神 斬
髪 切 り屋

序の巻 白朱
3.初斬(ういざん)1

白狐 

朱右よ、よく我の試練に耐え、よくぞこの限られた期間に、魂(みたま)の力をつけたのぉ

朱右の右手から出ている刀の大きさが子供が
使うには少し大きいぐらいになっている。

朱右

最初、つまようじぐらいの大きさの刀だったから一寸法師かと思ったよ。やっと大きな刀になってよかった

朱右

本当にいろいろ大変だったよ
白狐さんは呪の呪文で石を飛ばしてぶつけてくるのに、精神を集中しろとか
刀の太刀筋がどうとか・・・

朱右

さらに、夏休みが終わっても、宿題はできてなくて先生には、めちゃくちゃ怒られるし、友達とも全然遊べなかったし・・・

白狐 

すまぬ、すまぬ、ただ黒髪に敗れれば
それすら普通にできぬようになるであろうからのぉ

朱右

あっ!それなら宿題しなくてよくなってたかもだよね

白狐 

朱右よ、今、我にはそなたの後ろに
うっすら、黒髪がみえたぞぇ 本当に危機感の無い奴じゃ

朱右

白狐さんごめんなさい

白狐 

まあ、戯言(ざれごと)はこのぐらいにしておいてじゃのぉ

白狐 

明日の夜は満月じゃ、いよいよ黒髪が復活する

白狐 

最後に、教えておかねばならぬ事がある

白狐 

朱右よ、黒髪が復活する時に、普通に流れておる、時が止まる

白狐 

普通の人間では、その時が止まりし時には動けぬのじゃが
魂の力を鍛錬した、今のそなたなら動けよう

白狐 

時が止まりしとき、そなたは魂の力を使うのじゃぞ

白狐 

時が止まる時、それが戦いがはじまる合図じゃ

朱右

白狐さんわかったよ

白狐 

それとのぉ、鍛錬しておるときに何度も言ったがのぉ
安定して刀を出せるようになったが、黒髪はそなたの右目しか見えぬ、しかも左目はつぶった状態で戦う訳じゃから左側からの視力は無いものと思え、左側からの攻撃は、そなたにとって死に直結する
故に、我が授けし策を、もう一度よく思い出しておくんじゃ

朱右

うん、がんばってやってみるよ

白狐 

今夜は明日に備えて、よく眠り体力を回復しておくのじゃぞ

白狐 

明日の夜、時が止まりし時、そなたの家から正南(まみなみ)の森の社まで走ってくるのじゃぞ

朱右

白狐さん、わかりました

次の日の夜、満月が、頭上の一番高き所に輝きし時
時の流れが止まった

朱右の体は動かない、右目に精神を集中し魂の力を発動した

動けなかった体が、嘘のように、普通に動く

家を飛び出し、正南の森の社に駆け出した
時が止まっているからだろうか
自らが走る足音以外の音は聞こえない。

走りながら、白狐が黒髪を封じた大岩の辺りを
左目をつぶり、さらに、右目に精神を集中した
状態で見ると、信じられないほどの黒髪が
大岩の上空に舞っているのが見えた。

朱右は神社の鳥居をくぐり社の前に立ち
真南の方向の高山の上にある
清の峯立岩を見る

朱右

白狐さんいる?

朱右が声をかけると同時に
清の峯立岩より、大量の白髪(しらかみ)
社の鳥居の真ん中をくぐり、舞い降りる

朱右の頭上をとおりすぎた白髪は
社の前で、現人神(あらひとがみ)の形を成す

白狐 

朱右ここにおるぞ

朱右は振り返って社の方向を見た

朱右

白狐さん、封印の大岩の上にすごい量の黒髪が

白狐 

わかっておる

白狐 

我が大昔戦った時と同等、いやそれ以上の黒髪の量じゃ

白狐 

朱右よ、よく聞け、刀の状態は、そなたの心の状態と直結しておる、常に、平常を保ち、刀の力を安定させて戦うのじゃ

白狐が五芒星を指で描き、呪を唱える

白狐 

きお、なかたさかめはそいくわっひ、なンすめそいのまなぁしねちく、このすえ

白狐の呪の詩が社にこだまする。

朱右の体のまわりに、白き力が集まり、装束の形をなす。

白狐 

その白き装束が黒髪の攻撃を少しは弱めてくれよう
そなたは、向かってくる黒髪を刀で切って弱らせるのじゃ
それ以外は考えなくてもよい

白狐 

あとは、我がなんとかする、右目しか黒髪がみえぬことを忘れずに戦うのじゃぞ

白狐 

黒髪がくる

白狐が五芒星を指で描き、再び呪を唱える

白狐 

きお、なかたさかめはそいく、わヒふ
とけらけめ、なけらちめ、たくひさそ
つケそさへほに

白狐の呪の詩が社にこだまする。

白狐 

朱右よ、我の呪の詩の力で、社の三本の神木の気を使って、結界をはった

白狐 

封印の大岩は社の南西の位置にある
そなたは社を斜め後ろにして、西の方角を向き黒髪と戦うのじゃ、南側、すなわち、そなたの左側からくる攻撃は、我が結界を使いすべて防ぐ


封印の大岩の上に、舞っていた黒髪が、集まりながら
ゆっくりと動きだした、そして、その動きは徐々に速くなり
一つの塊魂(かたまり)となり生き物の形を成す。

白狐 

蛟(みずち)いや、龍か、思ったより強大な怒りの黒髪の黒龍じゃ

さらに、黒髪の黒龍は、速さを増しながら
一直線に社(やしろ)に向かってくる。

朱右

白狐さん、あんなに大きな龍とどうやって、戦うの?

朱右の足は、がくがくと震え
とても、平常心を保っているようには見えない。

白狐は、とっさに、朱右を抱きしめ一言つぶやいた。

白狐 

そなただけに、辛い思いはさせぬ。我がそなたを守ってやる

抱きしめる時まで優しかった白狐の顔が
一気に厳しくなった。

白狐 

・・・

白狐(びゃっこ)の言葉と、表情から、朱右は
すべてを悟り、覚悟をきめた。
足の震えは止まっていた。

朱右

僕、白狐さんを信じて戦うよ

神 斬 髪 切 り 屋 序の巻 白朱 
3.初斬(ういざん)1

神 斬 髪 切 り 屋 序の巻 白朱 3.初斬(ういざん)1

facebook twitter
pagetop