小さな頃、アサヒは本が大好きだった。難しい本ではなく挿絵がいっぱいに入った絵本。その薄い本の中に詰まった夢のような冒険に憧れていた。
ねえお母さん、えほん、読んで?
小さな頃、アサヒは本が大好きだった。難しい本ではなく挿絵がいっぱいに入った絵本。その薄い本の中に詰まった夢のような冒険に憧れていた。
お母さん、魔物は悪い人なの?
本に出てくる魔物は殆どが人に悪いことをする。しかし、アサヒは知っていた。街にも、街の外にも、優しい魔物はいるということを。街ではペットとして飼われている小さな魔物がいる。街の外には森や川を綺麗にする良い魔物だっている。その事実と絵本の中の物語は幼いながらもアサヒにとって疑問を抱かずにはいられなかった。
魔物には良い魔物と悪い魔物がいるのよ
母の声が頭上から聞こえる。この頃の母の顔をアサヒは思い出せない。ふわふわとした感覚の中で、アサヒは自分が一番気になっていたことを問う。
ねえ、じゃあ、なんで良い魔物と悪い魔物がいるのに、魔物の王様の魔王は悪い人として本に出てくるの?
それは子供の純粋な疑問であった。
――そして、物語は紡がれる。