なぁ、北鎌倉

はい、何でしょう普様

当たり前の様にどうしてここにあんたと七星がいるんだ？

ご都合主義、という奴で御座います。後から種村弁護士も参りますわ

何で！

まぁ落着けアマネ。吸血鬼を割とすんなり受け入れたお前なら、こんなの造作もないだろう

いやいやいやおかしいだろ！　それとこれとはタイプが違うしそもそも何でご都合主義が発生してるんだよ！　日常生活でご都合主義が発生せざるを得ない状況ってどういう事だよ！

落着け青年。短気は損気というぞ

まぁ、落ち着かなきゃいけないのはわかるけど――

ってアンタ誰だよ！

おお！　私の事が見えるのか！　流石澁澤普とやらだ！

何で俺の名前知ってんの！？

それは私から説明しますわ、お兄様

な、七星？

この方は私達の仲間ですの。とても素晴らしい「双子萌え」を提供して下さるサークルの砂尾空様ですわ

私は彼女らから「おじさん受け」の素晴らしさを教わったがな……。いやぁ、そのモデルの本人に出会えて私は嬉しいよ

テメーら人をモデルに妙なもん書きやがってたのか！！！

あら、「妙なもん」とは失礼な。「性書」と呼んで下さいませ

字が不穏なんだよ変換ミスだと言ってくれ！

仕様ですわ

チクショウ！

ふむ……にしても、あの素敵吸血鬼紳士にモデルはいるのか？　やはり素敵紳士なのだろう？

お呼びかな

ちょっ、いいのかお前！？

お噂の通りの素敵紳士だ……。これはコスプレか？

モノホンという奴だ、幽霊のお嬢さんよ

成程、世の中にはヴァンパイアというのもいるのだな。つい先日天使を見たが、意外と世界は異世界情緒溢れているものだなぁ

ゆ、幽霊！？

ん？　気付いていなかったのか？　どこからどう見ても私は幽霊だろう。だから壁を抜けてこの家に何ら躊躇もなく入って来れたのだぞ？

躊躇の有無は幽霊かどうか関係ないだろ！

ふむ……難儀そうなツッコミ属性だな。私の周りにはいないタイプだ

それはそうと、空様は本日あの「件の双子」をお連れになるとお聞きしたのですが……

ああ、そうだったな。アマ×ジルを生で窺えたのだ、私も何もしないという訳にはいくまい

もうそこには何もツッコむまいとして……双子？

ええ。空様が描く「双子萌え」にはモデルがおりますの。本日はその方々を呼んで貰ったのですわ

天然物の萌えとは、本当に尊いもので御座います。空様は文字書き故、容姿の描写こそあれど結局は我々のイメージ……。どのようなお方なのか、私、既に興奮してしまいました

いやぁ、でも現実でそんな綺麗な双子なんているわけないし、どうせ美化されてんじゃ……

シャラップ！

うわぁ！？

外見の美しさはもちろん重要かもしれません。ですが、大事なのは中身、ハートですわ。そこに萌えがあるならば、それ即ち正義なのです

何言ってんだコイツ……

まぁ、悪い奴らじゃないから安心してくれ。それに、もしかすれば意外と知人かもしれんぞ？

いや、それはそれで困るような……

おお、いいタイミングだな

それでは、僭越ながら私が

顔は正直だなオイ……

ふむ……恵司の方は来てくれるにしろ、音耶の方はどうだろうな

その二人は忙しいのか？

音耶――弟の方は警察官でな。忙しいから仕事の合間で来てくれるよう言ったのだが……

まぁ、見世物扱いで呼ばれるようなものだろうしなぁ……

恵司の方はどうせ暇だし私の言葉なら大概聞いてくれるからな。あいつは半ばニートみたいなものだから

アマネと同じようなものか？

まぁそうだな

お、お邪魔しまーす

ったく……空の我儘にもほとほと呆れるな

わっ、本当にそっくりな双子……ん？

……あれ？　もしかして

久しぶり！　オフ会以来じゃん！　

あー！　まさかこんなとこで会うとは！

恵司、知り合いか？

アマネ、彼は？

ああ、彼はネトゲ友達だよ。前に一回オフ会した時に意気投合してさ

そうそう。俺が前衛で、サポートしてもらって殴りに行く感じでさー

なんと……クロスオーバーで新カップリングが

そういう目で見んな！　てか音も無く戻ってきやがって！

ふむ。それじゃあ改めて紹介しよう。私服の方が私のダーリンで兄の恵司、スーツの方が弟の音耶だ

あっ、どうも……俺、澁澤普っていいます

お初にお目に掛かります。私は澁澤家の執事、北鎌倉と申します。此方は七星お嬢様です

よ、よろしくお願いしますわ

お前ら……顔が赤いままだぞ

仕方ないではないですか！　これ程までに萌えを刺激される事など無いのですよ！

…………

音耶さん、もうかなり不機嫌そうな顔なんですけど……

この空気、私も自己紹介すべきかな。ジルだ、よろしく

そしてこの方があの吸血鬼だ

吸血鬼！？

彼女が幽霊なのだから、そんなに驚くことでもないだろう

そ、そう言われればそうなような……

っていうか、恵司は双子だったんだな？

そうそう。でもさー、そっくりな双子がいるんだぜっていうのも嘘っぽくてさ。なー音耶ー？

まぁな……。実際、親でも見分けがつかないレベルだからな俺らは。って、お前彼には言わなかったのか？

だって信じてくれるか怪しいじゃん。アルコール入ってたしあん時

成程、これは萌えですね

20代の男の双子が仲良さそうに話しているというだけでおいしいだろう？

確かに……ちなみに空様は両方お書きになっていますが、どちら派ですの？

弟×兄派だ

何やってんのそこ！

アマネ、彼女達は何を話しているんだ？　オトアニだのアニオトだのと

聞かんでいいし、知らんでいい言葉だと思うぞそれは

そうですわ、私今日のために用意してきたものがありますの！　北鎌倉！

はっ、承知いたしました、お嬢様

用意？

ああ、ちゃんと覚えていてくれたのか

海外から取り寄せました、ウィスキーボンボンで御座います。どうぞ、お召し上がりになってください

へぇ、中々洒落てますね

ですが、私は勤務中なので――

大した度数ではありませんし、来られているという事は休憩中なのでしょう？　少しくらい大丈夫ですわ。おじさまもどうぞ

すまないね。アマネも貰うといい

あ、ああ

どうして急に？　何か裏があるような……

音耶も流石にこれくらいなら平気じゃないのか？

まぁ、菓子なら平気だと思うが……

あれ？　恵司は酒強いんじゃなかったか？

俺はね。こいつは父親似でクッソ弱いの

うるせぇぞ

ま、無理すんなよ。お前酔うと面倒だし

仕事中に菓子一個で酔ってたまるかよ……

……ん？

どした、ジル？

これ、特注だろう。かなりアルコール入ってるんじゃ――

おじさま！

は？　マジで？

…………恵司

……お前、もう食っちまった？

ああ……大したこと無いな

せ、セーフか？

いや、こいつパッと見は分かりにくいんだよ……音耶、俺のことどう思う？

愛してる

泥酔だ！

何その判別方法！

音耶はブラコンを拗らせた阿呆でな……。実を言えば私が書いている原稿の殆どは事実だ。恵司と音耶が両想いという点を覗いては大体私が見聞きしたものだからな

お前俺らのプライバシーなんだと思ってんの？

そうだぞ空、恵司が俺のことを愛してるのはフィクションではなく事実だと言え！

音耶、お口チャックな

何ということ……！　どう見てもクールキャラだった音耶様が……

やっぱ流石の七星も落胆したんじゃ――

これこそ萌えですわ！

若干分かりきってたけども！

想像以上ですわ……。空様から「怪しまれぬようアルコールを摂取させられる何かを用意すると楽しくなるぞ」と聞いてはおりましたが……ここまでとは

原作の再現……いえ、原作の原作なのですわね！

アマネ、また誰か来たぞ？

えーっと……このタイミング、まさか！

邪魔するぜ、ジル

おお、聖か。そう言えば先程後から来ると話が出ていたな

何、ここに来りゃ中々いい男が見られるって聞いてね

これ以上無いくらい怪しそうな人来たんだが……

安心するといい。彼は私の元恋人だ

なん……だと……？

確かに、綺麗な顔の兄ちゃんだな。そのたれ目加減は俺の若い頃に似てるぞ

そう言われればそのような気もする。まぁ、昔のお前の方が可愛かったがな

おい、俺の恵司に色目使うなエロ親父

おっと、同じ顔……成程双子か。それにしても、嫌われたもんだな初対面で

恵司はガードが緩いからな。お前みたいな奴は毒だ。ほら恵司、俺が守ってやるから

いや落着け音耶――やめて！　ナチュラルに俺を抱きかかえようとすんの止めて！　俺自分で言うのもアレだけど細身だから持ち上がっちゃうって！

成程……どっちも好みだな……いや、両方侍らせてみたいというのが本音だが

今日は新たなカップリング開拓が大変多く……

お願いだから黙って北鎌倉！

いやぁ私も良いものを見せてもらっているよ。美形ならナマモノも全然アリだと思うのだよ私は

その通りですわね……素晴らしいですわ

音耶！？　ストップ！　お前仕事あんだろ！？　落着け！？

安心しろ恵司、俺は仕事とお前だったら確実にお前を取る

そういう話じゃねぇっての！　……仕方ねぇ。普！　度数の強い酒は無いか！？

えっ！？　あ、あるけど……

急いで持ってきてくれもうこうなったら最後の手段を使う！

あ、ああ！

ほう……アレをやるのか恵司よ。人前だぞ

人前でこれ以上醜態晒すよりマシだわ！　いい加減下ろせ音耶！

お熱いねぇ、あそこまで愛されるとは中々幸せもんだぞ

黙ってろクソ親父、野郎を殺るのは不本意だが、お望みなら――

わーわーわー！　お前本当酒飲むと駄目な！　まだか普！

悪い、これでいいか！？

構わん、助かる！　音耶、こっち向け！

ん？

おや、自分で飲むのか？

いえ、口に含んでいるだけのようですわ……

こ、これは、壁ドン！

先程までの弟×兄が一転、兄×弟ですって……？

け、恵司！？

からの顎クイ！　これはどんな相手でも一瞬で落とす最強コンボ！

ま、まさか、この流れは！

き、き、き、キスですわっ！　北鎌倉！　カメラ！

お任せくださいませ、お嬢様！

はぁ……はぁ……色々失ったが……これで……

け、恵司……あ、あれ……

っとと。……よし、寝たな

見せつけてくれるねぇ、やっぱりそういう関係なのか？

んなわけあるか！　……口移しで酒飲ませて落としただけです！

そ、そっか……俺は信じてた友人までそういうアレなのかと……

俺ヘテロだから！　なぁ空！

別に私はお前が男と恋愛するなら奨励するが？

ふむ、夜子と同じタイプのお嬢さんのようだな

男の恋人が欲しくなったら、俺今フリーだからさ

俺は一途ですから！

いやぁ……いいものを見せてもらいましたわ

ええ……ありがとうございます、空様

いやいや此方こそ。音耶の泥酔なんてこっそり覗き見しか出来なかったからな。堂々と見れたのは久しぶりだ

となると……初めてではないという事ですか！

無論だ。しかも都合のいい事に音耶の方は酔うと記憶が無くなるのだよ。おかげで人から言われない限り自制しないから助かる助かる

止めろよ！

大変だな……恵司……

いや……お互い様じゃないか……

ところで空様、よければ今日はお泊りになられては？　我々も夜明かし語りたく存じますわ

おお、それはいい！　私も久々にじっくりと語りたくてな

それがいいですわ！　ええ、そうしましょう！

いい加減にしろ！