安田粧子

忍もギャンブルばっかりで稼いでないで一緒にカイロやってみない?

小暮忍

なんで?

安田粧子

大きくて温かい手なんだから。きっと良いカイロプラクターになれるよ?

小暮忍

俺はいいよ。人に触るのも触られるのも嫌いなんだ

安田粧子

そっか…そうだよね

小暮忍

あとこれデカくて邪魔。タバコが吸いずらい



風にゆらゆらと揺れるベランダの向日葵の隣で小暮は煙たそうに呟いた。


その横で水をやりながらニコリとして粧子が諭すように口を開いた。

安田粧子

向日葵ってね、悪い空気を吸って浄化してくれるんだよ。だからチェルノブイリ原発跡は向日葵でいっぱいなんだって。きっとタバコも一緒だよ?受動喫煙する身にもなってよね

小暮忍

だから気を遣ってベランダで吸ってるんじゃないか。いつか間違って燃やしちまいそうだよ

安田粧子

愛情を持って大事に育てれば大丈夫。それに種を割って食べると美味しいんだよ。栄養たっぷりで、不規則で不健康な忍君には効果てき面!

小暮忍

俺のヤニを栄養にした種を食えって?それじゃ受動喫煙どころじゃ済まないんじゃないのか?チェルノブイリも目じゃなくなるぜ?

安田粧子

またそうやって意地悪な事言う。それならカルシウムのサプリメント飲んでよ。喫煙で失われるカルシウムを補ってガンの抑制作用もあるし。それに・・・

小暮忍

…わりい。あれ甘すぎて苦手なんだよ

安田粧子

…だよね!忍はホント好き嫌いの多い人だよね~






そんなたわいのない会話が
この部屋で流れていた気がする。



いや、

もしかしたら今自分が作った
都合の良い記憶かもしれない。








時の流れは本当も嘘も付くものだから。



だから今でも俺は思う




俺はどうしたら君を
幸せにできただろうか?



第4章

ハヴューシーン

ハーハッピー?




















安田粧子

忍は自分に甘いんだよ!

ささいな口論から別れ話にもつれた時、

粧子は初めて小暮に激昂しながら言った。


それに逆上した小暮はそのとき自分が吐いた言葉を思い出して後悔した。

小暮忍

お前こそ現実に甘いんじゃないのか。
アガリ目のない博打はもう止せよ。
見ててスゲエ痛いんだ。




それは
カイロプラクティックの
民間療法であるが故の
世間の認知度の低さ。


商品の仕入ればかりで
借金と赤字がかさむ経営能力に
乏しい彼女への苛立ち。


アパートの一室を施術院にされて
プライベートを失われた事。


プロとしてギャンブルだけで
生きて来た小暮から見て、


粧子はすべての立ち回りがちぐはぐで
プロの粋に達していない
中途半端なものにしか見えなかった。



安田粧子

ごめんなさい。辛い思いさせたね





怒りか悲しみかわからない
涙声の粧子を振り返らずに
小暮忍は部屋を出た。




別にまた一人に戻っただけだ。




はじめは献身的に尽くす
都合の良い女だったが、

仕事を覚えて次第に自己主張が
強くなってきた彼女が
不都合になっただけ。




その時はそう思っていた。


あの知らせが来るまでは。




続く

第四章 ハヴューシーン・ハーハッピー?

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