始まりは唐突だった。
選べ。吾奴を消すか、服従させるか――
ごめん、それどっちもやらなくていい?
始まりは唐突だった。
大体な、RPGでももうちょい親切な導入をするぞ。
今の皐矢は、
『序章』
勇者よ、言わなくても事情はわかるだろう。ドラゴンを倒してきてくれ
ウッス
……というぐらい乱暴な展開に置かれている。「ウッス」じゃねえよ。状況もお前のポテンシャルも何もこっちはわかってないんだよ。
皐矢に判断できたのは、母親が幼い皐矢に作ってくれたという形見のタヌキのストラップがいきなりしゃべり始めたということだ。
押したらしゃべる仕掛けだったのか。
はたまたは録音機能がついているのか……いや、このセリフを入れた奴がいるとすれば、確実に中二病だ。決して亡くなった両親ではないことを切に祈る。
皐矢は、
おいお主、聞いとんのか!?
とか、
お主こそが靭代の後継者なのだぞ!?
今立たずしていつ立つというのだ!!
と、勝手に怒りに燃えたり嘆きに暮れたりするタヌキを横目で観察しながら、淡々と制服に着替える。
季節は5月。ゴールデンウィーク空けの今日から夏服に移行してもいいことになっている。
起きがけの空耳アワーが終了したのか、それとも電池が切れたのか、タヌキはいつも通りうんともすんとも言わなくなった。
学校に置きっぱなしにできない、宿題に使った教科書類を突っ込んで一階へ向かう。
さあ、今日も何も起こらないことだけを祈って生きるだけだ。