clover.1
『お願いします助けてください!』

◇◇◇

深夜勤務明けの駅のホーム。

菖蒲

すみませんお願いします助けてください!!!

栞菜

・・・・・・はい?

化粧も落ちて目の下にこれでもかというくらいに
隈を作っている私の目の前で。

菖蒲

何でもします!だから・・・俺を助けてください!!

なぜか全力で土下座をしながら助けを乞われている。




・・・・・・解せぬ。


◇◇◇

午前9時45分。

栞菜

・・・くっそねみぃ

眠たい目をパシパシと瞬きしながら地下鉄の階段を上がる。

ラッシュ時間が過ぎたものの、元々賑わいのある駅のせいか、人がウヨウヨとしている。

重たい鞄を方に掛け直し、トボトボと私、橘栞菜(タチバナ カンナ)は迷路のように伸びる地下街を進む。

それにしても、今日は忙しすぎただろ。

明け方4時に採血30人とかなに。

私死ぬの?

なんて、仕事のことを考えながら地上へと続く最後の階段に足を掛ける。

菖蒲

うぉっ!?

頭上5メートル前方。

規制が聞こえてきて、顔を上げれば、数段先を上っていたはずの細身の男性が私目掛けて落ちてきた。

・・・・・・は?

キャー、と甲高い女の子の声があたり一面に響き渡る中

栞菜

・・・あぶなっ!!

転倒転落、リスク入力、無理死ねる・・・!!

咄嗟に、いつもの癖で自分の重心を低くして彼を受け止める。

栞菜

ぶふっ・・・!?

角度が角度であったため、落ちてきた彼の背骨が鼻に直撃。

普通に痛い。

栞菜

・・・大丈夫?

ジンジンとする花の痛みに耐えながら、いつものように身体の軸を回転させて、彼の足をしっかりと地につける。

菖蒲

・・・・・・・・・・・・。

当の本人は何が起こったのか分からないような顔をしながら、じろじろと私の顔を凝視する。

栞菜

現状把握できてる?怪我ない?大丈・・・

菖蒲

お姉さん名前は!?

ジッと私を凝視してきたかと思えば、今度はバッと私の手を両手で握りしめる。

栞菜

えっ、は・・・?橘、だけど。橘栞菜。てゆーか、なんで手・・・

菖蒲

栞菜ちゃん!!お願いがある!!!

私の台詞を毎度毎度遮り、挙句の果て

栞菜

は・・・?お願い・・・・?てか、なんで土下座?

地下街の階段の踊り場で、いきなり土下座をしだした。

菖蒲

お願いします!俺を助けてください!!

・・・声デカっ。

栞菜

いや、あの、助けてって・・・。さっき、私、君のこと助けたよね?

・・・てゆーか、ここ公共の場!!!

さっきから行きかう人がチラチラと私たちに視線を向けている。

そりゃそうだ。

いきなり土下座しだしたら私だって見るわ。

興味ないふりして全力でガン見するわ。

菖蒲

こんなの初めてなんだ!本当にお願・・・

栞菜

ちょ、分かったから!とりあえず立って。

グイッと彼の腕を掴んで何とか立ちあがらせようと、私は手に力を込める。

菖蒲

ホント!?俺のこと助けてくれるの!?

が、逆にその手を掴まれ、縋り付かれた。

栞菜

いや、もう、分かった!分かったから!!とりあえず立って。目立ち過ぎ。話くらいなら聞いてあげるから。場所変えるよ。

あまりにもぶっ飛んだことをしでかす彼とこのままここでやり取りするほど、私にはライフが残されていない。

なんたって、深夜明けだし。

菖蒲

俺、白詰菖蒲(シロツメ アヤメ)!!

・・・縋り付いたまま自己紹介しないでよ。

栞菜

はいはい。菖蒲くんね。とりあえず普通に立って。はい、スタンダッププリーズ。

縋り付かれた腕に力を込めて、反対側の手で彼のズボンのウエストを掴み、無理やり立たせる。

菖蒲

うおっ!?すご、栞菜ちゃん力も・・・

栞菜

朝ごはん食べた?

彼の感想をぶった切る。

菖蒲

まだ!

栞菜

そう。私、今からこの近くの喫茶店に行く予定なんだけど、話、そこでもいい?

ニコニコと笑顔で頷く彼。

菖蒲

全然いい!むしろ、大歓迎!!よーし!!今すぐ行こう!レッツゴーっ!!!

朝ごはん食べてないのに、どこからその無駄なテンションの高さが湧き出てくるのだろう。

なんて思いながら、私は反対に小さくため息をついた。

to be continue...

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