温厚な分怒ると怖いんだと、後になってレイトが俺の事を言う。
だが俺にだって感情もあるし、怒ることだってある。
正義感が強い、というわけではないけれど……人並み程度に善良だと俺は自分で思っている。
だから俺は、フィリアやレイトを傷つけた、そう、攻撃してきたその人物を静かに睨みつけた。
“敵”として狙いを定めて睨みつけると、その人物は怯えたようだった。
少し離れた場所で、木陰に隠れるようにいたためか、顔はよく見えないが……そこそこ若い男のようだった。
彼は舌打ちして、何かを呟き始める。
温厚な分怒ると怖いんだと、後になってレイトが俺の事を言う。
だが俺にだって感情もあるし、怒ることだってある。
正義感が強い、というわけではないけれど……人並み程度に善良だと俺は自分で思っている。
だから俺は、フィリアやレイトを傷つけた、そう、攻撃してきたその人物を静かに睨みつけた。
“敵”として狙いを定めて睨みつけると、その人物は怯えたようだった。
少し離れた場所で、木陰に隠れるようにいたためか、顔はよく見えないが……そこそこ若い男のようだった。
彼は舌打ちして、何かを呟き始める。
魔法を使う気か
俺はそう小さく呟いて、駆け出そうとすると、
手伝おうか?
私も、何か手伝う?
遠慮する、邪魔だから
短くそう告げると、フィリアが驚いた顔をした。
けれどその時にはもう俺は走りだしている。
後ろの方で、フィリアとレイトの会話が聞こえる。
下僕が、いつもよりも頼もしく見えるんだけれど
あー、うん。
普段のユニは大人しいし優しいからなかなか、ね。
ご存じないと?
……優しいのは知っているわよ
フィリアが小さく笑ってそう言っている。
でもその頃には俺はフィリア達から離れてしまって会話すらも聞こえなかったが。
それは結構。
ただああ見えて、魔法の成績もいいし、学業も優秀なんですよ
ユニコーンの末裔だものね
その中で、戦闘能力も魔力も実は一番高いんですよ
あら、そうなんだ
フィリアが少し驚いたように呟く。
それにレイトは頷き、
その辺はご存じないと。
ふむ、どうやら貴方と出会ったのは僕も含めてユニが幼少期の頃のようですね
……
まあ、ユニはああ見えて決断力もありますから、なので怒らせると怖いんですよね
ふーん。
でも邪魔だなんて、下僕のくせに生意気な
案外貴方が怪我をしたのが一番応えているかもしれませんよ?
……治せたんだから良いじゃない
だからといって納得できるかは別です
……援護くらいさせなさいよ
必要だったら言ってきますよ。
ユニだって愚かではありませんし。
ここで花を持たせてあげてはいかがですか?
そこでそんなレイトをふんとフィリアが笑って、
この私の援護すらいらないなんて、下僕のくせに生意気だわ。
最後の美味しいところだけ奪ってやる
そこで、離れた場所にいたマリーがフィリア達の元にやってきた。
フィリア、凄いわねあのユニコーンの末裔。
魔法攻撃片っぱしから跳ね返したり攻撃まで加えているじゃない
マリー、貴方には怪我はないのね
まあね。
私にひれ伏しているとはいえ、自分の味方を攻撃するのは難しいと思ったんじゃない?
あっちは少数派だし
ただ単にマリーはずっと警戒していて、私や下僕を怪我させて連れ去ろうと思っただけなんじゃない?
それが一番ありそうね。
でもそれがあのユニコーンの末裔の逆鱗に触れてしまったと
マリーが興味深そうに戦闘の様子を見て、そこでけたたましい咆哮が響いたのだった。
ユニコーンの末裔だからといって俺は、癒しの力のような特殊な力があるだけではない。
幻獣の末裔である分魔力も強いのだ。
だから目の前に迫り来る炎に向かって、
“氷結の槍”
当然のように呟き魔法を使う。
特殊な力はいつでもホイホイ使わない、それが俺達ユニコーンの末裔では常識だった。
何故なら、“危険”すぎるからだ。
ユニコーンの特殊能力“癒し”。
魔法による“癒し”が主に、その人物の治癒力向上や、解毒であれば違う物質を組み合わせて無毒化させるのに対して、ユニコーンの“癒し”はその怪我そのものを消失させる。
ようは、その怪我や病気が存在していない“時間”へと巻き戻したり、特定の病気や怪我などを空間的に転送したりするのだ。
ただ後者は魔法を上手く操る高度な技術が必要であったりするが。
前者は、俺がレイトの家でお茶やケーキを出された時に使った力がそうだ。
睡眠薬などが入っていない時間に巻き戻したのだ。
時間操作以外で空間操作の場合、毒素を異空間等に吹き飛ばしたり、無毒な形に変質っせたりも出来るが、基本的には時間操作の方が楽でそこまで神経を使わなくて済むので、そちらを俺は“癒し”として使用している。
話しが脱線したが、時間空間操作による結果が“癒し”であって、本来のユニコーンの特殊能力は時空操作の能力なのだ。
そしてそれを扱えば目の前の相手など、次元の彼方に放り込んでしまうことも可能である。
けれどそれはしない。
そこで現れた雷を避けながら俺は、
“炎舞の調べ”
炎を呼び出す。
横に凪ぐように炎が広がり、標的に向かう。
だが消された。
それでも十分に彼の力をそげたようだ。
そこで彼が何かを掲げる。
青い透明な宝石のように見える。
“輝け”
それと同時にその宝石が輝き、怪物が姿を現す。
頭が鷲、ライオンの足、そして羽の生えた幻獣。
グリフォン、の姿を模した者。
本物のグリフォンの末裔は俺も知っている。
非常に頭のいい人物だった。
そして、本来の幻獣も力が強く賢い存在であったはずだ。
だからこの目の前に現れたのは魔力で作った“ニセモノ”だろう。
この程度の“弱い”幻獣はいない。
はははは、こレでお前も終わりだ。ゆけ、グリフォン
そう叫ぶのを聞きながら、俺を捕らえて連れて行こうなんて気持ちは全く無いんだなと思う。
ただ単に、余裕が無いだけなのかもしれないが。
俺はその迫り来る怪物、そういえば最近見かける変な怪物とはこれのことだろうかと俺は思いながら、手を前面に掲げて、
“業火の檻”
その言葉と共に、魔法陣が現れて炎が現れる。
赤ではなく青白い炎。
それに包まれて一瞬でグリフォンは消失する。
断末魔の咆哮すらもなく、それは消し去られる。
な……な……
怯えたようなその敵はもう何も出来そうになかったけれど。
やけになって誰かを人質にする前に俺は、その敵である男を気絶させたのだった。