屋敷で買い与えられた書物で読んでいたが、自分が恋をするなどと思ってもみなかった。
コーラルはライオネスの顔をまともに見られなくなってしまった。
受けこたえもしどろもどろだが、毎日送り迎えをするライオネスは困るどころか、むしろおもしろがっているようである。
人目のないところ限定だが、ふいうちにコーラルの手をにぎったり、肩にふれたりする。
そのたびに顔を真っ赤にするコーラルをのぞきこむライオネスは、いつも満面の笑顔だ。
――ライオネスの方もコーラルに好意を寄せてくれているようだ。
どうしたらいいかわからず、相談しようにも誰にどういったらいいかわからない。
なにより、祭りの準備で大わらわの作業場に着くと、浮ついてなどいられなかった。
刺繍が一区切りつくと、コーラルたちはまたべつの場所に駆り出された。
祭り当日に供される料理の仕込みをするのだ。
果実と酒で素材を漬けこむという。
その作業場に行ってみると、中心になって作業を指示する女衆のなかにラトゥスがいた。