆


その声と下僕という言葉に、俺は気づいた。

フィリア

……

ユニ

フィリア!?

そうよ、ちょっと雰囲気を変えただけでこうも簡単に引っかかるなんて

ユニ

そ、そんな

男には二言はないんでしょう?

ユニ

で、でもこれは……


俺がそう焦っていると更に楽しそうにフィリアが、

そもそもちょっと雰囲気を変えた程度でご主人様に気づかないなんて、下僕としては失格ね。
もう恋人になるしか無いわね

ユニ

……


まさかこんな簡単に俺は引っかかってしまうなんてと思っていると、そんな俺にフィリアがしかたがないわねとため息を付いて、

だいたい昔あったでしょう。
柱の陰からずっと、見ていたのを引っ張りだしたのはユニの方でしょう?

ユニ

……え?


その言葉にようやく記憶がパズルのピースをはめ込むかのようにハマって。

ふぃりあ

……

ユニ

ま、まさかあの、フィリア?

そうよ。ようやく思い出したみたいね

ユニ

な、何であんな感じにというか、昔はもう少し……

ユニも昔はもう少し素直で自分のことを“僕”って言う、女の子と見間違うくらい可愛い子だったわね

ユニ

……それは言わないでください

だれだって子供のままでいられないのよ。
貴方も私もそう

ユニ

だからってここまで変わるとは思わないよ

なによ、そんなに昔の私が好きだったの?

ユニ

だって初恋だし

ん? ということは私が、ユニの初恋もらっちゃったってこと?
あら、面白いわ

ユニ

……

俺はいろいろな意味でもう何も言えなかった。

というかもう考得たくなかった。

実は初恋のあの子は俺の中で思いの外大きな存在であった事も、そしてフィリアの恋人になったことも全て投げ出したい気持ちになった。

そしてレイトが何処かであった様なと言っていたが、その通りだったのだと気付く。

だってあの集まりの時にレイトもいたから。

混乱する俺。

でもそんなことをフィリアが許してくれるわけがなくて。

よし、恋人同士になったし、これからデートよ

ユニ

え? こんな朝早くから!?

いいじゃない、何か予定でも有るの?
折角この私がここまで着飾ってやったというのに

ユニ

そ、そもそもデートならもっと俺だってそれなりの格好に……

下僕は逃げそうだから駄目よ。
さあ、行くわよ

ユニ

ええ!
というかいま下僕になっていませんでしたか!?

気のせいよ、下僕

ユニ

いや、今だって……


そこで俺はフィリアに腕を組まれて、そうすると俺ももうそんな抵抗できないというか緊張するというか女の子と腕を組むのなんて初めてというか。

もう全部いいやと思った。

だってこうやっていると、それはそれでいい気もするし。

デートも、してみて合わなければ別れればいいだけだし。

そう俺は自分自身に言い聞かせて歩き出す。

そんな俺達をレイトとマリーが追いかけてきてダブルデートになったは別の話。

他にも俺達のこの関係でごたごたがあったりするけれどそれは結局の所、俺達の絆が試されていただけで。

俺が女体化される羽目になり、初恋の彼女と再会して恋人になった経緯はこんな、後から見れば無茶苦茶な出来事ではあったけれど……それでも、後から見れば当然のように一緒になる、必然としか思えない出来事だったのだった。

――ドS魔女っ子と下僕なユニコーン(俺)・完――

あとがき

ここまでお読み頂きありがとうございました。
これから番外編も投稿できればと思っています。
また何かを投稿しましたら、よろしくお願い致します。

20、ハッピーエンド・エピローグ

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