よく考えてみたら……

静香

昔は結婚してたんだし、
こんなの、何でもないんだし……。

でも、心臓はバクバクしてた……。

静香

これは……、
静香の気持ち?

白拍子の静御前じゃない、ただの高校生の静香の……。

静香

付き合ってたけど、
聡士は手を出さなかったし……。

静香

あれ?

何かが引っかかった。

静香

私が聡士と付き合いだしたのが、去年の12月で、ヤツが聡士とよく話すようになったのは去年のクリスマスごろから。

静香

それで、振られたのが桜の時期。

聡士

ゴメン、
友達が……。

静香

って、聡士が言ってた
友達って……。

もしかして?

静香

……。

いるはずのない場所にいたヤツ……。

静香

まさか、こいつ……。

経次郎

ん? 何?

ケロッとしてるし……。

静香

聡士に聞いたんだけど、聡士と親しくなったのって、去年のクリスマス頃なのよね?

経次郎

そうだよ。

静香

なんで? 1年の時はそんなに仲良くなかったんでしょ?

経次郎

そうなんだよ。でも去年のクリスマス頃から、たまたま会うことが多くてね。話もすごく会うし。

笑い方がわざとらしいし!

経次郎

同じクラスの時に、
もっと話しておけばよかったよ。

経次郎

あいつ、いいヤツだよね。

ネクタイをひっつかんで、引き寄せた。

経次郎

わっ!

静香

あんた、まさか、
私と別れさせるために、
聡士に近づいたの?

経次郎

静香、怖いよ。

静香

答えなさい。

経次郎

まあ、それもあったけど……。

静香

あったけど?!

経次郎

いろいろな恋愛相談されて、
これは心配しなくても大丈夫だなって。

静香

はぁ?!

経次郎

顔、怖いから。

静香

生まれつきよ!
このとんちきが!!

経次郎

はい。
わかりました……。

静香

何が「心配しなくても大丈夫」なのよ?

経次郎

何人か彼女候補がいたから、
柚葉ちゃんを薦めてみたんだよ。

静香

あの子以外にもいたわけ?!

経次郎

聡士、いいヤツだから。

静香

そういうのは「いいヤツ」
って言わない!

経次郎

え?

静香

最低なクズ野郎っていうのよ!!

経次郎

怖いよ、静香……。

経次郎

でも、聡士のおかげで
付き合うことになったんだし。

静香

それとこれとは
話が別。

経次郎

は~い……。

静香

まさかとは思うけど、
今までもこういうことしてたわけ?

経次郎

ん?

静香

聡士がはじめての彼氏で、それまで告白されたことなかったんだけど。

あんまり言いたくなかった……。

経次郎

そうなのか?
静香、美人なのに、
おかしいな。

静香

吐け!

経次郎

そんな大した工作はしていないよ。
ちょっと雑談するだけだし。

静香

やってたのか……。

経次郎

静香、もてるから
大変だったんだ。

経次郎

つんデレ需要って、
やっぱり高いんだな。

静香

つんデレ言うな!

経次郎

ごめん……。

なんか、嫌な予感がするテンション……。
こいつがこうやって謝る時って、ホントにとんでもないこと言うよね?

経次郎

ボクがいない方がいいのなら、身を引くよ。嫌だろ? こういう男。

静香

…………。

静香

ずっと一緒にいてくれるって
言ったじゃない。

経次郎

これこれ、
つんデレだろ?

静香

はぁ?

経次郎

もうほんと、
ズルイとしか言えないよ。

逆切れしてるんじゃないわよ……。

静香

ズルイって何よ!

経次郎

可愛すぎて
ズルイってこと。

経次郎

そんな顔されたら、
離れられなくなるよ。

静香

…………。

経次郎

帰ろうか?
家まで送るよ。

彼は私の手を握って歩きだした。

経次郎

義経が悲劇だと言われてて、
おかしいと思ったんだ。

静香

またその話を蒸し返すのか?
この男は……。

経次郎

だって、ボクはキミたちに会えたんだから、悲劇のはずがないんだよ。

静香

…………。

経次郎

今も昔も、
最高に幸せなんだ。

静香

経次郎……。

でも、そこでハッとした。

静香

たち?

そっと振り返ると……。

慶子


いた……。

静香

ちまいからいるの忘れてた……。

静香

あんた、ずっといたわけ?

慶子

まことに不本意だがな。

家に着いてしまった。

経次郎

じゃあ、また明日。
迎えに来るよ。

静香

うん。

静香

また、明日……。

去っていく、経次郎と弁慶を見送った。

静香

吉野山の時みたい……。

吉野山の雪の中を歩いて行く、義経主従を見送った記憶が、蘇った……。

静香

「すぐに会える」って言ってたけど、会えたのは800年後だった……。

静香

こういうの、
辛いかも。

静香

慣れなきゃ。

静香

経次郎は、明日も来るの。

静香

明日も明後日も明明後日も……、

静香

その先もずーっと。

静香

そうしたらきっと、
いつか大丈夫になる。

静香

でも……、

なんだか、すごく怖い……。

ドアの前で、鍵を探していると、

経次郎

静香。

経次郎が戻ってきた。

静香

何?

経次郎

あ、えーっと……。

経次郎

久しぶりに、ママさんの顔、
見て行こうかなって思って。

静香

別に見なくてもいいでしょ。
私のママなんだから。

ホントは嬉しかった。

静香

気付いて戻ってきてくれたのかもしれない……。

すると、ドアが勝手に開いた。

ママ

静香ちゃん、お帰りなさい~♡
遅いから心配しちゃったよ~。

経次郎

すみません。
遅くなっちゃったから、
ごあいさつしておこうと思って。

ママ

経次郎くんと慶子ちゃんもいるの?
あがってあがって、晩御飯食べてって~w

ママ

今日はね、パパもいるのよ~。
みんなでご飯、嬉しいな~w

経次郎

えっ?

静香

帰ったら?

経次郎

ううん。
帰らない。

静香

経次郎がいると、パパの機嫌が超悪くなるから迷惑なんだけど。

経次郎

静香のお父さんだから、感情表現が逆なんだと思うよ。

静香

何よ、それ……。

経次郎

おじゃまします。

慶子

おじゃまします。

ママ

はいはい。
どうぞどうぞ♡

静香

幸せなのかも……。

そう思った。

ママ

静香ちゃん、早く来て来て~w

静香

はいはい。

ママ

「はい」は一回。

静香

……はい。

静香

自分は2回、
言ってたのに……。

ママ

ママの「はい」には意味があるけど、静香ちゃんのにはないの。

ママ

だからダメなのよ。

静香

そんなに分かり易いのかな?

ママ

はやくいらっしゃい。

ママ

じゃないと、経次郎くん、パパに睨みつけられて石になっちゃうよ。

静香

放っておこうかな。

そして私は、ダイニングに向かった。

大好きな人たちがいる場所へ……。

よく考えてみたら……

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