clover.2
『俺・・・・たたないん、です。』

栞菜

コーヒー、ブラックで。あっ、あとモーニングつけてください。・・・君は?

お気に入りの喫茶店の、これまた一番奥の窓際のお気に入りの席に着くと、即座に注文をする。

菖蒲

んー・・じゃあ、ミルクティーで!

モーニングはどうなさいますか?

菖蒲

せっかくだからつけてください!

かしこまりました。コーヒーとミルクティーをおひとつずつ。それぞれにモーニングをお付けしますね。少々お待ちくださいませ。

ニコリと笑顔を残して店員さんはテーブルを離れていく。

栞菜

・・・で。さっきの続き。お願いってなに?

おしぼりで手を拭きながら向かい側に座る彼に問う。

さっきは1秒でも早くあの場を去りたかったからちゃんと見てなかったけど、よくよく見たら、この子イケメンだわ。

目はクリクリっとしたパッチリ二重だし。

まつ毛長いし。

鼻はスッと高いし。

肌はきめ細かくて白いし。

唇は血色のいい赤色でなおかつ山が綺麗だし。

神は少し明るめのオレンジ系の茶髪で、嫌みがないレベルでワックスで遊ばせている。

アレだ。

ジャニーズにいそうな感じの顔。

ほら、今映画に出てる子。

名前忘れたけど。

あんな感じの顔してる。

菖蒲

えっ、あー・・・、えーと、その・・・・・

そんな彼の目が私の質問を聞いて宙を漂う。

おい。

さっきまでの勢いどこ行ったんだよ。

なんて心の中でツッコイミをいれた数秒後。

意を決したように誰にも聞こえないような小さな声でポツリと彼は呟いた。

菖蒲

俺・・・・・・たたない、んです。

と。

・・・・て、はい?

栞菜

・・・・・は?

彼はテーブルの一点を見つめながら続ける。

菖蒲

いつからか正確な日時は覚えてないんだけど、その、あの、機能・・・しなくなって・・・・・・・。

・・・ごめん、ちょっとまって。

今、10時は10時でも朝の10時なんだけど。

夜の10時じゃないよ?

なにこれ。

なんこれ。

初対面の女とモーニングしながらしゃべる内容?

私、なんてコメントしたらいいの?

栞菜

えっと・・・病院とか・・

お待たせしました。コーヒーとミルクティーでございます。

菖蒲

あっ。ありがとうございます。

飛んでもないタイミングで運ばれてきたモーニングセット。

目の前に熱々と湯気の上がるコーヒーが置かれ、その隣にジャムの添えられたトースト、ケチャップの添えられたスクランブルエッグ、小さなサラダが乗った真っ白なプレートが置かれた。

ごゆっくりどうぞ。

いや、ごゆっくりどうぞ、じゃないから!

と、とりあえず・・・

栞菜

た・・・食べようっか?

一口コーヒーを口に含む。

何とも言えない苦味が口の中いっぱいに広がり、疲れが癒される。

菖蒲

あっ、このパン美味しい!サクサク。ジャムの塗ったトーストとか久しぶりに食べたかもっ!

目の前の彼は美味しそうにイチゴジャムの塗られたトーストを頬張っている。

・・・・さっきの深刻そうな空気どこ行った。

栞菜

・・・ねぇ。さっきの話なんだけどさ。

私は話を戻そうと、コトリとコーヒーをテーブルに置いた。

菖蒲

病院には言ってない。流石に23でEDとか恥ずかしいし。

私にはいいのかよ。

菖蒲

それに、ハッキリ診断されたらそれこそ終わるっていうか、なんていうか・・・うん。立ち直れない的な。

トーストの最後の一口を口の中に放り込み、彼はおしぼりで手を拭く。

栞菜

・・・まぁ、うん。そだね。や、やりたい盛りの時期、だもんね。

いや待て私。

なんのフォローにもなってないだろ。

デリカシーなさすぎだろ。

菖蒲

そう!そうなんだよ!!だって23だよ!?それなりに遊びたいじゃん?相手の中でイけないくらいならまだなんとかなるんだけどね?別に後で自分で処理したらいいし!それこそ、相手だけ満足させたらいいじゃん?けどさ!!たたなかったら意味ないんだよぉぉおおお!!!!

彼は頭を抱える。

おい。

最初の恥じらいどこ行った。

栞菜

・・・女の子相手に、その・・・興奮しないって、こと?

サラダをつつきながら私は質問する。

もはや、ご飯を食べながらする会話じゃない。

が、しかし。

私は全く平気に下ネタトークをご飯食べながらできる。

むしろ、女友達とランチ行ったら7割下ネタだわ。

ちなみにディナーは8割下ネタね。

普通にこれよりももっと生々しいやつ。

ピーって入るやつ。

もろに単語が飛び交うからね。

菖蒲

特定の女の子相手にたたないんだったらまだ希望がもてたんだけどさ。その、なんていうの?自分の手にすら反応しないというか・・・

つまり。

栞菜

自慰すらできない、と?

菖蒲

そういうことデス

ズーン、とあからさまに落ち込む彼。背景にどんより、という点プレが見える。

栞菜

もうそれダメじゃん。こんなところで私なんかに相談してないで、病院行きなさいよ。

菖蒲

いやっ、ちがっ・・・!栞菜ちゃんだから言ったんだよ!!!

・・・・・・・は?

栞菜

ごめん、ちょっと意味が分からない。

菖蒲

相談っていうか、本題はここからっていうか・・・

栞菜

は?本題?えっ、なに、まだこれよりヘビーなのくるの?

菖蒲

いや、ヘビーじゃなくて、むしろライト的な。軽いっていうか、光っていうか

こいつ、light(軽い)とlight(光)を掛けてやがる。

菖蒲

たったんだよ!!

ガタっと席を立ち、大きな声でとんでもないことを言い出した。

to be continue...

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