その後、魚屋、肉屋、本屋……手際よく案内され、きういちゃんの大きなクリップボードはたちまちメモでいっぱいになった。
前回のビギニングアイドル!
何の因果かお笑いパフォーマンスをさせられることになった葉月と私。ところが葉月の思わぬ才能が開花、渾身の演歌歌手モノマネが5人のファンをもぎ取った。もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな……。
さて、最後は玲奈さんの番だよ。
今度こそがっつりファンをいただきたいものだな。
お供していいですか? また玲奈さんとお仕事したいです。
構わんよ。ただ、見てるだけはナシだからな。
はい!
玲奈ちゃんはD66を。
……ん、5と6だ。
ライブシアター仕事表は……「シアターの外で行う仕事をこなす」!?
気分転換にもなるし、うまくやればPRにもなりそうだ。プロデューサー、あてはあるのか?
え!? ちょっと待ってね……。どうしよう、外の仕事にあてなんてないよ……。
陽平さん、わたしたちがどうやってこの建物に来たか覚えてますか?
えっ……確か僕がSolar Systemって名前を决めて、そしたら霧が晴れて、このビルの前にいたんだ。
シアターは何階にありましたか?
僕が地下1階だと言ったら、地下1階にあった。
他の階には何が?
ショッピングモールとか、レストランとか、商業施設があるんじゃないか、と思った。行ってみたことはないけど。
……なら、ね?
……!
すごい……! ビルの中に商店街があったんだ。
郊外型モールと商店街の確執ってよくあるからな。それを乗り越えるための試みらしい。
このように、手に入る素材をなんとか継ぎ合わせて物語の体にするのもTRPGの醍醐味ですね。
なんか思ってたのと違うんだけど……サイコロ様は想像力を使うことを喜ばれるんじゃなかったの?
想像力は身勝手な妄想とは違います。自然の制約、社会の誓約、それらを乗りこなす力こそが想像力。いわば現実と向き合う力なんですよ。
ご高説どうも。で、ここなら何かしらの仕事が見つかると思うんだけど。
まだどんな仕事か判然としませんね。指定特技がランダムなので、决めてみたらいいんじゃないでしょうか?
それもそうだな。
……3、才能。9、気配り……。
またLEDマトリックス拾おうか?
この商店街では売ってないと思うなー。
あ、ちょっとあれ、見てください。
?
エレナが示した先、そこには、小学校中学年くらいと思しき女の子が立っていた。不安そうにあたりを見回している。
何か探してるのかな? 小さい子ひとりは心配だな……。
うっ卯月っ!?
玲奈さん何か……玲奈さん!? って、いない!!
まさか、職場放棄(ドタキャン)!?
そんな! 玲奈さんに限って!
僕は玲奈さんを探すから、うららちゃんはあの子をお願い!
はっはい!
学校の調べ学習?
うん。お店を調べる勉強で、教科書にのってた商店街を調べようと思ったんだけど、近くだとここしかなかったの。
それで、来たはいいけど何したらいいかわからなくなっちゃったんだ。
うん……。
ねえ、お姉ちゃんはアイドルなの?
うん。まだ、なったばかりなんだけどね。
小さいころ仲の良かった友達とね、大きくなったら一緒にアイドルやろうねって約束して。その子は遠くに引っ越しちゃったんだけど、忘れられなくて。
へえ~。あのね、きういの先生も、アイドルみたいでかっこいいんだよ!
きうい?
うん! あたし、卯月 きうい! 先生の名前は――
ピンポンパンポーン♪
卯月 きういさん、八百屋のかねいちまでお越しください。繰り返します。卯月 きういさん、八百屋のかねいちまでお越しください。
どうしてこの子の名前を? 保護者がいるわけでもないのに……。
あれ? よんでる!
きういちゃん、八百屋のかねいちに行くのね? お姉ちゃんもついててあげる。
いいの? でも、アイドルのお仕事は?
それがね、何のお仕事をしたらいいか、わからなくなっちゃったの。おかしいでしょ?
なんだ、あたしたちは似た者同士だね!
だから今のお仕事は、きういちゃんのお供ということで……行きましょ?
うん!
らっしゃい! とれたてほうれん草だよ!
こんにちは!
おや、可愛らしいお客さん。きういちゃんだね。話は聞いてるぜ。調べ学習だろ?
誰から聞いたんだろう?
お嬢さん、下のシアターの娘だろ。子どもを助けるたあ見どころあるじゃねえか。
はい、恐縮です。
八百屋さんのお仕事を教えてください!
おうよ! ついてきな!
その後、魚屋、肉屋、本屋……手際よく案内され、きういちゃんの大きなクリップボードはたちまちメモでいっぱいになった。
どの店も小学生の知識に合わせたかのような回答だった……こんなことができるのは……。
調べ学習しゅーりょー! 先生にもいっぱいほめてもらえる!
うん……よかったね。気をつけて帰って。
うん。今度はお姉ちゃんのシアターにも遊びに行くね。
楽しみに待ってるよ。
ピンポンパンポーン♪
卯月 きういさん、六分儀ゆきのバスは4時18分発車です。気をつけてお帰りください。家に帰るまでが調べ学習です。
……ふう、なんとかやりきった。(2D6→1+5=6成功)
やっぱり、ここにいたんですね。
うらら! いつの間に!
商店街のみなさんに説明して回っていたんですよね?
悪いか。
そんな。私なんかには絶対できないことです。きういちゃん、すごく喜んでました。
そ、そうか、良かったな。
でも、どうして卯月 きういって名前を知ってたんですか?
そっそれは……サイコロに聞いたんだよ! あのプロデューサーがいつもやってるみたいに!
それもそうですね。でも、サイコロに聞くことがもうひとつありますよ。
えっ……。
怪訝そうな顔を見せた玲奈さんの手に、4つのサイコロを押し込む。
さあ、玲奈さんのファンです。
う、うん……。
躊躇いがちにこぼれるサイコロたち。6,6,5,2……合わせて19。
19人も!?
きっと、商店街のみなさんですよ。玲奈さんのことを認めてくれたんです。
そ、そうか……。あのさ、うららはうららで、卯月……きういちゃんのために動いてくれただろ。
はい。
子どもは好きだけど、ああいうのは実はちょっと苦手で……うららを見てて、なんかこんな感じっていうの、見えた気がする。
(玲奈からうららへ理解度+3)
いつかきういちゃんがシアターに来たら、一緒にお迎えしましょうね。
!!……メンタルの調子が……。
?
玲奈さーん! どこー!? ってか、ここどこー!?
いらっしゃいませ! 都会に現れた森林浴バー"Jukai"にようこそ! 当店のご利用は……
何なんだよこのビルー!!
想像力って素晴らしいですね。