Special thanks!
すずろ 様
「罵倒天使と醜い僕の   
       異世界旅日記」


 お話の途中でしたが、「罵倒天使」完結記念ということで少し書かせていただきました。ラファエル様だけ許可を頂いていたのですが、調子に乗って拓雄も出してしまいました。あの会話のテンポ感や挿絵の使い方は私には中々真似出来ていないのですが……。
 もし今まで私の作品を読んでいた方で「罵倒天使」は未読だという方がいれば、是非其方も読んでみてください! ちなみに私はラファエル様に罵倒されたい派です!

「罵倒天使」へはこちらをクリック!

茂木拓雄

いやー、凄かったですね、ラファエル様

ラファエル

ええ、主に貴方の感情の出し方の気持ち悪さといったら凄いなんて形容詞で収まるものじゃないわ。空腹で死にかけの豚に餌をやったらあんなふうになるのかしらね

茂木拓雄

僕死にかけの豚!? っていうか、僕感動で泣いてただけなんですけど!?

ラファエル

ブヒブヒと泣くなんて、流石豚ね

 まるで美女と野獣、という形容詞の似合う組み合わせだった。というか、傍から見れば、センスの欠片もない服装に、お世辞にも整っている顔立ちとは言い難い男と、少し不思議な雰囲気を纏った美女。場所が場所ならば援助交際を疑われるレベルだ。

茂木拓雄

ラファエル様、晩ご飯は何が良いですか?

ラファエル

そうね、豚以外が良いわ。見飽きてるから

 映画を観た帰り道、そう言ってスタスタと歩いていくラファエルを追いかけるように拓雄は足を速めた。最早どんな返答にも罵倒を混ぜるラファエルに、拓雄はすっかり慣れてしまっている。「豚肉以外ですね」と何事もなかったかのように返すと、ラファエルは少し不機嫌そうに眉を少し動かした。

茂木拓雄

どうかなさったんですか?

ラファエル

サンドバックが殴っても一切動かなかったらどう?

茂木拓雄

え……? い、いや、パンチした時にそのままってことですよね、それはサンドバックとして間違いでは……

ラファエル

そういうことよ

茂木拓雄

どういうこと!?

 拓雄の反応に、漸く満足したのかラファエルは数歩歩くと、丁度人の姿が途切れた路地にすっと身を移す。

ラファエル

にゃ(疲れたわ、先に帰るわね)

茂木拓雄

もうちょっとデート気分にさせてくれてもいいのに……

ラファエル

にゃ(気色の悪い事言ってると噛み殺すわよ)

茂木拓雄

ひぃぃっ! すみません! っていうか、口に出しては無いのに!

 黒猫へと姿を変えたラファエルは身軽そうに塀の上に上がると、そのまま細い道を通って先に帰ってしまった。ラファエルが人間では無い事はその様を見れば明らかだろう。彼女の正体は癒しを司る四大天使、ラファエルその人なのだ。
 どうせラファエルは近所をうろうろしてから帰るのだろうし、なんだかんだで買い物を済ませた頃には近くで待っていてくれるに違いない。拓雄は溜息を一つし、近所のスーパーへと足を運んだ。

 

ラファエル

にゃ(ちょっと懐かしいわね、この道も)

 住宅街を一人歩くラファエルは、辺りを見回して呟いた。そういえばこんなところで事故に遭ったこともあったな、なんて。
 元々あまり人気の無いこの場所は、時間帯のせいでより人気が無くなっている。静かな道は、どことなく心を落ち着かせてくれる。
 ふと、エンジン音が遠くから聞こえてくる。危ないと思ってラファエルが道の端に移ると、何故かバイクはラファエルの傍で止まった。

駿河恵司

っとと、こいつじゃねぇや。人違い、ならぬ猫違いだな

 バイクから降り、ヘルメットを取った青年は頭を掻き、どうしたものかと黒猫――ラファエルを見る。どうやら青年が猫を探しているらしいという事はラファエルにもすぐ理解出来た。

ラファエル

にゃ(飼い猫でもいなくなったのかしら)

 返答を求めるでもなく、ラファエルがぽつりと言う。ラファエルの言葉は青年にはただの猫の鳴き声としか通じず、青年は何も言わず再びヘルメットを手に取った。と、青年の動きがピタリと止まる。何事かとラファエルが青年を見ると、彼の隣にふわふわと浮かぶ人影。

砂尾空

おい恵司、あの猫、レアだぞ、普通に話せそうだ

駿河恵司

レア? 何言ってんだお前

砂尾空

なぁ猫、この辺でお前にそっくりな白猫を見てないか?

ラファエル

にゃ(初対面の相手に向かって中々失礼ね。もう少し礼儀のある聞き方をしたらどう?)

砂尾空

ふむ……やはりただの猫ではなさそうだな……。失礼した、私は砂尾空という。しがない浮遊霊だ

 幽霊――空にはラファエルの言葉が通じるらしい。しかしそれにしても異世界ではなく地球で幽霊に出会うなど、ラファエルは想像もしていなかった。

ラファエル

にゃ(まぁいいわ。私は四大天使が一人、ラファエル。白猫なら見てないわよ)

砂尾空

成程天使ときたか。恵司、レアどころじゃなかったぞこの猫様は

 恵司と呼ばれた青年の肩の辺りをばんばんと叩こうとする空。しかし、それは動作だけで、彼女の手は恵司に当たることはない。
 ラファエルの言葉が分からない恵司は完全に頭にハテナを浮かべたままだが、ヘルメットを戻し、しゃがみ込んでラファエルの顔をまじまじと見ると首を傾げていった。

駿河恵司

……よく分からんが、探せって言われてるシロちゃんじゃないんだろ? 毛並みが綺麗なとこみると野良って訳じゃないだろうし、迷子か?

ラファエル

にゃ(帰宅中よ)

砂尾空

帰宅中だそうだ

駿河恵司

何でお前言葉通じてんの……

砂尾空

私は幽霊だからな。心が見えるのだよ心が

ラファエル

にゃ(幽霊がそんなこと出来るなんて初耳よ。貴方の能力じゃない?)

砂尾空

なんだと……? だが、他の幽霊にはあったことが無いからな……流石天使、分かるのか

ラファエル

にゃ(勘よ)

 猫と幽霊が喋っている傍で、恵司は少し項垂れた。空の言う通りこの猫が天使だとすれば、最早幽霊にも出会ってしまっている彼は今まで二十数年間生きてきた常識を捨てざるを得ない。

茂木拓雄

あっ、ラファエル様! こんなところにいらっしゃったんですね!

ラファエル

にゃ(あら拓、買い物は済んだのね)

茂木拓雄

ええ、今日はお魚が……って、どなたですか、この人は?

 拓雄の苦手な、顔面偏差値の高そうな青年。顔立ちだけじゃない。スタイルも中々だし、しかもバイク乗りときた。これは相当女にモテるに違いない。性格に問題が無い限り、かなりモテるタイプだ。拓雄に気付いた青年はゆっくり立ち上がると、「この猫、貴方のだったんですね」と笑いかけた。その顔もイケメンだった。

ラファエル

にゃ(もしかして出会ったのがこんな豚じゃなくて彼だったらまた違ったかもしれないわね)

茂木拓雄

やっぱりラファエル様もイケメン派なんですか!?

 何を言われているんだと恵司が空の方を向くと、空は後ろからすっと恵司の首に腕を回し、耳元にキスをする。しかし、その唇が彼に触れることはない。

砂尾空

何、天使様も女性という事だ

駿河恵司

何の話なのか殊更気になるわ!

 今度困惑するのは拓雄の方である。空の姿が見えない拓雄はラファエルを見て尋ねる。

茂木拓雄

ラファエル様、このイケメンは少しおかしい方なんですか?

ラファエル

にゃ(おかしいのは貴方の方だから安心なさい。そもそも貴方が平然と生きてる事すらおかしいのだから)

茂木拓雄

完全否定!

ラファエル

にゃ(そうだ、貴方白猫を見てない? 探してるそうよ)

茂木拓雄

猫ですか? 見てないですけど……

ラファエル

にゃ(流石役立たずね)

 肩を落とす拓雄に、何となく彼も猫の所在を考えてくれたのだろうと察した恵司は「すみません、ありがとうございます」と小さく頭を下げる。
 ラファエルはきょろきょろと辺りを見渡すと、やれやれと恵司のバイクに飛び上がった。

ラファエル

出会ったのも何かの縁ね。白猫探し、手伝ってあげるわ

 小さな音と共に不機嫌そうに足を組み、バイクに座っているのは一人の女性。黒猫ではない。その様に驚くのは恵司だった。

駿河恵司

は!? ど、どこから!?

砂尾空

だから言ったろう、猫様は天使なのだと言っていたじゃないか

茂木拓雄

ラファエル様!?

ラファエル

いいのよ、彼らには隠す意味もないわ

茂木拓雄

彼……ら?

ラファエル

彼の肩の所の女性が見えないのね

茂木拓雄

そ、それって、まさか幽霊!?

駿河恵司

貴方……こいつが見えるんですか?

ラファエル

まぁね。ほら、猫を探しているのでしょう? 少しだけ手伝ってあげるわ

 ラファエルが祈りを捧げるように頭を小さく下げると、一瞬暗闇の住宅街が光に照らされる。その光景に神々しさを感じつつも戸惑う恵司に、ゆっくりと目を開いたラファエルは訝しげな視線を送った。

ラファエル

……白猫なら、少し離れた場所にいる。丁度電話ボックスの隣辺りに座り込んでいたわ

駿河恵司

本当ですか、ありがとうございま――

ラファエル

そんな事より、どういうことかしら

駿河恵司

え?

ラファエル

貴方と同じ顔の人間が居るわね、彼は何者なの?

駿河恵司

同じ顔の人間って……音耶の事ですか?

ラファエル

名前なんてどうだっていいわ。彼は何者かと尋ねているの

茂木拓雄

ら、ラファエル様?

 尋常ではないラファエルの様子に、拓雄は慌てて止めに入る。しかし、ラファエルは聞かない。当の恵司も黙り込んだまま、顔を俯かせてしまった。

砂尾空

天使様、要らぬ世話だ。それとも貴方は、彼に天罰を落とそうとでもお考えか?

 そこに口を開いたのは空だった。空の言葉を聞いたラファエルは、空を不思議そうに見やった後、成程と息をつく。

ラファエル

随分と、拓がマシな豚に見えるわ。豚は豚でも、無害だもの

茂木拓雄

何で急に僕の話が!?

ラファエル

まぁいいわ、見なかったことにしましょう。帰るわよ、拓

茂木拓雄

は、はい!?

 足早に去っていくラファエルと、その背を小走りで追いかける拓雄。二人の背を見送りながら、恵司はバイクに跨った。

砂尾空

やはり天使様にはお見通しのようだぞ

駿河恵司

人間にはばれちゃいない。あいつは捕まっちゃいないんだ

砂尾空

お前がそれでいいのなら。私は外に何かを伝える手段を持たないからな

駿河恵司

悪い事だってのは分かってる。でも、悪いのはあいつじゃなくて、俺なんだよ

砂尾空

それは――

 空が何か言おうとしたのと同時に、恵司はヘルメットを被り、バイクを走らせる。その場に残された空は、歩くようなスピードで漂いながら、恵司の後を追いかけた。

 

茂木拓雄

どうかしたんですか、ラファエル様

ラファエル

どうもしないわ、しいて言えば貴方が傍に居ることによって気分が悪くなったくらいかしら。貴方の息は公害レベルね

 家に戻ってきてからも少し不機嫌そうなラファエルは、頬杖をついて窓の外を眺めている。そんなラファエルを心配そうに見る拓雄は先程出会った青年の事を思い返す。

茂木拓雄

何かおかしいことと言えば、変なところに向かって話してる事があったくらいでラファエル様が嫌な顔する理由は分からないんだよなぁ……

茂木拓雄

まさか、ラファエル様は僕とお付き合いしてくれている位だし、ブス専とかって奴――

ラファエル

捻り潰すわよ

茂木拓雄

すみませんっ!

 何も言っていないけれど、やはり心でも読まれたのだろうかと萎縮する拓雄。そうしてまた黙り込んだラファエルに、恐る恐る気になることを尋ねてみる。

茂木拓雄

あ、あのー。やっぱりラファエル様もああいうタイプが実は好きだったりするんですか?

ラファエル

そうね……

茂木拓雄

やっぱり!

ラファエル

……あんなに血の匂いがしなければ、好きになれるかもね

茂木拓雄

へ!? 血!?

ラファエル

ああ、貴方はドブ川の匂いがするわよ。でも……あの血の匂いよりかは幾分マシだわ

茂木拓雄

ら、ラファエル、様……?

 珍しく罵倒が罵倒として機能せず、自分の方がマシだなどという言葉がラファエルの口から出たことに驚く拓雄。ラファエルはそんなことを微塵も気にせず、ゆっくりと目を伏せた。

ラファエル

拓と出会ったのは、やっぱり良い運命だったみたいね。認めたくはない事だけれど

あとがき

 すみません! シリアスっぽくなっちゃいました!
 コメディも考えてはみたのですがやっぱりラファエル様は四大天使という事でうちの双子とは相性が良くないのではないかなと……結果このような形に……。
 中々書いていて罵倒語が思いつかず罵倒天使であるラファエル様の魅力が十分にお伝えできなかったこと、大変申し訳ありません。でもすずろさんが描かれるラファエル様は本当に素敵なんです。私じゃ伝えきれないんです。だから読んで下さい(懇願)
 今回はすずろさんの厚意で許可を頂けましたのでこのような形でクロスオーバーというかコラボレーションというかさせていただきました。すごく楽しかったです。やっぱり魅力的なキャラクターをお借りできるっていいですね。本当楽しいです。
 実はまなべべさんからも許可を頂いていますので、いつか「相続遺産ヴァンパイア」とコラボさせて頂こうかななんてことを思っております。もしその他の方で「うちの作品書かせてやってもいいけど?」という方がいらっしゃいましたらストリエでもTwitterの方でも声を掛けて頂けると嬉しいです!
 それでは、ありがとうございました!
 

特別編 罵倒天使と猫探し

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