エミコ

ユキオ、何なの? こいつら



ユキオがハルト達を連れて戻るとエミコはたじろぎながらそういった。

ユキオ

大丈夫だ、この人達にも手伝ってもらう




こわばった表情でユキオが淡々という。


エミコ

はあ? いったいどうなってるっていうのよ、ユキオ!



マスター

悪いが説明してる暇はない、俺たちも忙しいんだ



マスターが横槍を入れる。

エミコ

あんたには聞いてないよ!



忌々しげにマスターを睨みつけるエミコ。

ユキオ

いいから、やるんだ



ユキオがきっぱりといった。

エミコ

私はどうなっても知らないよ!




エミコはハルト達が持ってる銃を横目に苛立ちをあらわにしていった。

ハルト

ほら、これ!






ハルトがユキオにケースに収まったナイフを投げて渡す。



不意をつかれたユキオは、それをなんとか受けとった。

ユキオ

───銃は?



ハルト

駄目だ。ナイフでやるんだ



ユキオ

無理だ───



ハルト

姉ちゃん助けたいんだろが、やれよ



ユキオ

……



ハルト

どうした、怖気づいたか?



ユキオ

……



ハルト

心配するな、お前がやられそうになったら助けてやる。お前に死なれたらこっちも困るからな



ユキオは沈黙したまま何も答えようとはしない。

ハルト

いいか、ヒラヤマが出てきたら、俺たちが逃げ出したって報告しろ。そして隙を見て殺すんだ



マスター

……




低く抑揚のない声。



だがハルトの射抜くような眼光は有無を言わさせないだけの迫力に満ちている。



マスターは黙って二人のやりとりを聞いていたが、今さらながらハルトの言動に釈然としないものを感じていた。

マスター

ハル、殺せって……それじゃあ、お前、ここにいるチンピラと変わんねえじゃねえか……

マスター

店でカジさんと口論になった時、いつもハルは止めに入ったよな 争いごとの嫌いな優しいやつだった

マスター

なのになんだ、今のハルは……

ハルト・・・

時にどす黒い感情
をあらわにして

相手を畏怖させ、
心服させる粗暴で
好戦的な態度 

蒼ざめた炎の如く
危険なオーラを
周囲に放っている



マスター

どうしちまったんだ、ハル
こんな希望の無い国でも、お前は真面目に働いて

いつか生き別れのお袋さん探し出して楽させてやりたいって

不幸な境遇なんてこれっぽっちも感じさせず 

そう言ってたよな

そんな真っ直ぐに生きてるお前に通じ合うものを感じていた 

俺はなあ、そんなお前が好きだった

マスター

───なあ、ハル……

どんな世の中であっても人間として間違ったことはやったらだめなんだ 

いいか 人の心 失っなっちまったら終りなんだ

ハル、お前はあの頃の心を取り戻すことが出来るのか? 



マスター

ハル、何も殺さなくたっていいんじゃないのか? 足刺すくらいでさ、動けなく出来るだろ




マスターは、小声でハルトにいった。


ハルト

駄目だ、状況はそんなに甘くない



マスター

でもなあ、ハル───



ハルト

こいつらだっていつ寝返るかわかんないだろ、そしてあいつ、あのヒラヤマだけは今のうちに確実に潰しとかないと駄目なんだ



マスター

ああ、それは分かるが、殺しはよくない



ハルト

何言ってんだ?



冷ややかな目をしてハルトは続ける。

ハルト

俺は関係ないんだよ、こいつの姉貴やあんたの家族がどうなろうとね





マスター

ハル、お前───まさか本気で言ってんのか?



ハルト

ああ。さっきからあんたと話してるとイラついて仕方ない。大体誰の為だって思ってる?



マスター

……



ハルト

俺は、マスターに世話になったし、兄貴のように思ってたよ。まあ、ハルトがだけど。だから仕方なく手伝ってるんじゃないか



マスター

……



ハルト

家族取り戻すんだろが? そのためなら何だってやるつもりなんだろ。ここのヤツらはあんな物騒な武器持ってて、人殺しなんて何とも思っちゃいねえ、そんな奴ら相手にしてんだ、俺の言ってることは間違ってるか?



マスター

……



ハルト

自分の子供の命がかかってるんだ、父親だろが! 根性見せてみろよ



マスターは言葉が無かった。
ハルトの言葉に頭を殴られたような気がした。

マスター

その通りかもな、ハル。オレの見通しが甘いか。



ハルト

どうせこいつらはオレたちが現れなくてもヒラヤマを拳銃で撃ち殺すつもりだったんだ



マスター

そうだ…… レイコと子供たちを救い出すために…… 家族を失うくらいなら俺は何だってやってやるんだ。レイコやリカやユウジがいない世界なんて生きていても意味が無い。ここはハルの変化に感謝すべきじゃないのか……



マスター

分かったよ、ハル。お前の言うとおりかもな



マスター

ハル、確かに俺は甘かった それは認めるよ 俺も腹を括る、家族を守るためなら何だってやるよ



マスター

でもなあ、ハル 俺は、絶対お前を人殺しだけにはさせねえからな!





52 人殺しだけにはさせねえからな!

facebook twitter
pagetop