僕は、まだ若干所在なさげにしている3人のアイドルを順番に見た。そういえば彼女たちのコンセプトは「太陽系最強アイドル」だった……。
前回のビギニングアイドル!
ストリエという投稿サイトを見ていた僕は、いつのまにか妖精に話しかけられていて、アイドルのプロデューサーにされてしまった! プロデュースするのは、ストリエに投稿されたアイドルのイラストたち。不思議な本とサイコロを使うと、ただの絵だった彼女たちが活動を始めたんだ。でも、ここから先どうしたらいいんだろう?
誰に話してるんです?
ほっといてよ!
あのう……私たちはどうすればいいんでしょうか。
あっすいません今準備します。といっても……何を準備するんだ?
さしあたり、ライブだな。アイドルはライブやってなんぼ。
なんぼって……。
玲奈ちゃんは「近畿地方」出身なので地が出たみたいですね。
こまかい!
何気ない設定から味わい深いロールプレイが生まれることってあるんですよ?
と、とにかく、ライブだね。ってことは、会場をおさえたりしないといけないのか。でもお金もコネもないしなあ。
困ったときは、サイコロ様のお導きですよ。本に会場表というのがありますから、その中から選べばいいんです。
そりゃお手軽だね……どれどれ。ん、「ワールドセッティング」? そういうものも選べるのか……「弱小芸能プロダクション」、「アイドル部」……あ、これは……。
どうしましたか?
ねえ、この「ライブシアター」ってどんなの?
秋葉原駅の隣にあるやつを想像してもらえれば大体あってます。
ああ、赤い彗星プッタネスカとか出る――
座標がずれてる! まあいいです。大雑把に言えば、アイドルを売りにした劇場なんですが、本ではもっと概念を広げて、アイドルのテーマパークのようなものとして描かれています。
なるほど……これにしよう。
なんでですか?
だってストリエには沢山のアイドルが投稿されてるんだろ? この3人だけじゃない、みんなに居場所が出来ると思うんだ。ライブシアターなら。
素敵です!
異議なしだ。
賛成(葉月,ライブシアター).
最後のやつがよくわからんが……そういうことで、エレナ、頼むよ。
了解です! それではシアターの名前をどうぞ。
これもサイコロで決めるの?
サイコロ様は迷える子羊を導いてくださいますが、持てる想像力を使うことをより喜ばれます。
折角だし自分で決めるか……。
僕は、まだ若干所在なさげにしている3人のアイドルを順番に見た。そういえば彼女たちのコンセプトは「太陽系最強アイドル」だった……。
Solar System.
そーらーしすてむ……ですか?
うん、太陽系。星の集まりをstar systemといって、これは映画の用語にもなってるんだけど、もっと身近で暖かく感じられる太陽がいいんじゃないかなって。
わかりました!(わかってないけど)ライブシアターSolar System、オープンです!
霧が晴れるように景色が変わる。そこには、陽光を受けて輝くビルが聳え立っていた。
この建物の中にあるみたいですね。
何階あたりかな?
それは陽平さん次第ですよ。
じゃあ地下1階で。上の階にはショッピングモールとか、レストランとか、商業施設が入ってるんだろうね。そのうちお世話になるかな。
入ってみましょう!
入り口の脇にあった階段を降りると、ホールのような場所に出た。これがライブシアターのロビーなのだろう。
なんだか豪勢だな。
お城みたい……!
前に入ってたテナントが遺していった内装をうまく利用したみたいですね。
何その大人の事情。
このライブシアターは生まれたばかりで「プロダクションレベル」も2ですから。財力もコネもそんなにないんですよ。
「プロダクションレベル」?
プロデューサーが所属する組織にもレベルがあります。ライブが成功するとレベルが上って色々いいことがありますけど、失敗するとレベルが下がって、ゼロになると組織は解散です。
ってことは、もしこのシアターのレベルがゼロになったら……。
ここも引き払うことになるでしょうね。
私たちはどうなるんですか?
アイドルにはプロダクションとは別に「チャンス」というものが与えられています。ファンを増やしていけばチャンスも増えますが、ライブを行った数がチャンスの数に追いついてしまうと引退することになります。
私たちのチャンスは今いくつなんだ?
みなさんは生まれたばかりの「アイドル候補」なので、チャンスは2あります。
責任重大だな……。
などと心に不安がたれこめて来たところ、不意に誰かに声をかけられた。
Solar Systemへようこそ! なんだか浮かない顔をしてらっしゃいますね……私たちのライブで元気注入されてってくださいね!
わあ! 誰!?
緋色のポニーテールがまぶしい、元気そうな女の子だ。ストリエのイラストで見たことがあるような気がする。
この子もプロデュースするの? 選んだ覚えがないけど。
いえ、そんなはずは……あ、もしかして、近森 鈴ちゃん?
知っておるのかエレナ!?
エレナは僕の手から本をひったくると、ちょうどライブシアターの説明が書かれているページを開いた。確かに、トップアイドルとして近森 鈴という名がある。太陽のような笑顔で周囲を引っ張るリーダー格の少女だという。
この世界の鈴ちゃんは、この姿だったんですね。
そうか、世界によって違うんだ。
そういえば、あの子はコンテストの応募作品ではなく、審査員の描いた作例という位置づけだった。作品名も「トップアイドル」だったような気がする。それでこの世界のトップアイドルになって現れたのだろうか。
あれ? そこに並んでいるのは……新しいアイドルさんたちかな?
あっ、はい、小松 うららです。
天王寺 玲奈だ。
中川 葉月です。アンドロイドなのは秘密ですよ?
自分から言ってどうする。
それで、あなたは新しいプロデューサーさん。でしょ?
お、おう……吉田 陽平です。どうも。
陽平さんだね! ここもまだオープンしたばかりだし、仲間が増えて心強いよ!
あ、さっき妖精さんも言ってたけど、私は近森 鈴。一応ここのリーダーってことになってるけど、そんなかしこまらなくていいから、気楽にね!
よ……よろしくお願いします。
衣装合わせがあるから、またね、と鈴は去っていった。
衣装か……そういうものも考えなきゃいけないのか?
今の私たちの衣装はユニークです。ライブではユニフィケーションが必要ですね。
可愛いお洋服がいいなあ……。
私はそういうの、ちょっと苦手だけどな。
衣装は後で用意することになりますが、今は協力者を見つけるほうが先です。
協力者? さっきの鈴ちゃんに協力してもらうとか?
そういうこともあるんですが……ああっ大変! みなさん、「気配り」で判定してください!
!?