橘杏子

あの、なんで私が
コンナ格好シテルンデスカ

思いっきり引き攣ったような笑みを
浮かべると、余計にその男は嬉しそうに
目を細めるのだった。

坂田結城

何か文句でも?

橘杏子

文句しかないんですけど!?
なんなんです!?
私は頼まれたから来ただけなのに
とんだとばっちりですよ!

坂田結城

丁度俺、時間を
持て余してたんだよね。
丁度いいや。
俺の召使いになって

すると男は嘲笑し、席を立った。
ゆっくりだが男は距離を縮める。

坂田結城

別にやめてもいいけど?
まあでも職なし女なんて
誰が好きになるかだけど

そんなの物好きしかいないか、というと
ククッと意地悪そうに笑った。

ある意味、図星過ぎて何も反論できない。

日々充実した日々を過ごしている私には
彼氏というものが数年近くいない。
もう周りは結婚し始めて、
周りの人たちのほとんどは既婚者である。

先日、友人の一人にも先を越された。

橘杏子

絶対この会社ブラック企業だ
一生会社を恨んでやる・・・

私は初めてあったこの人に敵愾心を燃やした。


そんなことを考えていると
赤色の髪の毛が軽く頬に触れる。
目の前には吸い込まれそうな大きな瞳があった。

この状況はまずい・・・?!

反射的に私は赤髪男を突き飛ばしていた。

橘杏子。

特に趣味もなく、特技もなく面白みのない人間。
強いて言えば名前がほかの人より
少し変わっていることくらいだろう。

橘杏子

分かりました!
明日の朝までですね?

すまないねえ。杏子ちゃん

普段は落ち着いた雰囲気で
だがみんなに頼られる

・・・・・
そんな存在に憧れていた時期もあった。


しかしいざなってみると
デメリットしか見当たらない。

橘杏子

ただの雑用じゃねーか

常に平常心を装い、笑顔を絶やさない私は
もう自分が何者なのかも見失うくらい

自分は理想の自分を創り上げた。
だからなのか毎日が憂鬱で仕方がない。

橘杏子

あと一日!!

そんな私にも唯一の楽しみがある。

私は両手でスケジュール表を握りしめ、
確認するなり頬が綻ぶのを感じた。

それは・・・

社長

ちょっと集合してくれ。

遮られたからまた後日話すとしよう。

見た目の悪いこの人は
正真正銘、ここの社長である。
そしてかなりの親バカなのである。

社長を見ていると人は見た目じゃないのだと
つくづく痛感する。

社長

んーと、
急で申し訳ないんだが
海外に赴任することになった。

ざわつくのも無理はない。いつも社長は急だ。
計画性というものがまるでない。

社長

そこで!俺がいない間
仮社長を君に命じる!

僕ですか!?

社長

そう!暫く会えなくなるが
みんなで頑張れよ

橘杏子

いつ海外に?

社長

今日。

橘杏子

今日!?

社長

急に決まったんだよ。

ニッと笑うもののきっと嘘だ。
私が思うに絶対に女絡みだろう。

それと、急に決まったというのも嘘だろう。
きっと咄嗟に出た言い訳に違いない。

橘杏子

無事に戻って
こられるといいですね。

社長

そうだな・・・。あ、そうだ。
お前に用事がある。

橘杏子

なんです?

社長

ちょっと頼まれてくれないか。

そう言って案内したのは会議室だった。

きっと深刻な話か
それか、もしかして昇格の話・・・?


少しの不安と少しの期待を胸に
社長の後に続いて会議室へと足を運んだのだった。

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