悠真はどこ?!

いつものように、作業場に入ると、麻里亜と栄井さんがせわしなく動いていた。

悠衣

ん?

柳之助はその後ろの席で、ゆったりと座ってタブレットを見ている。

嫌な予感がした……。

悠衣

柳之助。
何かあったの?

柳之介のところに行って聞いた。

柳之助

ああ、悠衣

珍しく、驚いていた。

柳之助

ご苦労様。実験は終わった?

なんだかいつもと違う気がする……。

悠衣

試料が破損したから、報告に来たんだけど……。

柳之助

そうか。

柳之介は持っていたタブレットで実験データの確認をする。
結果は同好会のメンバー全員が見れるようになっている。

柳之助

問題ないよ。
これなら実用しても大丈夫だ。

悠衣

でも、壊れる時、大きな音がしたから、もう少し粘性を上げたいんだけど。

柳之助

そこは栄井が補強を加えたから大丈夫だよ。

そう言って、タブレットを机の上に置く。

……なんか、もう使っているっぽい感じ?

柳之介はゆったりとしているんだけど、麻里亜と栄井さんはものすごく忙しそう……。

悠衣

今日はここで実験する予定あった?

柳之助

ああ、うん。
急にやることにしたんだ。

悠衣

私にも声をかけてくれれば良かったのに。

柳之助

キミは実験の掛け持ちをしているから、そっちに専念してもらいたかったんだ。

悠衣

……けっこう暇なんだけど。

柳之助

そう? じゃあ、見ていけばいいよ。

ちょっとの間、皆の様子を見た。

麻里亜はキーボードをせわしなく叩いているし、栄井さんはあまり機敏ではないけれど、タブレットを持って機器のチェックで右往左往していた。

悠衣

お弁当、買ってこようか?

そろそろお昼時だし、この感じだとみんな食べていないような気がする。

柳之助

お願いできるかな。

悠衣

じゃあ、行ってくる。
いつものでいいよね。

大学の売店で売っている500円のお弁当。
お昼はこれが多い。

柳之助

会費から出して良いから。

柳之介が引出しから会費が入っている金庫を出して、中から2000円をくれた。

悠衣

ありがと。

それを受け取り、地上に行こうとして、スマホを柳之介に渡したままだったことを思い出した。

悠衣

私のスマホ、返してくれる?

悠真に連絡をしようと思った。
さっき、呼ばれたように思ったのが気になった。

柳之助

ああ……。

なんだか歯切れが悪い。

柳之助

必要?

悠衣

うん。

柳之助

悠真に返したよ。

悠衣

悠真、来たの?

柳之助

呼び出したから。

そういえば、そう言ってたかも。

悠衣

悠真は?

悠真がいるなら、悠真の分のお弁当も買ってこないと。
悠真は部外者だから、私が買わないといけない。

悠衣

あれ?
そういえば、財布持ってないかも……。

部屋に置きっぱなしだった気がする……。

っていうか、なんか嫌な予感がする……。

柳之助

大丈夫。二日後に帰ってくるから。

悠衣

はぁ?

ものすごく、嫌な予感がした……。

麻里亜と栄井さんの動き、そして、寿司をタイムリープさせると言っていたこと。
それらを踏まえて予想できること……。

悠衣

まさか、悠真を実験台にしたの? タイムマシンの……。

柳之助

彼が適任だったんだよ。

柳之介の胸倉をつかんだ。

悠衣

私の弟に何してくれてるわけ?

柳之助

会員を実験台にするわけにもいかないし。

柳之助

彼らがいなくなったら、データの収集が困難になるからね。

悠衣

だからって、悠真を実験台にしていいっていう理由にはならないよね。

柳之助

理由はある。

悠衣

どこに?

柳之助

悠真を実験台にすれば、キミはものすごく焦る。

悠衣

当たり前でしょ。っていうか、それが理由っていうのの意味がわかんないんだけど。

柳之助

いや、意味はある。

悠衣

どこに?!

柳之助

キミが困ることを、私は好まない。
だから、私はそれが最悪な事態にならないように最善を尽くすんだ。

確かに、コイツは気分屋だ……。

気分が乗らなければ手を抜き放題になるが、気分が乗れば彼ほど頼りになる人はいない……。

悠衣

…………。

柳之助から手を離した。

柳之助

分かってくれた?

悠衣

悠真に何かあったら、赦さない。

柳之助

わかっているよ。
それが嫌だから、悠真なんだ。

悠衣

ぜんっぜんわかってない。

悠真をそんな理由で危険な目に遭わせるなんて、ハラワタ煮えくりかえってるんだけど……。

悠衣

はぁ……。

とにかく、被害は最小限にしないと……。
悠真は2日後まで帰ってこないんだろうし……。

悠衣

まず、お母さんに電話しなきゃ……。

悠衣

麻里亜、スマホ貸して。

忙しそうにしていたけど、麻里亜の方に行って聞いた。

柳之助

私のを貸すよ。

そう言って、柳之助が私の方に自分のスマホを差し出した。

悠衣

…………。

柳之助

キミの家の番号も入っているよ。

悠衣

麻里亜、貸して。

柳之助を無視することにした。

麻里亜

ん。

麻里亜は無造作に貸してくれた。

悠衣

ありがと。

すぐに、母の携帯の番号を押した。

悠衣

お母さんの携帯の番号を教えるわけにはいかない……。

pagetop