……現在人狼ゲーム中。
……現在人狼ゲーム中。
はい、一日目の朝ね
私が占い師引いたわ
ペロリコーン、昨晩占ったのはあんたよ
あんたが躾の悪い犬であることは分かってるわ
よって死ぬがいい
貴様ァ……!
みんな、駄犬を駆逐するよ
はい投票開始
まさに鶴の一声。
すぐさま集まる票の数々。
抗えない数の暴力が彼を襲う。
ええい、なぜだッ!?
なぜ住吉妹と一緒にやると毎回俺は決まったように俺は黒なんだ!!
決まってるよ
それはあんたという男がこの村の中で、半井・ペロリコーン・幸太朗だからさ
私はお前が変態であることを知っている
さぁ、潔く裁きを受けろ
そして死ね
死ぬかッ!!
勝手にミドルネームをつけるな!
なんだその変態そのものの名前はッ!
俺は変態じゃないと何度言えばいい!
……スーツ姿の大学生と、制服姿の女子高生が一緒になってゲーム中。
中々に珍しい光景だった。
付属の生徒である副部長と、本校の大学生のこの人、半井・ペロリコーン・幸太朗という男は、因縁の中である。
半井はただの大学生。
但し、人狼ゲームでは負け犬と呼ばれたりロリコンと呼ばれたり光り輝くペド野郎とか呼ばれていたり。
要するに、散々な扱いだ。
去勢してやるからはよ死ね犬
人狼なのは最早メタすぎて認めるしかないが、何なんだその罵倒の数々は……ッ!
ギリギリと拳を握って唸る半井。
既に処刑は決まっている。
覆ることがないので抵抗しないが、村人たちは殺す狼のメンタルまで殺しにかかってくる。
占い師だからね
犬を嫌がるのは当然でしょう?
それに発情期だしこのバカ犬
貴様……ッ!
風評被害の傷を抉られて、否定するも意味がない。
そもそもキッカケはこの女だ。
大学まで色々なアリもしない……いや、脚色した事実を曲解も混じえて真澄が広めたせいで、既に大学では半井はロリコンのド変態という認識であった。
悪乗りした友人たちがネタとしてロリコンというので更に悪い。
この間は街を歩いているだけで通報されたぞ!?
どうしてくれるんだ俺の生活は!?
実際ロリコンじゃん
幼女誘拐しようとしてたし
するかっ!!
それはたまたま、初等部に届けものを頼まれていっただけで……何もやましいことはしていない。
友人たちはそれを誘拐の下調べみたいに感じたらしくて、この間職質からの事情聴取された半井。
大体、真澄が悪い。
でも……半井さんがド変態だって、こっちでも有名ですよ?
後輩相手にナンパしたとか、ラブホに連れ込もうとしたとか……
実話ですか?
そんなわけないだろうが!
進行役のGMをやっていた凛にまで言われて本格的に立場のない半井。
味方は誰もいない。
大丈夫、みんなからかってるだけだから
本気で信じてる人はいないよ半井君
いや、こいつは本気で思っている
同い年の御手洗小百合がそうフォローするが、半井は信じない。
真澄のそれは、完全に悪意があると思っている。
敏感に漏れ出す感情を察知して、真澄によく似た女子生徒が牽制する。
真澄を悪く言うのはわたしが許しません
この変態、ぶっ叩きますよ?
双子の姉、阿澄。
真澄の為なら世界だって敵にするダメお姉ちゃんである。
妹魂と書いてシスコンと読むいる人種で、真澄が大好きすぎて、実際何度か問題を起こして生徒会と戦争をしたことがある。
因みに余裕で勝った。
普段は社交性があって明るい女子だが、真澄が関わると狂気じみた言動を始める、そんな奴。
こんな眼鏡死んじゃえばいいのに
っていうか死んじゃえ変態、世界の敵
なぜそこまで言われきゃならんのか……
阿澄は無表情で占い師をする真澄を抱き寄せて、不愉快そうに半井を睨んでいる。
真澄はくすぐったそうにしているが嫌がらない。
この姉妹は割と仲良しだった。
姉の過剰な愛情が無ければ、だが……。
普段のこんなこと言わないのに……
ホント貴方も大変なお姉さん持ったわね
くすぐったいけどね
別に悪い奴じゃないし、馬鹿だけど
ネタを本気だと思っているのは姉貴だけだよ
半井に関しては今すぐ法を裁きを受けさせたいけど
真澄は投票結果により追放される変態を見送りながら呟く。
因みに追放したあとにマジ暴力で叩いているのは阿澄。
トボトボ退場席に行く彼を、厚紙で補強したハリセンで追撃して殴打している。
痛い、痛ッ……
ええい、痛いって言ってるだろうが!
このっ、このっ!!
変態退散ッ!
消え去れ変態ッ!
俺を悪霊みたいに言うな!!
阿澄は蛇蝎のごとく半井が嫌いだ。
妹の敵と女の敵で世界の悪として抹殺したいらしい。
因みに通報していないだけまだマシである。
不機嫌なときは普通に教員を呼んでくる。
仲いいね二人とも
で、天然入ってるこの人はじゃれ合いだと思って助けない。
あれのどこが仲良さそうなのか。
どうするべきか困る参加者もいた。
先輩……止めなくていいんですか?
お兄ちゃんのお友達だし……
あんまり酷いことは言いたくないんですけど……
武田静香という、チンピラにしか見えない兄を持つ常識人の後輩だった。
いつも周りに振り回されていて、影が薄いが凛に続いて貴重でまともな人間枠。
お兄ちゃんは半井さんと仲良いんですけど、変態の噂は大体デマだから気にするなって言ってましたよ?
私も本気では信じていないわ
住吉が言い出したことだし
凛も分かっているのだ。
半井は皆にイジってもそこまで怒らないし、許してくれるという信頼と安心があるからネタにしているだけ。
実際は良い兄貴分であり、愛されている証拠なのだ。
ただまあ……一部の姉妹は本気で嫌がっているが。
姉貴ごーごー!
そのまま追放しちゃえー!
任せて真澄っ!
お姉ちゃん頑張るから!!
スパンスパンと叩かれまくれ、それでも席にたどり着くことができた半井。
然し姉の猛攻は止まらない。
とあっ!!
ぬぉぉ!?
裂帛の気合で放たれる一撃。
阿澄の投擲したハリセンが、良い音をさせて彼の後頭部に直撃。
変態の悪逆、許すまじ
霞と消えよ、エロ眼鏡
決めゼリフを言うようにぼそっと一言。
半井には効果が抜群だった。
先程の一撃で眼鏡が顔から外れて何処かに飛んでいってしまったようだ。
眼鏡、メガネと床を探しているお約束を披露中。
速水、連続プレイは流石に辛いから一回休憩ね
みんなも姉貴がエロ犬追放するから、それまでゆっくりしてて
慣れた手付きで一度休憩をはさむ。
これの前にぶっ通しで一ゲームやっている。
流石に読み合いも疲れるので休憩を取る。
……いつ見ても酷いわねあの二人……
珍獣の戦いを眺めている気分になる。
眼鏡を探す半井を、ハリセンでまだ殴る阿澄。
机の上に、真澄が置いた小さな置物に「おおかみついほうちゅう」とポップな字で記されている。
あそこまでやる必要は……
いいのよ静流さん
あの二人は猫とネズミのアニメみたいにいつもあんなんだから
やめんか貴様ァ! と怒り出す半井の後頭部に阿澄の渾身の一撃が炸裂する。
半井は床に顔面から墜落して俯せになった。
痙攣してるので死んではいまい。
おーっす!
おーい、みんないるかー!?
差し入れもってきたぜー!
そんな中、ガラガラと扉を開いて一人のチンピラがビニール袋を下げて入ってきた。
あっ、お兄ちゃん!
彼に気付いて静香が立ち上がる。
彼が追放される変態の友人にして静香の兄。
ここでの愛称が「ブタさん」こと、武田達也という大学生。
見た目を裏切る実直かつ真面目な人物で部員たちからの人気も高い。
おう、静香もここにいたか
何だ、ゲーム中か?
うん
ジャラジャラアクセサリを鳴らしながらブタさんは妹の頭をなでる。嬉しそうにする静香。
こちらは健全で、且つ仲の良い兄妹。
不健全で爛れているもう一人の兄妹とは大違い。
尚、もうひと組みの双子も似たようなもんである。
あれ、ブタさんじゃん
どうしたん?
真澄がブタさんを見て不思議そうな顔になる。
今日は講義休みで学校にはこないはずなのに。
彼は軽く挨拶して、後ろの光景を苦笑して流しながら、その理由を説明する。
うっす、副部長の嬢ちゃん
近所で豚肉の大安売りしてたから、余ってたキムチの処分がてら買いまくって豚キムチ作ってきたんだわ
んで、二人じゃ食い切れないから差し入れで弁当作ってきた
皆で食ってくれや
ビニールの中身はタッパーに入った白米と豚キムチ。
美味そうな湯気をさせて、食欲を唆る。
こう見えてブタさん、静香と生活して自炊しているので料理の腕も中々。
この量……どれだけ大量に作ったの?
業務用の大安売りは在庫処分だから、買いすぎると食べきれないわよ?
凛の言うとおり、彼の言う近所のスーパーは業務用で量が多い。
いっぺんで買いすぎると軽く死ねる程の量が出来上がる。
ん、まぁ……何とかなるだろ
今頃気が付いたみたいな顔をするブタさん。
確実に何も考えていなかった。
また何も考えずに買ったんだね……
仕方ないなぁお兄ちゃんは……
私が次は買い物付き合うね?
すまん静香……そうしてくれ
意外と抜けているブタさんに妹がしっかりする理由も理解できた。
そうこうしている間に。
ブタさん
一人前計算して食べちゃったけど、もうないの?
既に三つも無くなってるッ!?
相当な量を持ってきていたはずなのに。
既に米入りタッパーが三つない。
空になって真澄の前に重なっていた。
お代わりを要求する、と真顔の真澄に言われて困惑するブタさん。
まぁ……いつものことか……
すすす、と何も言わずに自分の分を彼女に差し出す凛。
ごち、と短くお礼を言ってまた食べ始める真澄。
目を点にしている武田兄妹。
御手洗も何だかんだでバッグの中にタッパーを入れて貰っていくようだし、今すぐ食べないといけないわけでもなさそう。
あぁ、武田さんこんにちは
どうかしましたか?
おう、住吉の嬢ちゃん
今差し入れいれててな
よければ、もってくかい?
既に妹が三つ食ってるけどな
優等生に戻った阿澄にもすすめるブタさん。
阿澄の背後には、ボロ雑巾にされて丁寧に眼鏡まで叩き割られているエロ狼がぶっ倒れていた。
あれは気にしないとして。
こんなにいっぱい……美味しそう!
本当に貰っていいんですか?
おう、味は保証するぜ
もってってくれ
ご馳走様です
差し入れを嬉しそうに受け取る阿澄と、その場で食べまくる真澄。
毎回差し入れがあるとその場で無くなるのは恒例行事なので最早何も言うまい。
……!
……!!
…………!!!
食べ終えたら再開するんだね
わかった
晩ご飯はカレーでいいの?
何かトッピング買っていく?
Ш◎Я!!
■▲→☆!!
子供っぽくないわ
じゃあコーラも買っていこうね
がつがつ食べながらジェスチャーで伝える真澄。
姉にしっかり通じていた。
凛には少なくても理解できないが。
何を言ってるかわかるんだね……
さすがは双子……
テレパシーか何か持ってるの……?
謎コミュニケーションを見ながら、ゲームを再開。
ラストの人狼はちなみに静香で追放された。
尚、このゲームの罰ゲームで半井は「シャイニング・エロリコーン」というもうよく分からないあだ名をつけられてまた広められる羽目になったのだった。