世の中には、二種類の人間がいるとされる。


凡才と天才


別に凡才だから、天才だからと言って差別するつもりはないが、私はこう思うのだ。

凡才と天才で区別するとしたら、サジェス・エフォールという人間は間違いなく天才だと。

エクリール

おい、朝だぞ。

Zzz......

エクリール

うわぁ~、今日もぐっすり眠ってるわ。全く、毎日起こしに来るのも大変だってのに……

Zzz......

ベッドの中の塊は、起きる気配がない。大方、遅くまで作業でもしていたんだろうが、たとえそうでなくともこの塊は起こすのが大変なのだ。


従者・エクリールはもはや日課となった耳栓を装着する。
ほとんど何も聞こえないくらい外部の音をシャットアウトする。
そして、机の上に置いてある時計をつかむ。
一見普通の目覚まし時計に見えるそれを、エクリールは何も迷うことなくベッドの上に放り投げる。

鼓膜を破らんばかりの爆発音が響き渡る。
エクリールも、つい反射で耳を抑える。
何回起こしても未だに慣れない。
初めての時は耳栓をしていなかったおかげで1週間耳鳴りが止まなかった。

…………う~ん

これほどの轟音でようやく身じろぎするというのだから、つくづくこの塊を尊敬してしまう。
よほど耳が遠いのか、それとも……

ともあれ、毎日これで魔法学校生・サジェス・エフォールは朝を目覚めるのだ。

エクリール

おはよう、サジェス様

サジェス・エフォール

う~~~ん……うん?

サジェスは低血圧で寝覚めが非常に悪い。
起きて1時間は頭が全く働かない。

しかし……

エクリール

これだけを見れば、普通の少女なのだがな……

サジェス・エフォール

う~~~ん……

少しずつ頭が動いてきたサジェスがエクリールに向かってしきりにジェスチャーをしてくる。

両手の親指と人差し指をU字型に伸ばし、それを耳の横で動かす。

エクリール

ん?あぁ

彼女の言わんとすることがわかり、エクリールは耳栓を外す。
瞬間、ウワンと耳に音が戻ってくるが、もはや慣れた。
簡単に、1週間耳鳴りに比べれば、これくらいの不快な感覚など耐えるに越したことはないということもあるが。

サジェス・エフォール

おはよう、エクリール

エクリール

さっきも言っただろう。

サジェス・エフォール

キミが耳栓なんてつけてるから聞こえてないんだろ……

エクリール

……そう、だったな。では改めて、おはよう

サジェス・エフォール

うん。で、早速なんだけど、ボクのメガネどこかな……

エクリール

ん、あぁ

サジェスという少女は近視で、メガネがないとほとんど何も見えない。
同時に、メガネがないと頭の回転力が30%減少という、なんとも迷惑なオプション付きだ。

エクリール

ほら、メガネだぞ

サジェス・エフォール

あ、ありがとう……

サジェス・エフォール

装着完了!!

エクリール

いつ見ても思うが、なぜメガネをつけるとそこまで意識がはっきりするんだ……

エクリール

さて、早速だが、急いでもらおうか。今日貴様は日直らしいではないか

サジェス・エフォール

え!?朝食なし!?

エクリール

…………まだ頭は寝ているな

頭を抱えて重い息を吐くエクリール。

なぜ自分がこんな変人の世話をしなければならないのかと、常々疑問に思う。

しかし、エクリールは知っているのだ。

サジェス・エフォールという少女は、間違いなく天才であると。

To be continued...

pagetop