悠真はどこ?!
悠真はどこ?!
いつものように、作業場に入ると、麻里亜と栄井さんがせわしなく動いていた。
ん?
柳之助はその後ろの席で、ゆったりと座ってタブレットを見ている。
嫌な予感がした……。
柳之助。
何かあったの?
柳之介のところに行って聞いた。
ああ、悠衣
珍しく、驚いていた。
ご苦労様。実験は終わった?
なんだかいつもと違う気がする……。
試料が破損したから、報告に来たんだけど……。
そうか。
柳之介は持っていたタブレットで実験データの確認をする。
結果は同好会のメンバー全員が見れるようになっている。
問題ないよ。
これなら実用しても大丈夫だ。
でも、壊れる時、大きな音がしたから、もう少し粘性を上げたいんだけど。
そこは栄井が補強を加えたから大丈夫だよ。
そう言って、タブレットを机の上に置く。
……なんか、もう使っているっぽい感じ?
柳之介はゆったりとしているんだけど、麻里亜と栄井さんはものすごく忙しそう……。
今日はここで実験する予定あった?
ああ、うん。
急にやることにしたんだ。
私にも声をかけてくれれば良かったのに。
キミは実験の掛け持ちをしているから、そっちに専念してもらいたかったんだ。
……けっこう暇なんだけど。
そう? じゃあ、見ていけばいいよ。
ちょっとの間、皆の様子を見た。
麻里亜はキーボードをせわしなく叩いているし、栄井さんはあまり機敏ではないけれど、タブレットを持って機器のチェックで右往左往していた。
お弁当、買ってこようか?
そろそろお昼時だし、この感じだとみんな食べていないような気がする。
お願いできるかな。
じゃあ、行ってくる。
いつものでいいよね。
大学の売店で売っている500円のお弁当。
お昼はこれが多い。
会費から出して良いから。
柳之介が引出しから会費が入っている金庫を出して、中から2000円をくれた。
ありがと。
それを受け取り、地上に行こうとして、スマホを柳之介に渡したままだったことを思い出した。
私のスマホ、返してくれる?
悠真に連絡をしようと思った。
さっき、呼ばれたように思ったのが気になった。
ああ……。
なんだか歯切れが悪い。
必要?
うん。
悠真に返したよ。
悠真、来たの?
呼び出したから。
そういえば、そう言ってたかも。
悠真は?
悠真がいるなら、悠真の分のお弁当も買ってこないと。
悠真は部外者だから、私が買わないといけない。
あれ?
そういえば、財布持ってないかも……。
部屋に置きっぱなしだった気がする……。
っていうか、なんか嫌な予感がする……。
大丈夫。二日後に帰ってくるから。
はぁ?
ものすごく、嫌な予感がした……。
麻里亜と栄井さんの動き、そして、寿司をタイムリープさせると言っていたこと。
それらを踏まえて予想できること……。
まさか、悠真を実験台にしたの? タイムマシンの……。
彼が適任だったんだよ。
柳之介の胸倉をつかんだ。
私の弟に何してくれてるわけ?
会員を実験台にするわけにもいかないし。
彼らがいなくなったら、データの収集が困難になるからね。
だからって、悠真を実験台にしていいっていう理由にはならないよね。
理由はある。
どこに?
悠真を実験台にすれば、キミはものすごく焦る。
当たり前でしょ。っていうか、それが理由っていうのの意味がわかんないんだけど。
いや、意味はある。
どこに?!
キミが困ることを、私は好まない。
だから、私はそれが最悪な事態にならないように最善を尽くすんだ。
確かに、コイツは気分屋だ……。
気分が乗らなければ手を抜き放題になるが、気分が乗れば彼ほど頼りになる人はいない……。
…………。
柳之助から手を離した。
分かってくれた?
悠真に何かあったら、赦さない。
わかっているよ。
それが嫌だから、悠真なんだ。
ぜんっぜんわかってない。
悠真をそんな理由で危険な目に遭わせるなんて、ハラワタ煮えくりかえってるんだけど……。
はぁ……。
とにかく、被害は最小限にしないと……。
悠真は2日後まで帰ってこないんだろうし……。
まず、お母さんに電話しなきゃ……。
麻里亜、スマホ貸して。
忙しそうにしていたけど、麻里亜の方に行って聞いた。
私のを貸すよ。
そう言って、柳之助が私の方に自分のスマホを差し出した。
…………。
キミの家の番号も入っているよ。
麻里亜、貸して。
柳之助を無視することにした。
ん。
麻里亜は無造作に貸してくれた。
ありがと。
すぐに、母の携帯の番号を押した。
お母さんの携帯の番号を教えるわけにはいかない……。